これからの子どもに必要な「生きる力」 文部科学省による新学習指導要領が目指すものとは

新学習指導要領

文部科学省は2020年度から新しい「学習指導要領」をスタートし、その内容を子どもたちの「生きる力」を育むものとしています。今回はこの取り組みが始まった背景と、新学習指導要領が目指している資質・能力の「三つの柱」の各目標などをご紹介し、未来を担う子どもたちが安心して学べる環境づくりについても提案します。

子どもたちに「生きる力」を身につけさせたい

新学習指導要領

科学技術の発展や社会のグローバル化などにより、私たちを取り巻く社会環境は非常に速いスピードで変化しています。ニュースなどでAIにとって代わられる仕事が度々話題となっているように、これからの社会を生き抜いていくには、与えられた情報を処理するだけでなく、自分で価値を創造する能力が重要になってきます。文部科学省が提唱する「生きる力」が指すのは、変化の激しいこれからの社会に適応する力のことです。

子どもたちの学習到達度をはかるための調査に、OECD生徒の学習到達度調査(PISA調査)があります。これはOECD加盟国(37か国)の多くで実施されている義務教育の終了段階にある15歳児を対象とした調査で、子どもたちの数学的リテラシー・科学的リテラシー・読解力を検証するだけでなく、参加国と比較した自国の子どもたちの学力水準や学習傾向を知ることができます。

2022年の調査で日本は数学的リテラシー1位、科学的リテラシー1位、読解力2位とあり、3分野の全てにおいて前回の調査より平均得点が上昇しました。要因としては現行の学習指導要領を踏まえて授業の改善が進んだことや、学校におけるICT(情報通信技術)環境の整備が進み、生徒が学校におけるICT機器の使用に慣れたことなどが考えられます。ただし、OECDは新型コロナウイルスによる休校期間が他国に比べて短かったことが影響した可能性があると指摘しています。

これからの社会は、これまでよりさらにグローバル化が進むことが予想されます。「生きる力」は、子どもたちが将来、世界中の人々と競争や協力をおこない、より良い社会をつくっていくために必要な力です。未来を担う子どもたちの「生きる力」を育むことが、今を生きる私たちの課題といえるでしょう。

知・徳・体とは

新学習指導要領

文部科学省は2020年度からの新しい学習指導要領における「生きる力」を、「知・徳・体のバランスのとれた力」と表現しています。

また、新しい学習指導要領が目指す「生きる力」は、言い換えれば「自分で考え、行動する力」であり、情報化が進む現代社会において、「生きる力」に含まれる「知・徳・体」の3つは、これからの教育にますます求められる要素といえるでしょう。

では、「生きる力」における「知・徳・体」とは具体的に何を意味するのでしょうか。

「生きる力」における「知」は、幅広い知識や技能、学力を意味します。基礎的な学力を身につけるとともに、基礎的な知識や技能を活用し、自ら考え、判断し、表現することで、様々な問題と積極的に向き合い、解決する力といえるでしょう。PISA調査から見た課題や対策については、下記でご紹介していますので、こちらもご確認ください。
⇒「キャリア教育で子どもの生きる力を育む! PISA調査から見た課題と対策法

「生きる力」における「徳」は豊かな人間性を意味します。人間性においての豊かさとは、多様な価値観をポジティブに捉える力であり、豊かな人間性を養うためには、自らを律しつつ、他人と協調することや、他人を思いやる心、感動する心が必要です。

「生きる力」における「体」とは、文字通りの健康な肉体を意味します。「知」や「徳」を養い、たくましく生きるためには、健康的な心身が欠かせません。

「知・徳・体」それぞれをバランス良く育てることで、変化の激しい現代やこれからの時代を生き抜くための「生きる力」が育まれるのです。

新学習指導要領が目指すもの

新学習指導要領

子どもたちの「生きる力」を育むには、知(確かな学力)・徳(豊かな人間性)・体(健康・体力)をバランス良く育成することが大切です。新しい学習指導要領では「生きる力」を育むため、子どもたちに身につけさせたい資質・能力を以下の「三つの柱」にまとめています。

・学んだことを人生や社会に生かそうとする「学びに向かう力、人間性など」
・実際の社会や生活で生きて働く「知識及び技能」
・未知の状況にも対応できる「思考力、判断力、表現力など」

三つの柱を身につけるために新しい学習指導要領で重視されているのが、主体的・対話的で深い学び(アクティブ・ラーニング)です。周りの人と一緒に考え、新しい発見を生む授業や、見通しを立てて粘り強く取り組む授業などが、その一例として挙げられます。アクティブ・ラーニングは、これまでの詰め込み教育やゆとり教育とは違う、新しい学びのかたちといえるでしょう。

また、新しい学習指導要領には小学校3・4年生から英語に親しむこと、論理的な思考を育むために小学校からプログラミング教育をおこなうことなどが盛り込まれています。自分の頭で論理的に考え、世界中の他者との相互理解に努める、「生きる力」を持った子どもの育成を目指しているのです。

そもそも学習指導要領とは?

新学習指導要領

ところで、そもそも学習指導要領というのはどのようなものなのでしょうか。
学習指導要領とは、どこの学校でも一定の教育水準を保てるよう、文部科学省が定めている教育課程(カリキュラム)の基準です。教科書や時間割もこれをもとにつくられます。

学習指導要領は約10年に1度改訂しています。
理由はグローバル化や技術革新、社会環境の変化などを見据えて、子どもたちが時代に適応した「生きる力」を身につけられるよう、定期的に見直すためです。

●今回の改訂の特徴
新しい学習指導要領は前述の「三つの柱」をもとに、資質・能力を総合的にバランス良く育てていくことを目指しています。
具体的には小学校中学年からの「外国語教育」導入や、小学校における「プログラミング教育の必修化」などが挙げられます。

次の項目では、「三つの柱」ができた背景や詳細について触れていきます。

三つの柱につながった学力の三要素

まず、前提として新学習指導要領の「三つの柱」には、その元になった「学力の三要素」というものがあります。
「学力の三要素」というのは、それまで対立していた詰め込み教育とゆとり教育の考え方をまとめる形で、2007年6月の学校教育法改正で示されたものです。

《学力の三要素》
・基礎的な知識・技能
・思考力・判断力・表現力等の能力
・主体的に学習に取り組む態度

また、上記は小学校教育向けの規定のため、2014年12月に発表された「新しい時代に相応しい高大接続の実現に向けた高等学校教育、大学教育、大学入学者選抜の一体的改革について(以下、高大接続改革答申)」では、高校教育向けのものが示されています。

《高大接続改革答申 学力の三要素》
・基礎的な知識・技能
・思考力・判断力・表現力等の能力
・主体性・多様性・協働性

これから社会に出ていく子どもたちに必要な要素として、三番目に「多様性、協働性」が加えられています。
これらの流れを踏まえて、新学習指導要領の三つの柱がまとめられました。

生きる力を育む、新学習指導要領三つの柱の各目標とは

新学習指導要領

それでは、新学習指導要領において学びを通じて「何ができるようになるのか」という観点からまとめられた、資質・能力の三つの柱「知識及び技能」「思考力、判断力、表現力など」「学びに向かう力、人間性など」を改めて紹介していきます。

●実際の社会や生活の中で生きて働く「知識及び技能」
・何を理解し、何ができるか
知識および技能は、単に暗記するということではありません。学んだ知識および技能を、日常や社会環境などと関連付けて深く理解することが大切です。
例えば、ペーパーテストにおいて、身につけた知識を問う問題と、知識を概念的に理解していることを問う応用問題をバランス良く出題したり、文章やグラフ、実験で表現するといった要素を取り入れたりすることなどが挙げられます。

●未知の状況にも対応できる「思考力、判断力、表現力など」
・知識や自分にできることをどう使うか
学んだ知識や技能を活用しながら課題と向き合い、自分の考えをどう判断・表現するか、または創造する能力をどのように高めるかということです。
得た知識や技術で、自分なりの形でレポートや論文、作品などに仕上げたり、グループディスカッションやディベート、グループワークなどで表現力を磨いたりすることなどが挙げられます。

●学んだことを人生や社会に生かそうとする「学びに向かう力、人間性など」
・どのように社会や世界と関わり、より良い人生を送るか
他の二つの柱で身につけたものの使い方を、実社会でどうやって活用していくべきか、どのように人生を豊かにしていくかなどを伝えます。
イレギュラーなことにも粘り強くチャレンジし続け、学び続けることがより良い人生を送るポイントとなります。

具体的には、何をどう学ぶ?

それでは、三つの柱から具体的には何をどのように学ぶのでしょうか。

●外国語教育、プログラミング教育などが新たに加わる
前述の通り、小学校中学年から「外国語教育」、「プログラミング教育」が新たに加わります。その他、言語能力の育成やデータ分析などの理数教育を充実させるために取り組む授業もあります。

このように社会の変化に対応すべく、柔軟に学び続けることが大切です。

●どう学ぶか
これからの子どもたちには、着席して教科書を読み、先生から与えられた課題をこなすのではなく、自ら課題を見つけ、解決する姿勢が求められているのです。そのために新学習指導要領では、主体的・対話的で深い学び(アクティブ・ラーニング)が重視されています。

主体的な学びとは、子どもたちの「知りたい」「学びたい」など、気持ちを引き出しながら学習するということです。学んだ知識は、次の課題へとつなげていくようにしましょう。

一方、対話的な学びでは子ども同士の協働や地域住民との交流など、積極的なコミュニケーションなどが重視されます。

授業では答えを導き出すために様々な角度から考え、提案する場合も珍しくありません。
どのように考え、どうやって答えに到達したのかなどをクラスの中で発表したり、聞く側がそれを取り入れたりすることも対話的な学びにつながるのです。

したがって、深い学びとは一つの教科で学んだことを他の教科と関連づけたり、自分でアイデアを出したりすることがポイントになります。

主体的・対話的で深い学び(アクティブ・ラーニング)を推進し、子どもたちの「生きる力」を養うためには、一つひとつのコミュニケーションを大切にする環境づくりも非常に重要です。教室の良好な環境に関する記事については、下記でご紹介していますので、こちらもご確認ください。
⇒「生徒の集中力を高める方法! まずは教室の音環境の見直しを

複雑化する社会を生き抜くための「STREAM教育」という教育方法については、下記でご紹介していますので、こちらもご確認ください。
⇒「STEAM教育がさらに進化! STREAM教育とは? 生きる力を身につける学習法

これからの子どものために安心な施設づくりを

新学習指導要領

新学習指導要領が重視しているアクティブ・ラーニングでは、他者の意見を聞いたり、自分の考えを発表したりする時間が増えるため、声が聞き取りやすく、スムーズに話し合いがおこなえるように、遮音や吸音を考慮した音環境の整備が必要不可欠です。また、図書館や美術館のような学びを深めるための場所では、思索に集中できる環境の整備がおこなわれています。子どもたちに深い学びを提供するためにも、長時間にわたってじっくり集中して課題に取り組むことができる、快適な学習環境が必要です。

「生きる力」は一朝一夕で身につくものではなく、しっかりとした学びによって育まれるものです。これからの子どもたちが「生きる力」を育むためには、学習内容の見直しだけでなく、快適な学習環境の整備も欠かすことができません。

吸音性のある素材を利用した「音環境」への配慮など、これからの学習に求められる学びの場に関する記事については、下記でご紹介していますので、こちらもご確認ください。
⇒「子ども・大人・地域と共につくる次世代の学びの場

公開日:2022.06.06 最終更新日:2024.04.22

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