避難所に必要な空調設備とは?設計の注意点や活用できる補助金
※掲載している画像は、記事の内容をわかりやすくするイメージであり、実在する製品や実現するものとは異なる場合があります。
災害発生時に地域住民の生命と健康を守る拠点として、避難所の環境整備は建築計画の中でも優先度の高いテーマです。特に空調設備は、平常時と比べて人の密度が高まり長期滞在が前提となる避難所では、快適性だけでなく健康リスクの低減という観点でも重要な検討項目です。
避難所は体育館や公民館などの施設を活用するケースが多いものの、その多くは長期滞在を想定した機能を備えていません。
設計者には、災害対策基本法に基づく避難所の定義や区分を理解したうえで、空間特性・使用者層・災害時の制約条件などを踏まえた総合的な設計が求められます。
この記事では、避難所として求められる基本概念から、空調設備の重要性、設計上の要点、補助制度までを整理して解説します。
避難所とは?
避難所は災害対策基本法に基づき、生活継続が困難になった住民を受け入れる施設として定義されています。まずはその基本概念を整理します。
●避難所の定義
避難所(指定避難所)は、災害対策基本法第33条の2第1項により、避難のために立ち退きを行った居住者等、被災住民を一時的に滞在させるための施設と定義されており、同49条7の規定により設置が義務付けられています。
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(指定避難所の指定)
第四十九条の七 市町村長は、想定される災害の状況、人口の状況その他の状況を勘案し、災害が発生した場合における適切な避難所の確保を図るため、政令で定める基準に適合する公共施設その他の施設を指定避難所として指定しなければならない。
引用:「災害対策基本法 第四十九条の七」(e-GOV法令検索)
指定避難所は、一定の基準を満たした公共施設等の中から市町村長が指定する避難所で、災害対策基本法施行令第20条の6に要件が明記されています。
指定避難所は災害発生直後の一時的な退避場所とは異なり、災害などによって自宅で生活ができなくなった帰宅困難者が、中長期にわたり生活する場所です。そのため、飲料水や衛生環境、最低限のプライバシー確保など、生活環境全体を維持できる機能が求められます。
より支援体制を整えた「福祉避難所」というものもあり、高齢者や障がい者など、自力での生活継続が難しい人に対して別途設置されます。福祉避難所は一般の避難所とは設備要件が異なり、介助スペースや医療的ケアを考慮した環境整備が必要です。
参考:
「災害対策基本法 第三十三条の二 第一項」(e-GOV法令検索)
「災害対策基本法施行令 第二十条の六」(e-GOV法令検索)
●避難所と避難場所の主な違い
避難所と避難場所(指定緊急避難場所)は目的が明確に異なります。
<避難所と指定緊急避難場所の違い>
| 避難所 | 自宅に戻れない被災者が一定期間にわたり生活する場所 「指定避難場所」「福祉避難場所」がある |
|---|---|
| 指定緊急避難場所 | 命を守るために一時的に逃げ込む場所 災害の種類別によって指定されている施設が異なる 「一時避難場所」「広域避難場所」などがある |
避難場所は津波や洪水、土砂災害など、迫りくる危険から生命を守るために一時的に避難する場所であり、長期滞在を前提としていません。これに対し避難所は、生活の継続が困難になった住民が一定期間滞在する場所です。
東日本大震災では両者の区別が曖昧で、誤った場所に避難したことが被害拡大の一因となりました。この課題を踏まえ、2013年の災害対策基本法改正により、避難所と避難場所の区分が法的に明確化されました。
設計者は施設の指定区分と用途の違いを理解し、平常時の施設計画においても、どの段階で避難所として運用されるのかを前提に、設備や空間性能を検討することが求められます。
参考:
「指定緊急避難場所の指定に関する手引き」(内閣府)
『「指定緊急避難場所」と「指定避難所」の違いについて』(内閣府)
避難所に求められる空調設備とは?
避難所において、空調設備は非常に重要な役割を果たします。その理由と現状を紹介します。
●避難所において空調設備が重要な理由は?
避難所に適切な空調設備が整備されていない場合、熱中症や低体温症などの温熱環境に起因する健康被害が生じやすくなります。
避難所に利用される体育館や公民館などは外気温の影響を受けやすく、冬期の底冷えや夏期の高温が室内環境を大きく悪化させます。多数の避難者が長時間滞在することで、発汗や呼気による湿度上昇も避けられず、感染症の拡大リスクも高まります。
身体的な負担が大きい高齢者や基礎疾患を抱える人にとって、適切な温熱環境は生命維持に直結する要素です。そのため冷房や暖房、換気といった空調設備は、「快適性」ではなく、熱中症対策や感染症予防といった「健康保護」として位置付ける必要があります。
こうした理由から、避難所の空調設備は通常の公共施設以上に、安定した温度・湿度管理を行えるシステムが求められます。
●避難所における空調設備の現状
文部科学省は、避難所として指定される学校施設の空調整備を喫緊の課題と位置づけ、補助制度の整備や設置支援を進めています。
しかし、令和7年度の調査によれば、避難所指定校における体育館等の空調設備の設置率は約2割にとどまっています。大空間への空調機等の設置は初期費用が大きく、老朽化した既存体育館では電気容量不足や断熱性能の低さが障壁になり、整備が進みにくい状況が続いています。
参考:「公立学校の体育館等の空調(冷房)設備の設置状況について」(文部科学省)
●避難所に適した空調設備は?
避難所の空調設備には、広い空間を均一に温熱制御でき、消費電力を抑えられる方式が適しています。特に近年注目されているのが「輻射式冷暖房システム」です。輻射式は温度ムラが生じにくく、床面付近の体感温度を安定させられるため、避難者の快適性と健康維持の双方に有効です。
<輻射式冷暖房システムのメリット・デメリット>
| メリット | ・広範囲の空間を均一に冷暖房できる ・風がないため、体への負担が少ない ・省エネ性能が高い |
|---|---|
| デメリット | ・従来のエアコンと比較すると、初期費用が高くなりがち ・輻射熱が空間全体に広がるまでに時間がかかる |
DAIKENの全空気式床輻射冷暖房システム 『ユカリラ』は、大空間でも均一な温熱環境を実現しつつ、省エネ効果も期待できる製品です。床面からの輻射熱により足元から天井付近までの温度ムラを抑えるため、避難所などでの冷暖房にも適しています。
避難所の空調設計で気をつけるべきポイント
避難所の空調設計では、大空間特有の熱環境のばらつきや停電時のリスクを前提に、断熱、換気、電源計画を総合的に整える必要があります。
●空調ロスの軽減
体育館のような高天井・大空間の施設では、温度分布が不均一になりやすく、暖気が上部へ滞留して床面が冷え込む傾向があります。
高性能な空調設備を導入しても、断熱性や気密性が不足している場合には、外気温の影響を強く受けてしまい、温度維持が困難です。断熱強化を行わないまま空調設備のみを更新しても、冷暖房効率が著しく低下してしまいます。
そのため、建築計画段階で断熱材の増設や気密処理の徹底を行い、外皮性能の底上げを図ることが重要です。避難者の滞在時間が長期化することを想定し、温度ムラの少ない環境を維持できるように、空調と建築性能の両面から熱負荷を低減させる設計が求められます。
●適切な換気計画
避難所では多数の人が密集して生活するため、換気不足は二酸化炭素濃度の上昇や湿度増加を引き起こし、感染症リスクを高めます。
そのため機械換気による24時間換気を基本としつつ、設備の不調や停電の際にも一定の換気量を確保できるよう、窓や扉を利用した自然換気の計画が欠かせません。
災害時には機械換気設備が停止する可能性があるため、自然換気が成立しやすい開口部の配置計画や、風の通り道を考慮した空間構成が求められます。大阪府が公開している「避難所における環境衛生対策ガイド」でも、自然換気を併用した設計の重要性が強調されています。
空調効率との両立を図りながら、換気経路の確保を前提に計画を進めることが重要です。
参考:「避難所における環境衛生対策ガイド」(大阪府)
●電力の確保
停電時にも最低限の空調を稼働させるためには、非常用電源の設置と運用計画が不可欠です。
自家発電設備や蓄電池の併設により、空調設備の一部をバックアップ運転できるようにしておくことが望まれます。太陽光発電や蓄電システムを組み合わせれば、燃料供給が途絶えた場合でも一定の電力確保が可能となり、避難者の安全を守るうえで大きな効果を発揮します。
内閣府が公表する「避難所における空調設備の設置等について」でも、電力確保の重要性が指摘されており、災害時の運用を想定した設計が求められています。
設計者として、設備容量や優先運転系統、再エネ活用といった観点を整理し、空調停止による健康リスクを最小限に抑える計画とすることが必要です。
参考:「避難所における空調設備の設置等について」(大阪府)
避難所の空調導入に利用できる補助金
避難所となる公共施設や学校等の空調整備は、運営者側にとって財政負担が大きく、特に体育館などの大空間では、設備導入だけでなく電気容量の増強や外皮性能の改善が必要になる場合があります。
そのため国や自治体は、避難所の空調環境を改善する目的で複数の補助制度を設けており、補助制度は設計者にとって整備計画の実現性を高めるうえで不可欠な情報となります。
代表的なものとして、「空調設備整備臨時特例交付金」(文部科学省)が挙げられます。この制度は、避難所として指定されている学校施設に対し、空調設置に必要な工事費の一部を補助するものです。
対象工事費は 下限額400万円〜上限額7,000万円 と幅広く設定されており、既存建物の規模や空調方式に応じて柔軟に活用できます。対象施設は、公立の小学校・中学校・義務教育学校・中等教育学校の前期課程・特別支援学校で、自治体が避難所として指定していること、断熱性が確保されることが補助要件に含まれます。
補助金の活用にあたっては、設備導入だけでなく、電源強化や断熱改修を同時に行うケースも多く、設計段階で補助制度に適合する工事区分の整理が重要になります。特に体育館の場合は、床輻射式など大空間向けの空調方式を導入する際に高額な工事費となるため、補助金を前提にした整備計画が実務上不可欠となります。
設計者には、行政担当者や設備設計者との協議を通じて、工事範囲や費用、補助対象の明確化を行い、事業採択に向けた計画の合理性を高めることが求められるでしょう。
避難所の空調設計は避難者の安全を守る重要な要素
避難所の空調設計は、災害時における避難者の健康被害を防ぐうえで欠かせない計画要素であり、建築性能と設備性能を一体で考える必要があります。
特に体育館のような大空間では、温度ムラや底冷えが生じやすく、安定した熱環境を確保できる方式の選定が重要です。輻射式冷暖房は、大空間でも均一な温熱環境を形成でき、避難所用途としても有効な設備です。
空調設計にあたってDAIKENの『ユカリラ』を検討される場合、下記のパンフレットにて仕様確認を行うことをおすすめします。
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