体育館の空調設計|押さえておきたい空調の種類と導入のポイント

※掲載している画像は、記事の内容をわかりやすくするイメージであり、実在する製品や実現するものとは異なる場合があります。
目次
体育館の空調設計は単なる快適性の確保ではなく、熱中症の防止や災害時の避難環境の維持といった「安全性」と「防災性」を支える重要な設備計画です。特に公立学校の体育館では、利用者の健康と安心を両立する温熱環境の整備が求められています。
近年は省エネ性能の高い空調機器や輻射式冷暖房(後述)の導入が進み、効率的で風の少ない空調設計が注目されています。
この記事では、体育館に適した空調方式の種類や設計上のポイントをわかりやすく解説します。
体育館に空調設備が必要な理由
体育館は競技場や避難所としての利用を想定した環境づくりが重要です。ここでは、体育館においてなぜ空調設備が必要になるのか、その理由を解説します。
●熱中症になるリスクがあるため
体育館は天井が高く容積が大きい一方で、窓や開口部が少なく通気性に乏しい空間です。そのため夏場の強い日射や屋根からの輻射熱により、室内温度が外気よりも高くなることがあり、熱がこもりやすい環境になっています。さらに、競技中は外気の流入を防ぐために扉や窓を閉める場面も多く、空気の流れが少なくなることで熱が滞留します。
このような環境下では湿度が高くなり、汗の蒸発による体温調整が機能しにくくなることで、運動中の体温上昇を招きやすくなります。特に湿度が高い日は熱の放散が妨げられ、WBGT(暑さ指数)が上昇して熱中症の危険が増します。文部科学省の報告では、学校で発生する熱中症の多くが体育・スポーツ活動時に集中しており、体育館はその主要な発生場所となっています。
体育館に適切な空調設備を導入すれば、室温や湿度を制御でき、体温上昇による熱中症のリスクを軽減できます。
参考:「学校における熱中症対策ガイドライン作成の手引き(概要)」(文部科学省)
●災害時に避難所として利用されるため
公立学校の体育館は災害時に地域住民の避難所として活用される場合が多く、快適な環境の維持は健康や命に関わる重要な要素です。私立学校においても、自治体と合意のもと、避難所として使用されるケースがあります。
地震や風水害発生後の避難生活では、数日から数週間にわたり多くの人が同一空間で生活する場合があり、温熱環境の不備は体調悪化を招く大きな要因になり得ます。
夏季は高温多湿、冬季は底冷えの厳しさにより、特に高齢者や乳幼児の健康リスクが高まります。空調設備がない避難所では、熱中症や低体温症、感染症の拡大などが懸念され、長期避難生活の質にも大きく影響します。
文部科学省は近年、体育館の空調整備を防災機能強化の観点からも推進しており、平常時の教育利用と災害時の避難所機能を両立させることを求めています。設計段階での空調導入は、災害対応力の底上げにつながる公共的価値の高い投資といえるでしょう。
参考:「避難所となる学校施設の防災機能に関する事例集」(文部科学省)
体育館に導入しやすい空調設備の特徴
体育館の空調設備は、「競技への影響が少ない」「大空間に対応できる」「常設できる」という3つの条件を満たし、風量と温度ムラを抑える方式が適しています。
●風が少ない
体育館では、バドミントンや卓球など、わずかな気流が競技結果に影響する種目が多く行われます。一般的な空調の吹出し方式では風の流れがシャトルやボールの軌道を変えるおそれがあり、競技性を損ねる可能性があります。そのため、空調方式を選定する際には、気流の少ない「無風感」のある設備が求められます。
具体的には、輻射式冷暖房や床吹出し方式のように、室内全体の温度を均一に保ちながら風を抑えるシステムが有効です。また、吹出し口の配置や角度の調整、風速制御の導入により、活動空間に直接風を当てない工夫が必要です。
●大きな空間でも効率的に冷える・温まる
体育館は天井高が10mを超える場合もあり、一般的なエアコンでは冷暖房の効果が一部に偏る傾向があります。溜まった暖気や冷気を循環させる工夫をしなければ、床付近の体感温度が不快になり、エネルギー効率も低下します。
そこで、ダクトを用いた分散吹き出し方式のように、競技への影響を抑えた大風量かつ高効率な送風方式が有効です。また、床下空調のような活動域を中心に温度分布を最適化する制御技術を活用することも選択肢の一つになります。
加えて、温度ムラを抑えるためにサーキュレーターや大型シーリングファンを組み合わせる設計も効果的です。大空間では単に機器容量を大きくするだけではなく、空気循環の設計そのものを見直すことで、省エネと快適性を両立できます。
●運動空間の邪魔をしない
体育館は競技やイベントなど多様な目的で活用されるため、空調設備が空間利用を妨げないよう配慮することが大切です。床上に機器を設置すると動線や競技の安全性に支障をきたすため、天井吊り下げ式や壁面高所設置などの方式が一般的です。
適切な機器選定に加えて、照明設備や音響装置、移動観覧席などとの干渉を避けるため、器具配置の統合的な検討が求められます。保守点検時のアクセス動線を確保することも重要で、設備機器の重量や振動への構造的配慮も欠かせません。
体育館におすすめの空調設備の種類
競技への影響や省エネルギー性、施工性を踏まえ、体育館におすすめの空調設備として、「エアハンドリングユニット(AHU)」「設備用パッケージ」「輻射式冷暖房」を代表例として解説します。
●エアハンドリングユニット(AHU)
エアハンドリングユニットは、大規模空間向けの空気調和機で、冷却や加熱、除湿、加湿、空気清浄などを一括で行う設備です。冷温水をコイルに循環させ、空気と熱交換することで温湿度を処理します。外気処理機能を兼ね備え、必要換気量の確保にも有効です。
体育館では、天井裏や機械室に設置し、ダクトを通じて温度・湿度を制御した空気を供給します。吹出し口を適切に配置することで、活動域の温度ムラを抑制し、快適性を維持します。
エアハンドリングユニットはオーダーメイド製作が可能で、設計条件に応じた柔軟な対応ができる点が大きな特徴です。初期コストは高めですが、精密な環境制御と省エネ運転の両立が可能で、競技性と安全性を重視する体育館に適した空調設備といえます。
●設備用パッケージエアコン
設備用パッケージエアコンは、既製ユニットを組み合わせて構築する業務用のパッケージ空調で、比較的短工期・低コストで導入できる点が魅力です。室内機は天吊りや壁掛け、床置きなど多様な設置方法が選択でき、改修時の導入にも柔軟に対応します。
設備用パッケージエアコンは、一般的なルームエアコンと同様に、凝縮、膨張、蒸発、圧縮の工程を繰り返して冷媒から熱を運びます。空冷式と水冷式があり、水冷式のような冷暖房能力の高いタイプを複数台分散して設置することで、大空間でも効率的に空気を循環させられます。吹出し口の位置や風向制御を工夫すれば、活動域の温度ムラを軽減しながら、風の影響を最小限に抑えることが可能です。
ただし、外気処理機能は限定的なため、全熱交換器などの換気システムを別系統で計画する必要があります。コストと性能のバランスがよく、体育館の改修時などに適した現実的な選択肢です。
●輻射式冷暖房
輻射式冷暖房は、輻射パネルや床、天井表面を加温・冷却し、放射熱によって体感温度を調整する方式です。風をほとんど発生させないため、競技への影響が少なく、静粛で快適な環境をつくれます。
例えばDAIKENの全空気式床輻射冷暖房システム『ユカリラ』は、空調した空気を床下へ送り込み、床面から低速で吹き出すことで、床上2m程度の活動域を中心に冷暖房します。冷房時は冷気が滞留せず、暖房時は足元から温まる快適な環境を提供できます。風が発生しづらいため競技への影響も最小限に抑えられ、省エネ性にも優れたシステムです。
設計時に押さえたい空調導入のポイント
空調の導入においては、初期費用や運用保全コスト、断熱性の向上を一体的に検討して設計し、活動域の快適性と空調の需要抑制(電力消費量の抑制)を両立させましょう。
●ランニングコストも含めて把握・検討する
体育館の空調設計では、初期費用だけでなく、電気料金やメンテナンス費、点検費などのランニングコストを含めた「ライフサイクルコスト」の把握が欠かせません。導入時に低コストでも、維持管理が高額になればトータルでは損をしてしまう可能性があります。
設計時に運転時間帯や利用頻度を分析し、使用エリアを限定的に運転できるゾーニング制御を検討することで、運用時に無駄な電力消費を抑えられます。省エネ性能を示すBEI(一次エネルギー消費量基準)やAPF(通年エネルギー消費効率)などの比較も有効です。
また、文部科学省が実施している「空調設備整備臨時特例交付金」などの補助制度を活用すれば、初期投資を抑えることもできます。
建築士は発生する費用や補助制度、運用方法等を統合的に見通し、建築主にとっての最適解を提案することが求められます。
参考:「空調設備整備事業(空調設備整備臨時特例交付金)」(文部科学省)
●必要に応じて断熱を行う
多くの体育館は外皮断熱が不十分で、屋根や外壁から熱が出入りしやすいのが実情です。そのような状況で空調を導入しても、外気温の影響を強く受け、冷暖房効率が低下してしまいます。
そこで、屋根面への断熱材の追加や遮熱塗料の塗布、窓への日射調整フィルム貼りなどの対策を講じることで、熱負荷を軽減可能です。断熱強化は空調設備の容量削減や電力消費量の低減にも役立ちます。
空調設備だけで温熱環境を整えるのではなく、外皮改修を含めた「建物全体の環境設計」として検討することが、持続的な省エネ運用につながります。
空調設備と建築を一体で考え、快適な体育館環境を設計しよう
体育館の空調は、熱中症対策や避難所としての機能確保など、「安全」と「安心」を守るための基盤です。特に教育施設や公共の体育館では、利用者の健康を守りながら、省エネ・維持管理コストの抑制を実現する設計が求められます。
体育館の空調設計では、競技への影響を抑えた無風感のある環境づくりが重要です。エアハンドリングユニット(AHU)や設備用パッケージエアコンに加え、近年は風や温度ムラの少ない輻射式冷暖房も注目されています。
また、空調設備の選定だけでなく、断熱改修や外気処理、ゾーニング制御を組み合わせた総合的な計画が、持続可能な体育館運用の鍵です。
DAIKENの全空気式床輻射冷暖房システム『ユカリラ』に興味を持っていただいた方は、ぜひパンフレットをご覧ください。
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