建築のコンセプトとは?作る目的や考え方、注意点│実例紹介

建築におけるコンセプトとは、「その建築が他の建築とどう異なるのか」を一言で表現する指針のことを指します。これは建築設計やデザインの「軸」となり、設計課題を解決するための基礎ともいえます。
コンセプトを明確にすることで設計プロセスにおける目的がはっきりとし、理想に近い建築物の設計が可能になるのです。本記事では、建築コンセプトの考え方のポイントや注意点について詳しく紹介していきます。
建築のコンセプトを作る目的
まず、建築のコンセプトを作る目的について紹介します。プロジェクトの初期段階でコンセプトをじっくり練っておくことで、その後の設計やデザインがスムーズに進みやすくなります。
●頭の中を整理する
建築のコンセプトを作ることで、自身の頭の中を整理できます。アイデアを言語化できると、設計課題に対してどのように解決するのかをクライアントに明確に理解してもらいやすくなるのです。
これにより建築の設計における方向性が定まり、プロジェクト全体に一貫性が生まれるのがメリットです。建築学に基づいた具体的な提案ができれば、説得力のある設計が実現します。
●取捨選択をしやすくする
最初にコンセプトを明確にしておくことで、設計課題に対する解決策を論理的に判断しやすくなります。例えば「自然素材を使用したサステナブルな建築物」というコンセプトで設計する場合、「地域で産出される木材を床に使用する」「再生可能な素材を用いた建材を取り入れる」といったように、建材選びの方針が具体的になります。このように、コンセプトを明確化することで、図面の設計や建材の選定がスムーズに進みやすくなるのです。
●プロジェクトの指針を作る
建築のコンセプトには、プロジェクトチーム全体の考えを統一するという役割があります。設計課題に対して一貫した方針を持つことで、建築物の設計やデザインにおける目標が共有され、全員が同じ方向を向いて仕事を進めやすくなるのです。
建築士が図面を作成する際も、設計コンセプトがチーム全体に共通するガイドラインとして機能します。このようにコンセプトメイキングはプロジェクトの進行をスムーズにし、具体的な成果を生み出すための重要な要素となります。
建築のコンセプトの考え方
ここでは、建築のコンセプトの考え方について紹介します。順序立てて考えることで、目的に適ったコンセプトを生み出しましょう。
●テーマから考える
建築のコンセプトを考える際、一般的にはテーマから出発する方法がおすすめです。例えば「誰にとっても居心地の良い空間を作る」「人と自然の関わりを大事にする」「こだわりの建材を使う」といったテーマは設計コンセプトの核となりやすく、建築設計の方向性を明確にする道標になります。
テーマがある程度大きく設定されていることで具体的な設計案が導き出しやすくなり、個性を際立たせることにもつながるのです。また建築士自身の視点や施主の要望を反映させることで、特色のある建築物を実現できます。
⇒バイオフィリアとは? オフィスで自然を感じられるバイオフィリックデザインの魅力
●課題や問題点から考える
設計課題や問題点から出発するアプローチも、非常に効果的です。例えば「地域発展につながるランドマークを目指す」や「環境に配慮したデザインを取り入れる」といった課題は具体的な方向性を示し、地域や環境のニーズに応える建築物のデザインを生み出すきっかけになります。
これにより地域の特性を活かした設計が可能となり、人々が集まる魅力的な空間を作り出すことにもつながります。近年では、自然環境に配慮した「エコロジー建築」や「サステナブル建築」を設計コンセプトの核に据えた、持続可能な方法や変化を考慮した設計も人気です。
建築のコンセプトの実例
ここでは、建築のコンセプトの実例についてご紹介します。具体的な事例をチェックすることで、建築設計に活かしてみましょう。
●「海を愛する人々が集い、学び、楽しむ場に」 渚の交番 SEABRIDGE/広島県

広島県にある「渚の交番 SEABRIDGE」は、海を基盤とした地域発展を目的に設計された施設です。海沿いという立地を生かし、自然と調和する温かみのあるデザイン性と、子どもから高齢者まで安心して過ごせる安全性を実現するべく、「木」を基調とした設計となっています。
施設内にはカフェやコミュニティスペース、絵本ギャラリーが併設されており、地域の内外から多くの人々が集い、世代を超えた交流が生まれる場所として活用されています。コンセプトメイキングを通じて自然環境との共存を考慮しながら、地域の魅力を引き出す空間設計が実現しました。
より詳しく実例を確認したい方は、下記の記事をご覧ください。
⇒新たなつながりと文化を生み出す「渚の交番SEABRIDGE」(施設概要編)
「渚の交番 SEABRIDGE/広島県」の内容は、上記記事の要約です。
●「人の健康、安全、安心を軸に心地よいオフィス空間をつくる」 須賀工業株式会社 新本社ビル/東京都

東京都にある須賀工業株式会社の新本社ビルは「ウェルネスオフィスの実現」を設計コンセプトとし、社員の健康、安全、安心を最優先にしたオフィス空間の提供を目指したのが特徴です。
具体的にはあえて変化を付けた空間を設計することで、社員が各自の働き方に合った環境を選び、自由に働けるよう配慮されています。多様な空間設計によって具体的な働き方の変化を促進し、心地よいオフィスを生み出しています。
設計のポイントを詳しく知りたい方は、下記の記事をご覧ください。
⇒【前編】ウェルネスオフィスが描き出す、新たな天井表現(オフィスのコンセプト編)
「須賀工業株式会社 新本社ビル/東京都」の内容は、上記記事の要約です。
●「災害に強い庁舎の実現」 八代市役所 本庁舎/熊本県

熊本県の八代市役所本庁舎は「災害に強い庁舎」を設計コンセプトの軸に据え、震災の経験を踏まえた設計が施されています。非常時には地域の防災拠点になるため、安全性の確保が重要です。八代市は古くから林業や木材業が盛んなこともあり、仕上げ材だけでなく天井や床の構造材に地域産材を用いた「CLT構造(※)」を採用しました。これにより、地域らしさと防災面での性能を両立させています。また、内装には土足の出入りにも対応できる耐久性を持ったWPC加工フローリングを取り入れています。
※CLT構造:ひき板を繊維方向が直交するように積層接着したパネル。コンクリートより施工が早く、軽量(同程度の曲げ強度の厚さと比較した場合)、断熱性に優れる(同じ厚さと比較した場合)といった特徴がある
より詳しく実例を確認したい方は、下記の記事をご覧ください。
⇒【前編】公共施設への地域産材活用の新たなアプローチ(設計コンセプト編)
⇒【後編】公共施設への地域産材活用の新たなアプローチ(地域産材フローリング編)
「八代市役所 本庁舎/熊本県」の内容は、上記記事の要約です。
建築のコンセプトを考える際のポイント
ここでは、建築のコンセプトを考える際のポイントについて具体的にご紹介していきます。
●コンセプトは繰り返し考える
コンセプトを決定した後も、繰り返し考え続け、アップデートすることが大切です。客観性を持つことで設計課題に対する多角的な考察を促し、改善点や問題を見つける手助けになります。
設計コンセプトが具体的に形になる過程で、建築士とクライアントの考えに差が生じることは珍しくありません。その際には多角的な視点で再検討することで、より良い最適解が見つかりやすくなります。このように建築設計における「繰り返し」のプロセスは、最終的な成果に結びつく重要なステップです。
●具体的でわかりやすいコンセプトを目指す
建築のコンセプトを考える際は、具体的でわかりやすいコンセプトを目指すことが重要です。コンセプトが漠然としていると内容が伝わりにくく、クライアントや関係者とのコミュニケーションにおいて誤解が生じる可能性があります。第三者がイメージしやすいように、わかりやすく言語化しましょう。
例えば「座り心地のよい椅子」という表現では漠然としてしまいますが、「身体にフィットする形状の椅子」とすることで具体的なデザインの方向性が伝わります。設計課題を解決するためには明確なコンセプトが不可欠であり、その結果として得られる評価やフィードバックも具体的なものとなります。
●コンセプトの後付けをしない
コンセプトを後から考えると、設計案との一貫性が失われる可能性があります。これによりコンセプトと設計案に矛盾が生じれば、ちぐはぐな印象を与えてしまうことになりかねません。
そのため、早い段階からコンセプトと設計案を並行して考えることが推奨されます。設計課題に対する方向性が明確になることで、具体的な方法やアイデアを検討する際にも常にコンセプトを意識できます。設計プロセス全体を通じて一貫したメッセージを伝えるためにも、コンセプトと設計案の整合性を確保するようにしましょう。
建築コンセプトで「軸」を定めよう
本記事では、建築コンセプトの決め方や注意点について紹介しました。一貫したコンセプトが読み取れる建築は、全体が調和した美しい仕上がりになります。またコンセプトを考える際は、世の中にある他の建築物を参考にしてみることで、独自性の高いコンセプトのヒントになるかもしれません。
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