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光熱費を抑えながら1年中快適に暮らせる家は、誰もが憧れる理想の住まいといえるでしょう。この理想を叶えてくれるのが“パッシブハウス”です。聞き慣れない言葉ですが、パッシブハウスとはどのような住宅なのでしょうか。
今回はパッシブハウスの説明とそのメリット、そして建築時の注意点を解説します。さらに、パッシブハウス計画に役立つDAIKEN製品もご紹介します。
パッシブハウスとはどんな家?
パッシブハウスは、環境先進国ドイツ生まれの高断熱・高気密住宅で、太陽光や風などの自然エネルギーを活かすため、断熱材や多層窓、熱交換器などを備えた家です。
適切な設計と施工によって、少ない冷暖房エネルギーで1年を通じて快適な室温を維持しやすいといわれ、一定の基準をクリアして、ドイツのパッシブハウス研究所の認定を受けて初めて“パッシブハウス”と名乗れます。
パッシブハウスという言葉は「アクティブ(積極的)に冷暖房器具を使用しない・自然エネルギーをそのまま受け入れて活用する家」という意味合いから、パッシブ(受け身の、受動的な)という意味を持つ名が付けられました。
省エネ住宅に関連するキーワードとしては、国が推進している“ZEH(ゼッチ:Net Zero Energy House〈ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス〉)”が知られています。
パッシブハウスは高断熱・高気密な構造により、自然エネルギーを活用してできるだけそれ以外のエネルギーを使わないことに焦点を当てています。
これに対し、ZEHはすぐれた断熱性能や高効率な設備によって、エネルギー消費を抑えつつ太陽光発電などで再生可能エネルギーを創り出し、年間の一次エネルギー消費量の収支を実質的にゼロ以下にすることを目指す住宅です。
参考:「知っておきたいエネルギーの基礎用語 ~新しい省エネの家『ZEH』」(経済産業省 資源エネルギー庁)
パッシブハウスとZEHは「快適な省エネ住宅」という目的は同じですが、アプローチ方法が異なります。
関連記事⇒「省エネ基準適合住宅とは? 2025年から義務化された省エネ基準と4号特例縮小を解説」
パッシブハウスの基準

パッシブハウスには、3つの住宅性能基準が定められています。
・冷暖房に必要となるエネルギー量:年間15kWh/m²以下(気候条件による例外を除く)
・一次エネルギー消費量:年間120kWh/m²以下
(※一次エネルギーとは、冷暖房を含む換気や給湯、照明なども含めた設備機器のエネルギーを熱量で計算した値)
・気密性能(C値):50Paの加圧時の漏気回数が0.6回以下
数字を見ただけではピンときませんが、これはかなりハードルの高い基準です。
「冷暖房に必要となるエネルギー量が年間15kWh/m²以下」についてみてみましょう。
日本で適合が義務付けられている省エネ基準は、品確法(住宅の品質確保の促進等に関する法律)における断熱等性能等級4です。
年間冷暖房負荷の基準(冷暖房に必要なエネルギー量)は地域によって異なり、東京や大阪などのⅥ地域では年間127.8kWh/m²程度とされています。
これに対し、パッシブハウスとして認められる基準は年間15kWh/m²以下です。一般的な省エネ基準の住宅と比較して約8分の1以下という、きわめて高い省エネ性能が求められるのです。
残りの2項目も同様にハードルが高く、立地や周辺環境も関係するため建築設計だけでクリアするには工夫が必要です。
新築住宅の場合は敷地を選ぶ段階から日当たりなどの環境条件を考慮し、パッシブハウスを実現できる敷地なのかを検討する必要があります。
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パッシブハウスの特長とメリット

高い基準をクリアする必要のあるパッシブハウスには、それだけに様々なメリットがあります。
自然エネルギーを活かす、省エネな家
パッシブハウスの特長は、自然のエネルギーを最大限に活かした建築設計です。
窓の位置や庇(ひさし)、軒(のき)を工夫して計画し、南向きの窓から太陽の熱を家の中に取り込み、冬でも熱を逃がさず日射しだけで暖かい空間をつくります。
夏は日光を遮りながら自然の風を効果的に利用し、涼しさをもたらします。
冷暖房に頼らない、健康で快適な家
高断熱性と高気密性、熱交換型換気システムのおかげで、部屋ごとの温度差が少ないのもパッシブハウスの特長です。
外気の影響を受けにくく、常に空気が循環しているため結露の発生を抑制しやすく、結果として家の劣化が進みにくいと考えられています。
パッシブハウスと同じく、劣化対策や省エネルギー性などを認定基準とする長期優良住宅についてはこちらでも解説しています。
関連記事⇒「長期優良住宅とは? メリット・デメリットと認定基準の条件を知っておこう」
また、カビの発生やダニの増殖を抑え、室内の温度差が小さくなることでヒートショックの要因を遠ざけることにつながるとみられています。
環境にやさしい家
パッシブハウスでは一次エネルギーである化石燃料の消費を抑えた暮らしが可能です。地球温暖化やエネルギー問題が深刻化する現代において、化石燃料に頼り過ぎない生活は、環境にやさしい社会の実現につながるでしょう。
庇や軒に工夫が凝らされ、縁側が取り入れられることも
ドイツで生まれたパッシブハウスは、日本に取り入れられてから、日本の風土に合うように発展してきました。
日本で建てられるパッシブハウスには1年を通して快適に暮らすための工夫として、庇や軒が設けられるケースも少なくありません。庇や軒の出(外壁から軒先までの長さ)は、季節ごとに変わる太陽と日射の角度を計算して設計されます。これによって夏は高い角度からの日差しを遮り、冬は低い角度からの太陽光をしっかり取り込む役割を果たします。
また、日本古来の“縁側”を再評価し、採用する動きも見られます。
縁側は、外気と内気の温度差を緩和する役割を果たします。縁側から庭を眺めたり、家族やご近所の方々と気軽にコミュニケーションを取ったりできる空間としても活用できるでしょう。
古来、日本の住宅に取り入れられてきた縁側がもたらすメリットなどについて、再確認してみませんか。
関連記事⇒「縁側の魅力とは メリット・注意点を踏まえて美しい空間をつくろう」
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パッシブハウスを建てる際の注意点

パッシブハウスの建築にはいくつかの注意点があります。工事にかかる費用に加えて入居後の月々の光熱費や住宅ローンなどと考えあわせ、納得のいく家づくりを進めましょう。
高断熱、高気密、日射、通風などがキーワード
高断熱、高気密、日射の遮蔽(しゃへい)と取得、そして通風の工夫がパッシブハウスの基本的な考え方です。そのため、壁や屋根、床、窓などには断熱性能の高い部材が使用されます。
気密性と通風を確保することで、住宅全体の温度と湿度を調整するためには、熱交換換気システムや高性能な多層窓の導入は重要といえます。
費用の目安と工期の長さ
パッシブハウスの建築コストは一般的な住宅と比べ、15~20%ほど増加すると想定しておきましょう。その理由として「高性能な断熱材や窓などが必要」「高レベルの設計力や施工技術が求められるため、熟練した技術を持つ施工会社を確保しなければならない」「熱交換換気システムが一般的な換気システムに比べて高価格」などがあげられます。
工期の長期化も考慮する必要があります。設計段階での“熱計算”や“日射シミュレーション”が必要になり、高精度の断熱・気密施工が求められ、特殊な機器や建材を使用するのがその理由です。
パッシブデザインという考え方で柔軟に
パッシブハウスの実現は「土地の条件・費用・基準」のいずれもハードルが高いため、なかなか踏み切れない方もいるかもしれません。施工会社には確かな専門知識と技術が求められるので、施工できる会社は限られています。
ただし、パッシブハウスの基準を完全にクリアしなくても、省エネ性能の高い家を建てることは可能です。それが“パッシブデザイン”という考え方です。
パッシブデザインは自然エネルギーを活用して快適な住宅をつくる設計手法で、「高断熱・高気密・日射・通風」を考えた設計がなされます。明確な認定基準はありませんが、パッシブハウスの考え方に沿った設計で家を建てることができるのです。
パッシブデザイン計画をサポートするDAIKENの軒天井材と和風床材
DAIKENでは、パッシブハウスやパッシブデザインの家づくりに寄与する建材を取り揃えています。ご紹介するのは庇に使用できる「ダイライト軒天井材」と、縁側に使用できる和風床材です。
深い庇をおしゃれに演出する『ダイライト軒天井材』</h3>

パッシブハウス、パッシブデザインに寄与する建材としておすすめしたいのが、DAIKENの『ダイライト軒天45』『ダイライト軒天30』です。
軽量で防火性能を備え、鋼製下地でも使用でき、すぐれた耐久性を持ちます。また、『ダイライト軒天羽目板』は、すっきりとしたリブデザインが特徴的な軒天羽目板です。
室内に使用する『グラビオ羽目板V』と同系色なので、屋内外で統一感のあるコーディネートが可能です。
『ダイライト軒天45』は外壁から53~2000mm、『ダイライト軒天30』は53~1820mmと、深い軒の施工が可能で、機能性だけでなく美しい仕上がりにも貢献します。
縁側には天然木の木肌が魅力の和風床材『WPCえんこう』

『WPCえんこう』は天然木突板に特殊加工を施し、<檜(ひのき)柄>や<欅(けやき)柄>を表現した和風床材です。天然木をWPC加工しており、凹み傷、引っかき傷が付きにくいため、杖や車椅子なども使えます(※)。
屋内用で水濡れに特化した製品ではないため、縁側の中でも屋内に取り入れられる“広縁”に適しています。そのほか、和室や玄関などでも使えるのも魅力です。
グレードは、天然木らしい不規則な木目を表現したスタンダードと、美麗な木目が特徴のデラックスをご用意しており、<檜柄>と<欅柄>から色味やインテリアに合わせてお選びいただけます。
(※)キャスターの直接使用は避けてください。
まとめ
パッシブハウスは一般的な住宅に比べると建設コストが高めで、工期も長くなる傾向があります。しかし、「快適で健康的に暮らせる」「光熱費などのランニングコストが抑えられる」などのメリットがあり、長い目で見ると魅力的な建築スタイルといえるでしょう。
なお、高い住宅性能基準を満たす必要があるパッシブハウスですが、パッシブデザインという考え方を取り入れた家づくりをするという選択肢もあります。それぞれの利点と課題を比較検討しながら、省エネに寄与する建材や設備を採用し、人にも環境にもやさしい快適な住環境づくりを検討してみてはいかがでしょうか。
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監修者
志鎌のり子(しかまのりこ)
一般社団法人日本模様替え協会 理事/COLLINO一級建築士事務所代表。日本女子大学住居学科卒業、五洋建設でマンション・ビルの設計監理/内装デザインを10年担当。その後、日本ERIにて住宅検査など10年担当、設計・検査・審査した住戸数は延べ5,000件以上にのぼる。現在は部屋を「機能による空間分け」「動線」「収納」の観点から模様替えする独自のメソッドにより、機能的な部屋づくり/仕組みづくりなどを提案。書籍「家具配置のルール」のほかSUUMO、AERAwithKids、建築知識ビルダーズ、住まいの設計など著書多数。
保有資格:模様替えアドバイザー 一級建築士 建築基準適合判定資格者 住宅性能評価員 建物耐震診断士 フラット35適合証明検査員 など
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