インクルーシブデザインの意味とは ユニバーサルデザインとの違いとピクトグラム活用
目次
近年、インクルーシブデザインという、多様性を視野にいれたデザイン手法が広まっています。それに似たものとしてユニバーサルデザインがありますが、これらはどのような違いがあるのでしょうか。 本記事では、インクルーシブデザインとユニバーサルデザインの違い、また、ユニバーサルデザインのコンセプトを象徴するピクトグラムが、インクルーシブ社会の構築が必要とされている時代に、どう進化しているのかもご紹介します。それらを踏まえ最後に、インクルーシブデザインと合わせて、共生社会の空間づくりを支える施設整備などのハード面を考慮した環境整備についてご提案いたします。
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―インクルーシブに関する記事―
・インクルーシブとは ダイバーシティ&インクルージョンとの違いと実現を支える環境づくり
インクルーシブデザインとは ユニバーサルデザインとの違い
インクルーシブデザインとは、これまで製品開発のターゲットから除外されがちだった多様な背景を持つ人たちとともに、企画開発を進めるデザイン手法のことです。例えば、働き盛りの健康的な日本人をターゲットにしたデザインは、障がい者の方や、高齢者の方、外国籍の方にとって、使いづらい可能性があります。このように、特定の性質を持つ方が排除されないデザインを作り上げていくのが、インクルーシブデザインの特徴です。
インクルーシブデザインと類似の言葉に、ユニバーサルデザインがありますが、どちらも「誰もが使いやすい製品づくり」を目指す点では同じです。
2つの言葉の違いは、手法やプロセスに表されます。ユニバーサルデザインの作り手はデザイナーであるのに対して、インクルーシブデザインでは、実際に製品を使用するユーザーの意見を、開発初期段階から積極的に反映していくという違いがあります。また、ユニバーサルデザインが「多様な人々が使える1つの製品」を作ろうとするのに対して、インクルーシブデザインは「特別なニーズを持つ一人一人」を出発点にデザインを考えていきます。そのため、インクルーシブデザインを使うと特定の人の課題解決を糸口として、別の視点から物事をみることができ、結果的に、あらゆるニーズを考慮し、バリエーションに富んだ製品が生み出される可能性があります。
ユニバーサルデザインを象徴するピクトグラムとは
ユニバーサルデザインを象徴するものに、ピクトグラムがあります。ピクトグラムとは、表現したい対象のイメージを文字以外の単純な図や記号で表したサインのことです。身近な例では、非常口やトイレのマークがピクトグラムに当たります。
ピクトグラムを使えば、文字が読めない外国籍の方や子どもでも「それが何を表しているのか」理解できるでしょう。また目の悪い高齢者の方やディスレクシア(読み書きが困難な障がい)の方にも情報を伝えやすいです。
このような特長をもつピクトグラムは、1960年代以降、言語の壁を超える視覚記号として注目されてきました。日本では1964年の東京オリンピック時に公共施設に導入され、誘導や案内に役立ち、現在に至るまで、ユニバーサルデザインとして幅広い領域で使用されています。
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―ユニバーサルデザインに関する記事―
・ユニバーサルデザインが医療施設に求められる理由 バリアフリーとの違いとその概念
・ピクトグラムでわかりやすく! ユニバーサルデザインを高齢者施設に
インクルーシブデザインの時代、サイン表示はどう変わる?
ピクトグラムは、世界中の人が視覚的に認識できるという特徴がありました。では、誰もが尊重されるインクルーシブデザインの時代に、サイン表示はどのように進化していくのでしょうか。
そのヒントとなる事例に、2020年の東京オリンピックで登場した「ブレイル・ノイエ」という書体があります。ブレイル・ノイエは、アルファベットやカタカナなどの視覚で認識できる文字の上に、触覚で言葉を読み取れる点字を組み合わせたものです。もともと点字は、視覚障がい者の方に配慮した特別な文字であり、点字を学習していない目の見える人にとっては全く意味が理解できません。一方で「ブレイル・ノイエ」なら、点字を読める人も読めない人も同じ文字を共有できます。「ブレイル・ノイエ」は視覚障がい者の方と共生していくインクルーシブ社会へのビジョンを具現化したデザインといえるでしょう。
インクルーシブな時代の空間づくりとは
インクルーシブ志向の時代に公的な空間に求められるのは、多様な人が安全かつスムーズに滞在、移動できることです。 ピクトグラムやブレイル・ノイエは、様々な特性を持つ方の案内に効果的なデザインと考えられ、これらのサインを公共施設に表示することは、インクルーシブ社会を実現するための一助となるでしょう。
しかし、そうした社会を実現するためには、サインを各所へ設置する事以外にも、対策を講じていかなければならない点があります。
その一つとして挙げられるのは、目的地のサインをみつけたとしても、実際にその場まで安全に移動できるかどうかという視点です。
例えば、滑りやすい床や重たい扉のある施設は、高齢者の方にとっては危険で利便性が悪いものです。このような場での対策として、滑りに配慮した床材を採用したり、軽い力でも開閉できるドアに差し替えることが考えられます。これにより、高齢者の方は安全かつスムーズに移動できるようになるでしょう。
このように、インクルーシブデザインやピクトグラムを取り入れると同時に、誰にとっても安全な環境となるハード面への配慮を行っていくことも重要です。
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