病院とクリニック、それぞれの役割は? 患者様に安心してもらえる診察室づくり
2022年現在、日本全国には約8200の病院と、約10万のクリニック・医院・診療所があります。病院の数は1990年の約1万をピークに年々減少し続けていますが、それに反してクリニックの数は増加傾向にあります。
団塊の世代が75歳以上になる「2025年問題」にもつながる話ですが、今後ますます病院数の減少や医療従事者人材が不足していくのに対し、超高齢化による医療ニーズの増加が予測されています。そこで、厚生労働省は2025年における医療提供体制の将来像を定めた「地域医療構想」を掲げ、病床再編により過剰な病床数を減らしつつ、医療サービスの地域ごとの偏りを改善する取り組みを開始しています。
そのため、今後ますます病院・クリニックの役割が明確に分かれていくことが予想されます。
病院とクリニックは役割が違う?
病院とクリニック、両者の違いは施設内に有する病床数、つまり入院患者用のベッドの数にあります。病院やクリニックの定義を定めた医療法第1条の5第2項で、病床数20床以上を「病院」、無床又は19床以下を「診療所(クリニック)」と定めています。
クリニックの多くは無床ですので、両者の違いは「施設内にベッドがあるかどうか」、つまり入院ができるかどうかにあるともいえます。
●クリニックの役割
そう考えると両者の役割の違いも明確です。クリニックの役割は、軽い病気やケガの治療、慢性的な病気の診療が中心となります。また、このことは私たちが支払う医療費の面からも垣間見ることができます。
医療機関にかかった際に支払う医療費は、診療報酬として医療行為一つ一つに明確に定められており、例えば医療機関で看護師さんに爪を切ってもらう、といった行為でも医療費は発生します。
その診療報酬の中に、いわゆる成人病などの特定の慢性疾患の患者様を診察した際に発生する「特定疾患療養管理料」というものがあります。この保険点数がクリニックと病院では異なり、軽微な怪我や病気の治療でよく行われる処置なども含めると、クリニックの方が病院より点数が高くなる傾向にあります。このことから、国の方針としても軽度の怪我や病気、慢性疾患の長期的な管理など、命に関わる可能性が低いものは病院ではなくクリニックの役割と位置づけているといえます。
●病院の役割
では、病院の役割はどのようなものでしょうか。前述の地域医療構想では、各病院が担う役割を「高度急性期機能」「急性期機能」「回復期機能」「慢性期機能」の4つに分けています。
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高度急性期機能:急性期の患者に対し、状態の早期安定化に向けて、診療密度が特に高い医療を提供する機能
急性期機能:急性期の患者に対し、状態の早期安定化に向けて医療を提供する機能
回復期機能:急性期を経過した患者への在宅復帰に向けた医療やリハビリテーションを提供する機能
慢性期機能:長期にわたり療養が必要な患者を入院させる機能
※引用:厚生労働省「平成30年度病床機能報告の見直しに向けた議論の整理(資料編)」
●病院は入院患者の受け入れ態勢を整える必要がある
病院の定義に「20床以上のベッドを有していること」となっているのも、病院の各機能に入院治療が必要不可欠になることから考えても納得のいくものではないでしょうか。救急の患者のためにも、その機能を有した病院は余裕をもって受け入れ態勢を整えておく必要があります。
例えば、200床以上の大病院にいきなりかかると初診で5000円の自己負担金が発生しますが、それは国が大きな病院を救急対応や高度な治療が必要な患者様向けと位置づけているからです。
救急でない怪我や病気の治療には、
1. まず近くのクリニックを受診し、必要に応じて病院を紹介してもらう
2. 大病院で高度な治療を受け、症状が安定したら再びクリニックで治療をする
という流れが、患者様ご自身にとっても医療関係者にとっても最善の方法であるといえるでしょう。
なお、クリニックからの紹介状を持参して病院を受診する場合、5000円の自己負担金は発生しません。
病院はさらに分類される
この様に、病院とクリニックは明確に役割分担がなされていますが、一言で病院と言っても果たす機能などによりさらに分類されます。
●特定機能病院
「特定機能病院」とは一定の基準をクリアし厚生労働大臣の承認を得た病院で、一般医療機関では実施することが難しい手術や、高度先進医療などの先進的な高度医療を行うことができる病院です。特定機能病院に承認されているのは、各大学病院や国立がんセンター、国立循環器病研究センターなど、全国で82施設しかありません。
●地域医療支援病院
「地域医療支援病院」は、その地域の医療機関を支援する役割を担う病院を指します。一定の基準をクリアし、都道府県知事の承認を受けた病院となりますが、特徴として「地域の診療所や歯科医院から地域医療支援病院へ患者さんを紹介した紹介率」と、「地域医療支援病院からほかの病院や診療所・歯科医院へ患者さんを紹介した逆紹介率」を基準に含んでいます。地域医療支援病院として承認を受けた医療機関の数は、2019年10月1日時点で618施設です。
●救命救急センター
「救命救急センター」とは、救急指定病院のうち、急性心筋梗塞・脳卒中・心肺停止・多発外傷・重傷頭部外傷など、二次救急で対応できない複数診療科領域の重篤な患者様に対し高度な医療技術を提供する三次救急医療機関のことです。
●慢性期病院
「慢性期病院」とは、急性期を脱して容体が安定しているものの、継続的な治療を必要としている患者様を受け入れる病院です。特徴は高齢者や生活習慣病等の持病で入退院を繰り返す患者様が多いという点で、入院期間は比較的長期にわたります。
医療機関の役割と機能で診察室も異なる
これまでご紹介してきたように、役割が異なる病院とクリニックでは、診察室に求められる設備や機能も異なります。
●病院の診察室
病院は多くの医師や看護師・技師が勤務し、診療科も多岐にわたります。そのため診察する患者様は各専門の診療科の診察室で診ることになり、必然的に専門に特化した設備や診察室になることが多くなります。
例を挙げれば、眼科には検査のための専門の設備が多数ありますし、救命救急では救命救急専用の診察室や集中治療室が必要です。
●クリニックの診察室
一方、入院患者様がほとんどいないクリニックでは、比較的軽微な症状を診察することがメインになります。医師が1人というクリニックも少なくないため、診察室も1つしかない場合もあるでしょう。
そのため、1つの診察室で様々な症状の患者さんに対応する必要があり、専門に特化した設備よりも、オールマイティに診察を行える設備が優先されます。
患者様が診察室に求めることは
このように、病院・クリニックの診察室に求められる要素は異なりますが、共通している点として、患者様やその家族はご自身の体調に不安を抱えて受診しているということです。
●患者様は心身共に不調を抱えている
不安を抱えている状態では、普段よりも神経質になりやすく、ちょっとしたことでも気になってしまうものです。もし前の患者様と医師の会話がドアを通して待合室に筒抜けだったら、もし診察室のにおいや暗い照明が気になったら…、患者様は普段よりもさらに神経が過敏になり、さらに不安な気持ちが高まってしまうかもしれません。
また患者さんの状態によっては、足や腕を十分に動かしにくいというケースも考えられます。
●患者様が抱える不安に寄り添う配慮が必要
そうした患者さんに配慮する意味でも、少しの力でも開閉しやすく安全に配慮した室内ドアを導入することや、医師の話が聞き取りやすく、かつ外に会話が漏れないよう居室の遮音性を高め、プライバシーに配慮することが重要です。
求められる設備や機能が異なる病院とクリニックですが、安全性や音配慮は共通して求められる事項です。これを機に診察室の環境を見直してみてはいかがでしょうか。
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