ホテルの床材に求められる要件は?選定のポイントや導入事例
※掲載している画像は、記事の内容をわかりやすくするイメージであり、実在する製品や実現するものとは異なる場合があります。
ホテルや旅館の設計において、床材の選定は空間の印象を左右するだけでなく、宿泊施設としての機能性や安全性、維持管理のしやすさにもつながる重要な検討事項です。
客室やロビー、廊下など用途の異なるエリアそれぞれに適した床材を選ぶためには、素材特性や性能要件を正確に把握したうえで、意匠的なバランスを取りながら計画を進める必要があります。
この記事では、ホテルや旅館などの宿泊施設に採用される主な床材の種類と特徴を整理し、設計上求められる要件や選定のポイントを解説します。
ホテルや旅館で利用される床材の種類は?
ホテルや旅館に採用される床材は木質系や石材系など多様で、それぞれにメリットとデメリットがあるため用途に応じて使い分けが必要です。ここではホテルや旅館に用いられる代表的な床材の特徴を紹介します。
●無垢フローリング
無垢フローリングは、原木をそのままスライスして作られた床材です。木材そのものが素材として用いられるため、天然木の風合いを強く感じられることが大きな特徴です。
メリットは、経年変化による独特の味わいが生まれる点、木の温もりや質感が高い空間価値を生み出す点が挙げられます。樹種によって色味や木目、節の入り方、肌触りが大きく異なり、オークやウォールナットなど樹種の選択によって空間の雰囲気を大きく変えることができます。
一方でデメリットは、湿度や温度の変化によって反りや収縮、目スキが生じやすい点です。また、無垢材は傷がつきやすく、土足使用を前提とする場所へ採用する際は、耐傷性を高める加工を施した製品を使用するといった工夫が必要です。
●複合フローリング
複合フローリングは、合板などの基材の表面に薄くスライスした天然木の単板を張り合わせて作られた床材です。
メリットは安定性の高さに加えて、厚さや仕上げのバリエーションが豊富で設計上の自由度が高い点が挙げられます。
デメリットは表面に張った木材の品質や樹種によって風合いのばらつきが生じる場合がある点です。また、基材に木材を張り合わせる構造のため、深い傷がつくと基材が露出し、研磨による補修ができず張り替えが必要になることがあります。
●畳
畳はい草を加工した畳表(たたみおもて)を芯材に被せて作られた伝統的な床材です。近年では、和洋折衷のデザインが求められる客室において、洋室の一部に畳コーナーを設けるといった使い方も増えています。
メリットは、弾力性と吸音性に優れており、歩行時の足音を吸収する効果があります。また、畳の持つ自然素材としての質感は、宿泊者にリラクゼーションを提供する空間演出において大きな効果を発揮します。
デメリットは、湿気を吸収しやすくカビやダニが発生しやすいため、客室の換気・空調計画に注意が必要です。また、い草は摩耗しやすく、定期的な表替えや裏返しなどのメンテナンスが必要となります。
●カーペット
カーペットは繊維系の床材で、ウールやナイロン、ポリエステルなどの素材が用いられます。ホテルの客室や廊下など、宿泊施設の内部で広く採用されてきた実績のある建材です。
メリットはデザインの豊富さや、柔らかな歩き心地と滑りにくさが挙げられます。吸音・遮音性にも優れており、上階からの足音や室内の生活音を軽減する効果が期待できるため、静粛性の確保が求められるホテルの廊下や客室などに適しています。
デメリットは汚れが繊維に染み込みやすく、専門的なメンテナンスが必要な点です。経年劣化により毛足が寝てきたり、色あせが生じたりするため、定期的な交換計画を視野に入れた設計が必要です。
●タイル
タイルは、セラミックや磁器、天然石など多様な素材で作られた板状の建材です。素材の種類によって見た目や質感が大きく異なり、大理石調のタイルはホテルのロビーやエントランスに高級感を演出するためによく用いられます。
メリットは素材によっても多少異なるものの、耐久性や耐水性、防汚性に優れ、清掃しやすい点です。デザインのバリエーションが豊富で、大判タイルを使用した目地の少ない仕上げは、高級感と清潔感を同時に演出できます。
デメリットは素足での歩行時に冷たさや硬さを感じやすい点です。また、施工精度が仕上がりの美しさに直結するため、経験のある職人による施工が求められます。
●塩ビ系床材
塩ビ系床材とは、ポリ塩化ビニルを主原料とした床材の総称で、クッションフロアやフロアタイル、長尺塩ビシートなど多様な製品形態があります。
メリットは木目調や石目調など多彩なデザインが展開されており、意匠的なニーズへの対応力が高い点です。フロアタイルは一枚ずつのタイル状製品であるため、部分張り替えが容易でメンテナンスコストを抑えやすいという実用的なメリットもあります。
デメリットは、天然素材と比較すると素材感の本物らしさに差があり、高級感の演出には限界がある点です。製品によっては傷がつきやすいものもあるため、重歩行エリアへの採用には耐摩耗性の高い製品を選定することが重要です。
<ホテル・旅館に採用される床材の特徴比較>
| 床材の種類 | メリット | デメリット |
|---|---|---|
| 無垢フローリング | ・高い意匠性と自然素材の質感 ・経年変化による付加価値 |
・反りや収縮が発生しやすい ・傷がつきやすく維持管理が必要 |
| 複合フローリング | ・意匠性と寸法安定性の両立 ・施工性が高く扱いやすい |
・深い傷がつくと補修が難しい |
| 畳 | ・快適な踏み心地 ・和の演出が可能 |
・水や汚れに弱い ・劣化が早く更新が必要 |
| カーペット | ・防音性が高い ・安全性とデザイン性に優れる |
・汚れやすく清掃負担が大きい ・交換頻度が高い |
| タイル | ・耐久性やメンテナンス性が高い ・高級感を演出しやすい |
・硬く安全性に配慮が必要 ・音が響きやすい |
| 塩ビ系床材 | ・防汚性、耐水性、コスト性に優れる ・補修しやすい(タイルの場合) |
・へこみや熱による変形リスク ・製品により本物らしさに差がある |
ホテルの床材に求められる要件とは?
ホテルや旅館は日々多くの宿泊客が利用するため、床のメンテナンスを行うことを前提とした設計が必要です。ここでは、ホテルの床材に必要な性能を解説します。
●耐久性
ホテルの床は、宿泊客やスタッフが毎日土足で歩くため、一般的な床材よりも表面硬度が高く、摩耗に強い仕様の製品を選定することが重要です。
例えば、DAIKENの独自技術『WPC加工』を施された床材は、木材の空隙部に樹脂を含浸・硬化させることで高い耐摩耗性と対傷性を兼ね備えています。こうした製品を採用することで、多くの人が土足で歩くような環境でもメンテナンスの負荷を軽減できます。
また、客室内においては、ベッドフレームやデスク、テーブルなど重量のある家具が設置されます。家具の脚部による点荷重や、配膳車・台車の通行に耐えられる荷重性能も確認が必要です。
⇒「WPC加工で木に強さをプラス DAIKEN独自技術の強みとは」
●防音性
ホテルにおいて、防音性能は宿泊客の快適性を左右する重要な設計要件のひとつです。上階の客室や廊下からの足音、物音が下階に響いてしまうと、宿泊客のプライバシーや安眠環境が損なわれることになりかねません。階間での固体伝搬音(※)を低減するためには、音の原因である「振動」を抑えてくれる床材の採用が有効です。
防音対策に効果が期待できる床材としてDAIKENの『コミュニケーションタフ 防音Ⅱ DW4/FW4』が挙げられます。本製品はハイレベルな防音性能と土足・車イス対応を兼ね備えた複合フローリングで、ホテルや旅館などの宿泊施設にも適した製品です。床暖房対応仕様であることも、ホテルの設計上の自由度を高めるポイントです。
なお、十分な防音性の確保は床材単体では難しく、天井や壁など他の構造とあわせて検討する必要があります。建築の初期段階から床材を含めた統合的な音響設計を進めることをおすすめします。
※固体伝搬音:床や壁、天井などの固体が振動することで伝わる音。
●防火性
建築基準法上の内装制限は壁や天井を主な対象としており、床材は制限対象外となりますが、火災予防の観点から防火性能を求められる場合もあります。床にも燃えにくい建材を採用すると安心です。
●防汚性
ホテルは毎日多くの人が利用する施設であり、廊下やロビー、客室など各所の床は日常的に汚れにさらされます。特に飲食物のこぼれや泥汚れ、化粧品などの付着が想定されるエリアでは、汚れが素材に染み込みにくい防汚性能の高い床材を選定することが、清掃効率の向上とメンテナンスコストの削減につながります。
●デザイン性
床は空間の水平面を広く占める要素であり、素材の色や柄、質感の選択が室内全体の印象を大きく左右します。ホテルの床材選定においては、施設のコンセプトやターゲット層に合わせたデザイン的整合性を持たせると良いでしょう。
ホテルに床材を導入するポイント
ホテルの床材を選定する際は、各エリアに求められる機能・意匠の要件整理や、長期的な維持管理コストも含めた検討が重要です。
●エリアに合わせて床材を選定する
ホテルの各エリアは、利用者の属性や動線、用途が異なるため、一律に同じ床材を採用するのではなく、エリアの特性に応じた素材選定が求められます。
エントランスやロビーはホテルの第一印象を決定づける「顔」となる空間です。施設のコンセプトを体現するデザイン性の高い床材が求められ、高級感を演出したい場合には大理石調の天然石タイルや大判のセラミックタイルが有効です。
廊下は、宿泊客がスリッパで移動することを考慮し、歩き心地が柔らかく吸音性のあるカーペットが採用されるケースが多くあります。
客室は、宿泊者がリラックスして過ごすプライベート空間として、温かみや落ち着きを感じさせる木質フローリングや畳などの採用が有効です。客室のグレードやコンセプトに応じて、無垢フローリング・複合フローリング・塩ビ系LVTなどを使い分けると良いでしょう。
●意匠性と機能性のバランスをとる
競争の激しいホテル市場において、差別化の要素として空間の意匠性が果たす役割は年々高まっています。特に床は室内の面積の大部分を占めるため、床材のデザインはホテルのブランドイメージや宿泊体験の質に大きな影響を与えます。コンセプトと整合した床材の選定は、宿泊者の「また来たい」という再来館動機の形成にも寄与するでしょう。
一方、意匠性を優先するあまり機能性が損なわれると、宿泊客の安全性や快適性に支障をきたすリスクがあります。設計者としては、施主に対して意匠性と機能性のトレードオフを明確に説明し、双方の要件を可能な限り両立する製品の提案を行うことが求められます。
意匠性と機能性の両立を実現するためには、素材の種類だけでなく、表面処理や仕上げグレードの選択肢を幅広く比較検討することが有効です。
●コストパフォーマンスを考慮する
床材の選定においては、初期の導入コストだけでなく、開業後のメンテナンスコストを含めたライフサイクルコストで評価することが重要です。
ホテルの床は土足での往来に加え、客室内での飲食時の汚れや、清掃作業による負荷が日常的に加わります。こうした使用環境では、耐久性の低い床材を採用した場合に劣化や損傷が早まり、想定外の張り替えコストが発生するリスクがあります。
張り替えが必要になった際には、全面張り替えと部分張り替えの工法的な違いも検討のポイントです。フロアタイルなど一枚ずつ独立した形状の床材であれば、損傷箇所のみを部分的に交換することが可能であり、メンテナンスコストの抑制につながります。
耐久性が高く、清潔な状態を維持しやすい床材を選定することは、ホテルの美しさと衛生水準を長期にわたって保ち、施設への投資効果の最大化につながります。施主への提案段階で、初期コストと維持管理コストの両面をセットで提示するよう心がけましょう。
ホテルへの床材の導入実例
実際のホテル・旅館の事例を通じて、設計上の工夫や素材選定の考え方を具体的に確認できます。ここではDAIKENの床材等を採用したホテルの実例を紹介します。
※製品は採用当時のものです。生産中止品も掲載されている場合があります。
●エグゼクティブスイート翠嶺/北海道
【採用製品】
床材:コミュニケーションタフ 防音Ⅱ DW4〈ウォールナット〉
畳おもて:ダイケン健やかおもて 穂波〈03灰桜色×乳白色×銀鼠色〉
●シェラトン鹿児島/鹿児島県
【使用製品】
床材:コミュニケーションタフ 防音 FW4〈オーク(特注色)〉
●ホテル千畳敷 SO・RA・TO・KI/長野県
【採用製品】
床材:コミュニケーションタフ FW〈オーク(クリア色)〉
天井材:グラビオ羽目板V〈ライトオーカー柄〉
「ホテル千畳敷 SO・RA・TO・KI」の施工事例を確認する
●大阪ビューホテル 本町/大阪府
【使用製品】
床材:コミュニケーションタフ 防音〈檜〉
※製品は採用当時のものです。代替推奨品は下記製品となります。
【採用製品】
畳おもて:ダイケン健やかおもて 清流〈09墨染色〉
床材:タフアートえんこうエコ〈桧板目柄〉
ホテルの床材選定は意匠と機能の両立が鍵
ホテルの床材選定は、耐久性や防音性、防火性、防汚性、デザイン性という複合的な要件を整理したうえで、エリアの用途と施設のコンセプトに照らしながら最適解を導き出すプロセスです。設計者には、素材の特性を把握しつつ、意匠性と機能性の両立を実現するための製品知識と提案力が求められます。
床材は施工後の変更が困難であるため、設計初期段階からメーカーと連携しながら仕様を詰めることが重要です。ライフサイクルコストの視点も取り入れながら、施主にとって最適な床材を提案しましょう。
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