使う人の立場に寄り添う医療施設設計のヒント

医療施設設計

※掲載している画像は、記事の内容をわかりやすくするイメージであり、実在する製品や実現するものとは異なる場合があります。

近年、医療施設は量から質への転換期を迎えています。施設としての機能性だけでなく、患者様の心身の健康を支える空間づくりや、スタッフの働きやすい環境づくりなど、身体的・心理的な快適性がこれまで以上に求められています。
今回のセミナーでは、一級建築士中村勇翔氏を講師に招き、多くの医療施設を手掛ける伊藤喜三郎建築研究所が培ってきた設計の考え方や、患者様や働くスタッフの視点で考える医療施設設計のヒントを語っていただきました。

  • お話を聞いた方

  • 中村 勇翔 氏
  • 株式会社 伊藤喜三郎建築研究所
    大阪支店
    中村 勇翔 氏
    一級建築士
    九州大学大学院 人間環境学府空間システム専攻修了後、2016年に伊藤喜三郎建築研究所に入所。東京本社・現場常駐で経験を積み、現在は大阪支店にて、主に医療施設の設計・監理に携わる。

なぜ医療施設設計は難しいのか

「医療施設設計は難しい」という声をよく耳にします。なぜ難しいのか、中村氏は「法規制の多さ」「多様な機能」「関わる部門の多さ」という3つの理由を挙げます。

医療施設設計の特徴:法規制の多さ

建築関連の法規以外に、医療法関連、医業収入に影響する診療報酬関連、放射線治療があれば放射線障害防止法(RI法)、感染症関連のガイドラインなどがあり、設計者は実務を行いながら法律の知識を身につけていく必要があります。さらに補助金等があれば、その申請サポートなどの業務が加わります。

医療施設設計

中村勇翔氏「使う人の立場に寄り添う医療施設設計のヒント」より

医療施設設計の特徴:多様な機能

総合病院はしばしば一つの街に例えられます。病棟、病室は宿泊する「ホテル」、医局や事務を行う「オフィス」、検体検査などを行う「研究所」、院内の物品を管理・搬送する「物流施設」、多くの外来患者様の動線が交わる「商業施設」といった具合です。
「病棟や病室は、宿泊機能という観点から“ホテル”と捉えられますが、ホテルと大きく異なる点は、病院はスタッフによる管理が必要であることです。そのため、病室の並びやスタッフステーションの配置への注意が必要となります。」(中村氏)
セミナーでは、多様な機能を持つ医療施設ならではの留意点について、機能ごとにご説明します。

医療施設設計

中村勇翔氏「使う人の立場に寄り添う医療施設設計のヒント」より

医療施設設計の特徴:関わる部門の多さ

多様な機能は部門の多さに直結します。設計でのヒアリングは部門ごとに行うため、多いケースでは20~30部門に上ります。各部門の要望の中には、他部門と相反するものがあったり、床面積の関係で実現が難しいものがありますが、設計者はこの調整役も担う場合が少なくありません。
セミナーでは、運営やスタッフなど多様な立場から寄せられた要望に対して、実際に中村氏がどのように提案を進めていったのかご紹介。プロポーザル時の設計案から要望を受けて大きく変更した事例なども併せてご説明します。

医療施設設計

中村勇翔氏「使う人の立場に寄り添う医療施設設計のヒント」より

今後の医療施設設計の課題

では、今後の医療施設設計にはどのような課題があるのでしょうか。
中村氏は大きく「人手不足」と「感染症対策」という課題を挙げています。

医療施設設計

人手不足

多くの業界で人手不足が叫ばれていますが、医療業界はとりわけその影響が大きく、医師や看護師などの専門職が恒常的に不足気味です。そのため設計にも、より少ないスタッフ数で運用できる工夫が求められています。

感染症対策

新型コロナウイルスの流行以降、感染症対策の重要性が増しており、設計するうえでも、感染症が流行した際の運用方法を考慮する必要があります。普段は通常の病棟として機能させ、感染症が流行すると一部の病床を感染症の患者様用に変更。感染の拡大にあわせて感染区画を変更する手法を具体的にご紹介します。

医療施設設計

中村勇翔氏「使う人の立場に寄り添う医療施設設計のヒント」より

感染管理について

ここでコロナ禍以降、ますます重要性が高まっている感染管理について説明します。
感染対応は、「経路」「伝播」「発生」のキーワードに分けることができます。

医療施設設計

中村勇翔氏「使う人の立場に寄り添う医療施設設計のヒント」より

経路を分離する

感染はまず病院のアプローチの段階で管理されなければなりません。一般、感染、救急など、様々な出入り口を設定し、来院者のルートを症状別に分離します。
さらに、それぞれの外来に面した場所にスタッフゾーンを設置し、裏方の動線を確保します。院内動線を分離することで、人の感染や物品の汚染などを防ぐ効果があります。
感染経路を断つ基本的な手法のひとつである個室化(隔離)では、病室はもちろん、中央化された透析室、処置室、集中治療室においても計画されます。

伝播を遮断する

伝播を遮断するためには、「接触感染」「飛沫感染」「空気感染」への対策が重要です。
「接触感染」の遮断には、「さわらない」ことが第一です。そのため、扉や水栓などに対し非接触型の操作装置を適切に配置します。
「飛沫感染」の遮断では、「ちかづかない」ことが重要です。
日本人のパーソナルスペースは欧米人の約3分の1といわれており、空間に余裕を持たせる事が重要です。また、ガラススクリーンやパーティションを利用してカウンター、処置室、待合室等に飛沫のバリアを設け、飛沫感染を対策します。
「空気感染」の遮断には、「よどまない」空気の流れをつくること。感染者の病室は陰圧に、防護病室は陽圧にし、適切な感染管理空調システムを採用します。

発生を防止する

発生を防止するためには、「清掃環境の整備」「高温高湿から守る」対策が求められます。
「清掃環境の整備」では、清掃がしやすい設備や建材を選び、床や幅木にも工夫をします。清掃しやすい環境は、院内を清潔にしやすくなるだけでなく、清掃員の方が働きやすくなり、作業効率の向上にもつながります。
「高温高湿から守る」ためには、各所で適切な中央管理方式の外気制御とし、病原菌やカビの繁殖を防ぎます。湿度が高い周産期部門や長時間同じ場所に留まる透析部門・化学療法部門などでは、建具や設備選びも重要です。セミナーでは具体的な設備例もご紹介していますので、ぜひご覧ください。

事例紹介

伊藤喜三郎建築研究所では自社が持つ豊富な過去事例から新たな提案につなげるケースが少なくありません。セミナーでも多数の事例が登場しますが、ここではその一部をご紹介します。

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事例① セカンドハウス(第二の住まい)としての透析施設

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中村勇翔氏「使う人の立場に寄り添う医療施設設計のヒント」より

週3回、最低でも1日4時間、ベッドで過ごさなくてはならない透析患者様のために、「少しの非日常が味わえる空間」として設計されました。透析室はスキップフロアにし、スタッフステーションに近い上段には透析ベッド、窓側になる下段には透析チェアを並べ、スタッフの見通しを確保。患者様同士の目線が交わらず、外の景色を楽しめる空間となっています。

この病院では、「職員の働きやすさを力に変換する病院づくり」を目指しており、職員食堂と目線がつながるカフェスペースやキッチンを整備。医局兼事務室はABW(Activity Based Working)の考え方を採り入れ、職員が仕事をする環境を柔軟に選べるように計画されています。
「ABWの考え方はオフィスでは一般的ですが、医療施設でも今後増える可能性があります。この施設でも、“職員同士のコミュニケーションがとりやすくなった”“先生に声をかけやすくなった”などのお声が届いています。人手不足が深刻な医療施設で、職員の働きやすさに配慮し、働く環境の整備に力を入れる施設様が増えていると感じます」(中村氏)

事例② 都市型の精神科病院

医療施設設計

中村勇翔氏「使う人の立場に寄り添う医療施設設計のヒント」より

街なかの都市的環境を最大限に活かし、地域の方々と協力しながら社会復帰活動をサポートする都市型の精神医療に取り組む病院です。精神病院だからといって閉鎖的にせず、「開放」と「落ち着き」の場所をコントロールすることで、患者様が過ごしやすいよう計画されています。
事例①②のいずれも、内装には木や木調の建材を採用し、落ち着きを感じられる空間を創り上げています。

医療施設設計で大切にしていること

最後に、医療施設設計を行ううえで中村氏が大切にしていることを伺いました。
医療施設設計には、様々な立場の人が関わります。そのために欠かせないのが、多角的な視点だと中村氏は語ります。
「ヒアリング時に出される要望は、どのような理由で出てくるのか。何を優先して進めるべきか。把握するように努めています」(中村氏)

医療施設設計

また、設計を進める上で忘れてはならないのが、患者様の視点です。ただし、設計者が患者様から直接ヒアリングすることはできないため、関係者とのヒアリングで患者様のニーズを把握して進めることが重要で、ヒアリング力を問われる場面でもあります。
「関係者の方にヒアリングする際に、普段患者様がどのように施設を使われているのか、念入りにお伺いすることが多いです。その過程で、他の医療施設での運用方法をご紹介するなどし、その施設に合う運用方法を模索するようにしています」(中村氏)

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