認知症ケアで注目のユマニチュードとは? 人の尊厳を守るコミュニケーション方法と環境整備
「同じことを何度も聞かれる」「話しかけても大声を出される」など、認知症の方とのコミュニケーションに困っている介護者は多いでしょう。
そんな認知症ケアの手法として注目されているのが「ユマニチュード」です。ユマニチュードの接遇方法を学ぶことで、従来は対応が難しかった認知症の方にもスムーズに対応できる可能性があります。
本記事では、ユマニチュードについて分かりやすく解説しています。また、実現に向けた環境整備についてもご紹介いたします。
ユマニチュードとは
ユマニチュードは、フランスのロゼット・マレスコッティとイヴ・ジネストによって考案された、認知機能の向上を目的としたコミュニケーション技法です。
「ユマニチュード」の意味は、「人間らしさを取り戻す」です。そのため、ユマニチュードの接遇は、認知症の方の尊厳を保つことに重点を置いています。
●ユマニチュードの基本的な考え方
ユマニチュードの基本的な考え方は「認知症の方、一人ひとりに合わせたケアレベルの提供」です。そのため、認知症ケアの際は利用者に自ら回復する機会を持ってもらい、本人ができる部分は自分でしてもらいます。できる部分まで介助をしてしまうと、回復する機会を奪いかねないので注意が必要です。
●ユマニチュードの効果
ユマニチュードを実践すると、介護を受ける方、介護者ともに効果が得られます。
例えば、介助される認知症の方の表情が穏やかになり、介助者と良好な関係構築に役立ちます。良好な関係を築くことで強い拒否もなくなり、介護が提供しやすくなるでしょう。結果として双方の負担は減り、より穏やかな生活を送れるはずです。
尊厳に関する記事については、下記でご紹介していますので、こちらもご確認ください。
⇒人間の尊厳とは? 尊厳の保持と自立支援につながる施設環境づくり
ユマニチュードの基本となる4つの柱
ユマニチュードの基本は、「見る」「話す」「触れる」「立つ」という4つの柱です。
●見る
利用者を見る際は、「目を見る」「正面から見る」「目の高さを合わせる」を意識しましょう。なぜなら、目線を合わせると「平等な関係であること」や「大切に思っていること」が伝えられるためです。
●話す
話す際には、ポジティブな言葉を用いてください。また、トーンやテンポにも配慮が必要で、穏やかで優しい声かけを意識しましょう。
声かけに反応がない方に対しては、ケア内容を実況するように細かく伝える「オートフィードバック」という方法があります。例えば「これから髪を洗います」「右手をゆっくりと上げます」などです。
話す際のポイントは、利用者を大切に思っていることが伝わる表情・トーン・言葉の選択です。
●触れる
利用者に触れる際は、「鈍感な部分から触れる」「広い面積で触れる」「つかまない」「手をゆっくり動かす」がポイントとなります。なぜなら、いきなり顔や手などの敏感な部分に触れることは、驚いたり不快に感じたりする原因となるためです。
●立つ
ユマニチュードでは、立つことも大切な要素です。利用者の身体機能を維持するためにも、1日30分間立つ時間を設けてください。足腰の筋力維持によりトイレでの排泄ができるなど、尊厳を守ることにつながるためです。
5つのステップで信頼関係を築く
ユマニチュードの4つの柱を効果的に使うためには、以下に挙げる5つのステップが重要です。これらのステップを踏むことで、利用者との信頼関係をスムーズに築けるでしょう。
ステップ1)ケア提供を事前に知らせる
ケアの際は、事前に知らせておくのが大切です。なぜなら、いきなり居室を訪ねても利用者の準備ができていない場合や不都合な場合があるためです。事前に伝えることで、心身ともに準備ができ、ケアを受け入れてもらいやすくなります。
ステップ2)ケア前に同意を得る
ケアを始める前に内容について説明し、利用者から同意を得る必要があります。本人の許可がないと抵抗されたり、無理やり介助されたと感じたりするためです。本人の尊厳を守るためにも、必ず同意を得てください。
ステップ3)4つの柱を利用する
ステップ3では、「見る」「話す」「触れる」「立つ」の4つの柱を利用します。4つの柱を活用しながら必要な認知症ケアを提供しましょう。
ステップ4)ケアに対してポジティブな感情を固定させる
ケアの後は「気持ちよかったですね」など、ポジティブな言葉とともに、ケアを振り返りましょう。認知症の方がケアに対してポジティブな感情を持てるよう配慮することが重要です。認知症であっても嫌悪感は残りやすく、ネガティブな感情を与えてしまうと、次回から強く拒否される場合もあるためです。
ステップ5)次回のケアを約束する
ケアを提供した後は、次回の約束をします。これまでのケアで良い印象を与えていれば、「また来てくれるんだ」と次回のケアにも良い印象を与えることができます。
このように、5段階のステップを繰り返すことで、利用者との信頼関係を構築できるのがユマニチュードです。
スムーズなユマニチュードケアを実現させる環境整備とは
ユマニチュードの実践は介護者のみの努力で実現できるわけではありません。例えば4つの柱の「立つ」は、認知症の方が立ちやすく、また介護者をサポートする環境が必要です。具体的には高齢者の滑りに配慮した床材や、しっかりと握りやすい手すりの採用です。
手すりにしっかりつかまって立ち上がることで、歩行や立位保持の訓練にもなります。環境を整備して身体機能の維持をサポートすることにより、尊厳のある生活をより長く続けられるでしょう。
なお、ユマニチュードの看護への取り入れについて、下記の記事でご紹介していますのでこちらもぜひご参照ください。
⇒「ユマニチュードを看護に取り入れる 認知症患者との信頼関係を築き、お互いの負担を軽減!」
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