国産材を公共・商業施設へ。
事例から学ぶ! 地域産材を活用した施設設計のポイント

国産材

国産材とは、日本国内で育てられ、製材された木材のことを指します。そして日本は国土面積の約7割が森林で覆われている世界有数の森林大国。そんな豊かな木材資源に恵まれているにも関わらず、日本で使用される木材の多くが外国産材であることをご存知でしょうか。しかし、その外国産材も、「ウッドショック」の影響による価格高騰により、海外からの木材輸入量が大きく減少しています。

この国産材の低使用率と外国産材の輸入量減少という2つの課題を解決するためにも、国や自治体では、国産材の安定的な確保や、木材の地産地消を進めるために公共・商業施設を木質化するなど、国産材・地域産材の活用促進を支援する動きが推進されています。
この記事では、日本の森林の現状、国産材のメリットをわかりやすくご説明します。さらに、国産材・地域産材を活用した建築に数多く携わってきた、株式会社スウィング(一級建築士事務所)の小泉 宙生氏による“国産材を施設設計に活用する際のポイント”をご紹介します。

  • お話を聞いた方

  • 小泉 宙生氏
  • 株式会社スウィング一級建築士事務所
    共同代表
    小泉 宙生 氏
    大阪芸術大学芸術学部建築学科卒業後、複数の設計事務所で国産材・地域産材を利用した住宅設計を学ぶ。2003年より奈良県吉野郡の材木店に在籍しながら建築の設計に携わり、2006年に共同代表の金山 大氏と共に一級建築設計士事務所として同社を立ち上げる。

日本の森林の現状

世界有数の森林国であり、木造建築の歴史が長い日本。森林率はOECD諸国(加盟34カ国)では3番目に高く、世界的に森林の減少が進む中、日本では森林面積が維持されています。 では、実際に国産材の自給率はどれぐらいなのでしょうか。

林野庁によると、過去、自給率が最も低かった年で18.8%、最近でも約40%と低い水準です。こうした事態を踏まえて、農林水産省は「森林・林業再生プラン」を2009年に策定し、「10年後の木材自給率50%以上」を目標に掲げました。しかし、2016年2月、林野庁は2020年には木材自給率50%の目標に届かない見通しであることを発表し、自給率の目標達成時期も5年先送りするなど、まだまだ外国産材の輸入に頼っているのが現状です。

国産材

国産材が使用されない理由

なぜ国産材が使われないのか? それにはいくつかの理由があります。ひとつは「国産材は価格が高い」というイメージが強く付いてしまっていること。そして製材品をしっかりと乾燥させる必要があり、また、安定供給が難しいというイメージがあるなどが、国産材が活用されない理由としてあるようです。

林野庁によると、住宅メーカー等へのヒアリングになりますが、国産材を利用しない主な理由として、「外国産材に比べて価格が高い」、「必要な時に必要な量が確保できない」などの調査データがあります。詳しく中身を見てみましょう。

国産材

引用:林野庁

国産材は価格が高い?

国産材は外国産材に比べて価格が高い。65%の方がこう思っているようです。確かに、以前までは海外で大量加工された外国産材は、国産材に比べて低価格な時はありました。しかし、ウッドショックの影響で世界的に木材需要が伸び、その結果として外国産材の価格が急騰。国産材と外国産材の価格差は小さくなっており、価格変動リスクも少ない国産材への注目が高まっています。

国産材は流通量が少ない?

必要な時に確保ができない。40%を超える方がこう思われています。日本は実は森林大国であると前述しました。しかし、森林資源はあるものの、それを伐採・加工する人員が足りないのが現状です。この必要な時に必要量が確実に手に入るかどうかを不安に思い、国産材への切り替えに踏み切れないのが理由のようです。
参考:林野庁「林業労働力の動向

国産材は品質が劣る?

35%を超える方が、外国産材にくらべて強度などの品質が劣ると思われているようです。これはJAS認証など公的な品質保証を受けている木材が全てではないことや、認証に費用がかかることも影響しているようです。しかし、国産材の中でも銘木と呼ばれる材料は海外でも高値で取引されているように国産材の品質は評価されています。
参考:林野庁「国産材製品の生産及び利用等

反対に、外国産材が積極的に使われている理由として、種類が豊富でかつ安価で手に入りやすいという点があります。外国産材には、米松やウォルナット、チークなど様々な種類の木材があるため、好みや用途に合ったものを見つけやすく、また流通量も多いため、ほしい時にほしい形状のものを安く購入することができます。

国産材

国産材のメリット

では、国産材を活用することでどのようなメリットがあるのかを見ていきましょう。

CO2削減に貢献

国産材は海外からの輸送にかかる燃料が不要なので、CO2を削減できます。

災害防止にもつながる

国産材の活用が進むと手入れされる山が増えるため、土砂崩れの災害を減らし、結果的に森林保護に貢献することに繋がります。

林業・製材業の活性化に貢献

地元の木が使用されると林業が活性化されるため、人材不足の現状から新たな雇用が生まれ、地域の暮らしを支えて盛り上げることに繋がります。

地域経済、日本経済が発展

国産材の活用は、地域の林業を促進し雇用を創出、循環型経済を実現します。また、輸入依存の低減により経済の自立性を高め、国内の資源を活用することで環境負荷の軽減と国産材産業の技術革新を促し、日本経済全体の持続可能な成長を支えます。

国産材は優秀な建築材

地域の人々の暮らしや、環境にやさしい国産材ですが、建築材としても優れたところがたくさんあります。

腐食に強く長持ち

四季があり寒暖差の激しい気候の日本で育った国産材は、高温多湿の環境による腐食にも強いものが多く、耐久性があり長持ちをするという特徴があります。

年輪が美しい

国産の中でも代表的な杉や桧といった針葉樹は、手間暇をかけて育てられて生み出される年輪が美しく、それを活かした木造建築は日本文化そのものと言えるでしょう。

このように、建築材としても優れた特徴を持つ国産材は、長期間使用され多くの人に愛される公共・商業施設などの建築物に最適の素材といえます。

国産材

オピニオンリーダーに聞く、国産材活用のポイント

国産材

ここからは、国産材・地域産材を活用した建築に数多く携わってきた「株式会社スウィング 一級建築士事務所:小泉 宙生氏」に伺った、国産材を使った木造建築を実現させるためのポイントと活用のヒントを、国産材の魅力と活用におけるハードルの超え方、そして“ネットワーク構築”という視点で事例を交えながらご紹介します。

国産材・地域産材の3つの魅力

木材の一大産地・奈良県吉野出身であり、幼少期から木材に触れてきた小泉氏は、国産材・地域産材には3つの魅力があると仰っています。

「材料」としての魅力

木が持っている温かさや柔らかさ、樹種ごとの特徴的な風合いや匂いなど、材料そのものとして国産材・地域産材は魅力がある。

「工法・構法」としての魅力

木造にはコンクリートや鉄とは違う力強い表現やデザインがあり、建築計画の自由度など、木を使うからこそ表現できる工法・構造の魅力がある。

「文化」としての魅力

日本には法隆寺のように何百年という歴史を持った木造建築があります。そうした文化として日本人の心の原風景として深く根差した建築が木造建築であり、それを支えているのが木材である。

こうした国産材・地域産材の魅力を設計者、建築士自身が実感したうえで、「だからこそ自分は国産材・地域産材を使いたいのだ」という動機付けを自身の中で確立してほしいと、小泉氏はおっしゃっていました。この動機付けが国産材・地域産材を活用していく上で、重要な根幹になるようです。
実際に国産材・地域産材の活用を考える際、自分の中での動機とクライアントに納得してもらうための理由が必要になってきます。
昨今だとSDGsや低炭素化に関する効果を謳った「環境問題」や、鉄筋コンクリートに比べて「コスト削減」などの理由が語られることが多いですが、クライアントに応じて使い分けていくのが賢明です。その上でも、自分の中での国産材・地域産材を使いたい動機が大切です。
「木が好きだ!と公言していると、木に関する仕事やノウハウ、仲間が増え、“国産材・地域産材を活用する際のハードル”も乗り越えられる」との話が印象的でした。

国産材

小泉氏のセミナー資料:「地域産材を活用する理由」

国産材・地域産材活用のハードル

国産材・地域産材を実際に活用するには、様々なハードルがあると、小泉氏はおしゃっていました。どういったハードルが存在するのか、以下の3つの視点から、具体例を挙げながらご説明します。

1.「コスト」

「発注量が多ければ単価が下がる」と考えられがちですが、木材の場合は大量生産する印刷物のようにはいきません。モノの体積が大きくて在庫することが難しく、また時間がかかる乾燥の工程を踏まなければならないため、在庫以上の数量を一度に発注すると逆に高くなります。大きなプロジェクトを行う際には上記を留意した上で早めの発注を心がけておくことが大切です。また、部材別でかかってくるコスト問題もあるため、木材に関する知識を持って判断・選択していくことが重要です。

2.「スケジュール」

ゼネコンが決まってから着工、木材の発注までに時間がないことが大半ですが、まず木材の乾燥に膨大な時間とエネルギーを割くことになります。特に、杉は含水率が200%と非常に高く、乾燥に時間がかかります。そこで「人工乾燥」という技術を使う選択肢がありますが、木材が痛むというデメリットも。対して、「天然乾燥」は上記のデメリットが避けられる反面、プロジェクトの初期段階から材木屋に必要な数量を伝えた上で、半年以上も天日干ししなければなりません。2つの技術を組み合わせるなどの工夫もできますが、使用する木の状態や乾燥技術を運用する方の技術・知識によっても結果が大きく変わります。これらの他にも多くの乾燥方法が開発されており、設計者がすべて理解して進めることは困難ですが、知識として覚えておきたい点です。
次に「規格寸法」の問題があります。丸太は3mまたは4mの長さを基準にしているため、それ以上の長さがほしい時は材木屋に早めに伝えておく必要があります。シビアに想定しているヤング係数がある場合も、事前に工場で計測して確認しながら進めると良いでしょう。

3.「技術」

国産材・地域産材を活用する場合、特殊な計算や加工を必要とする構造形式は極力避け、一般的な木造住宅を建てる技術である「在来軸組構法」を採用することを推奨しています。それにより、構造部材やプレカットの加工コストを抑えられ、さらに地域の工務店や大工に依頼しやすくなるため繋がりも深くなり、建築費用全体を地域へ還元しながら木造建築を実現することが可能になります。
木構造を得意とする構造設計者が少ない中、自身が国産材・地域産材の事情をよく知り、上手く活用する技術を持つことが重要です。

ネットワーク構築がプロジェクト成功のカギ

国産材・地域産材を活用する場合、人と人を繋ぐネットワークが重要ということを、小泉氏はおっしゃっていました。以下は、国産材・地域産材に関わるプレーヤー間のネットワークにおける“情報の流れ”の一部を表した図です。

国産材

小泉氏のセミナー資料:「ネットワーク構築について」

一般的に見積をする際、設計者から施工者であるゼネコンや工務店に図面を渡し、そして施工者はその見積を取るために大工や家具屋、建具屋に図面から拾い出した情報を伝えていきます。しかしその段階で“相見積”が発生した場合、2社3社とさらに枝分かれすることに……。最終的に材木屋に情報が来る時には、同じような情報が山ほど届くことになります。

他にも、すべての業者が必要な材木の長さを図面より余裕を持って伝えることで、最終的に材木屋に伝わる頃には材料の長さや大きさが膨らんでいってしまうという事態が発生したり、材木屋から質問があった場合にも、複数の業者を介して設計者へ情報を伝達しなければならず、場合によっては確かな回答が得られないという事態も起こり得ます。

そこで、正確かつリアルタイムな情報のやり取りをするためには、設計者と材木屋が直接繋がることが重要なカギとなってきます。仮に直取引が叶わなくとも、設計者が材木屋に会いに行き、図面の寸法や意図を伝えるプロセスがあれば、より良いネットワークが構築できるのではないでしょうか。
もう少し具体的に、ネットワークを築くポイントをお伝えします。

1.キーパーソンと出会う

「建築、設計を理解して協力してくれる人物」と出会うこと。
キーパーソンを介して材木屋の情報や工場を紹介してもらうなど、繋がりが増えるきっかけになります。

2.目的別に関係を広げていく

木工・職人、仕上げ材・加工材など、各専門家と繋がることで目的に応じたネットワークが広がります。

3.お金の流れとスケジュールを考える

ゼネコンに任せっぱなしではなく、支払いの流れとタイミングに目を光らせることで、建築士の目指す予算と質に見合った結果が手に入ることに繋がります。

4.既にあるネットワークを活用する

1~3の実行が難しい場合、国産材・地域産材を使った建築を得意とする工務店を見つけて発注するという方法もあります。既にあるネットワークを利用し、材木屋や製材所から工務店を紹介してもらうのも良いでしょう。

このように無駄とストレスのないネットワークを構築することが、国産材・地域産材による建築プロジェクトを成功させる第一歩です。

国産材

小泉氏のセミナー資料:「ネットワークを築くポイント」

“棟梁“としての役割を担う設計者、建築士。

国産材

「設計者主導で進められる現代の建築においては、設計者がかつての“棟梁”としての役割の大部分を担うことになり、国産材・地域産材の建築を実現するためには、活用の知識を蓄え人脈を作り、自身がキーパーソンとなっていくことが今後必要となってくる」と、小泉氏はおっしゃっていました。今後皆様が、国産材・地域産材を活用する中で、こうした意識に立ち、現場をリードしていくことが必要となってくるのではないでしょうか。

リアルな物件で数多くの国産材・地域産材を活用されている小泉氏の生の声、現場の声が実例資料とともに学べるウェビナー「事例から学ぶ!地域産材を活用した施設設計のポイント」。 今回ご紹介した内容に関して詳しくお知りになりたい方は、ぜひ会員登録をしてウェビナー動画をご視聴ください。

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