インクルーシブな商業施設づくり 誰ひとり取り残さないインクルーシブ防災を目指して

インクルーシブ防災

世界では、あらゆる人が排除されないインクルーシブな社会を目指す動きが広がっています。この動きは防災の現場にまで浸透し、「インクルーシブ防災」という言葉も広まりつつあります。
これまで数多くの自然災害を経験している日本において、インクルーシブ防災の実現は国や自治体のみならず、民間の商業施設にとっても非常に重要な課題です。
本記事では、インクルーシブ防災の概要と、インクルージョンやインクルーシブデザインとの関連性、インクルーシブ防災を実現するためのポイントなどをご紹介します。

誰も取り残さないインクルーシブ防災とは

インクルーシブ防災

インクルーシブ防災とは、「どのような属性を持った避難者も取り残さない」とする防災の考え方です。例えば、車椅子の高齢者にとって、段差があるうえに狭い仮設トイレは「あっても使えないもの」です。また、聴覚に障がいのある人は避難先の指示が上手く聞き取れず、食料がいつ配られているのか分からないかもしれません。このように、障がい者の方や高齢者などは、避難生活において困難に直面する可能性が多々あります。
誰も取り残さないインクルーシブ防災を目指すには、避難所生活がしづらい災害弱者に対する合理的な配慮が必要です。

インクルーシブ防災という概念が広まるきっかけとなったのは、2015年に仙台で行われた「第3回国連防災世界会議」といわれています。会議では、これまで取り上げられなかった障がい者の防災に焦点が当てられました。会議の4年前、日本は東日本大震災を経験し、その中で数多くの災害弱者が死亡しています。実際に、岩手、宮城、福島3県の死者における高齢者(60歳以上)の割合は、約66%でした。また、障がいを持った方の死亡率は一般の約2倍というデータもあります。こうした事実を受けて、国際社会でインクルーシブ防災への対応が求められるようになりました。

インクルーシブ防災の実現とインクルーシブな社会

インクルーシブ防災

インクルーシブ防災の背景には、インクルーシブ(インクルージョン)な社会という考え方があります。インクルーシブな社会とは、多様な背景を持つ人々が互いに認め合う「誰も排除されない社会」のことです。ここでいう多様な背景を持つ人は、障がい者の方や高齢者だけではありません。幼児、外国人、女性に対する観点もインクルーシブ社会の実現には必要です。

例えば、女性が避難所で過ごすうえでの課題として、炊き出しや清掃などの業務を無償で担当させられる、性暴力やセクハラの被害に遭いやすい、安心して着替えられる場所がないなどが指摘されています。

このような女性視点の課題だけでなく、インクルーシブ防災を実現させるためには、障がい者の方や高齢者など、あらゆる人々の声を地域の防災対策に取り入れることが必要です。このような考え方は、開発段階からユーザーの意見を取り入れていくインクルーシブデザインに共通するものがあります。

商業施設にインクルーシブ防災を

インクルーシブ防災

様々な人々が数多く集まる商業施設は、誰もがアクセスしやすく、滞在しやすいインクルーシブな施設であるのが基本です。

ここで、インクルーシブ防災を進めるためのポイントを整理してみましょう。

1.避難場所への配慮
授乳室や男女別の更衣室、車椅子が通行・回転できる通路の幅などを確保します。あらかじめ避難所に障がい者用のスペースを設けておくことも考えましょう。出口に近い壁際の場所なら、車椅子の人でも出入りしやすくなります。

2.専門機関との連携
避難所に弱者を支援できる人材が揃っている可能性は高くありません。もし、避難所内で対応できない問題が起こった場合は、専門家に意見を聞くべきです。そのためにも、障がい者支援センターなど、専門機関の連絡先を用意しておき、いつでも連携できるようにしておきましょう。

3.備蓄品の拡充
通常の備蓄品に加えて、災害弱者、マイノリティ用のものも準備します。例えば、聴覚障がい者の方用のメッセージボード、介護食、おむつ、おしりふき、外国語で書かれたヘルプカードなどが考えられます。

これらのポイントを踏まえた環境を整える際には、前述したように災害弱者やマイノリティの意見を収集し、反映していくことが大事です。当事者の声を聞くことで、今まで気が付かなかった意外な問題点が見えてくるかもしれません。

もちろん、誰もが安全に避難できる環境を確保するためには、建物そのものの防災性を高めることも必須です。建物の防災性を考えたときに重要となるのが、天井の耐震性です。天井が脱落すると、下にいる人々に多大な被害をもたらします。現在は、高い耐震性能や不燃性能を備え、なおかつ意匠性も高い天井材もあります。このような建材の採用も検討し、安全な商業施設づくりを目指しましょう。

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