老朽化した施設のチェックポイント こまめに経年劣化を確認して対策を

老朽化

これまでの建物や施設は老朽化するとスクラップアンドビルドを繰り返してきましたが、近年では環境への配慮やコスト削減などから、経年劣化などによる不具合を適時適切に診断・補修し、建物を長寿命化させていく取り組みが進められており、建物や施設の「事後保全」だけではなく、劣化する前に「予防保全」も行うのが一般的になってきています。事後保全と予防保全のチェックポイントと具体的な対策方法を理解し、建物や施設をより長く使いましょう。

建物の長寿命化に必要不可欠な事後保全と予防保全。その違いとは?

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一口に「建物の長寿命化」といっても具体的に何をすればいいのかわかりにくいので、大きく2つに分けてその手法を紹介したいと思います。1つ目は何かが起きてから行う「事後保全」で、もう1つは何かが起こる前に行う「予防保全」です。

●事後保全
経年劣化や災害などにより発生した「目に見える破損や故障」を修繕するのが事後保全で、基本的には原状回復までとなります。具体例としては、地震時にできたひび割れを補修して元に戻すことが挙げられます。
事後保全は不具合の発生後、状態を明確に確認でき、適材適所の補修が可能となりますが、確認が遅れると、発見時には既に手遅れの状態になっている場合もあります。結果として、事後保全だけでは、建物の寿命が短くなる傾向があります。

●予防保全
何かが起こってから行う事後保全に対し、何かが起こる前に行うのが予防保全で、予測される劣化や不具合を事前に察知し、不具合が発生する前に対策を施す手法です。一般的な定期点検だけでもチェックポイントを増やせば予防保全になりますが、さらに専門家による自主点検を行えば、定期点検では発見できないポイントも予防保全できるようになります。
予防保全を行えば、不具合の早期発見ができることはもちろんのこと、不具合そのものを防ぐことができるようになり、将来的な修繕コストの削減にもつながります。不具合を未然に防げれば、高い安全性と施設の永続利用が望まれる幼保施設や医療福祉施設などにおいてはメリットも大きいことでしょう。

建物の長寿命化のために必要な点検とは?

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事後保全をするにも予防保全をするにも必要なのが点検ですが、法令で決められている「法定点検」のみだと、点検サイクルが長くなり手遅れになる可能性もあります。建物の長寿命化のためには、施設管理者や管理・運営会社自らが行う「自主点検」も必要なのです。法定点検をベースに自主点検を適宜行えば、不具合そのものの早期発見だけではなく予兆も察知できることでしょう。

●法定点検
建物や施設の法定点検はその名の通り法令で定められているもので、例えば外壁の全面打診調査は「3年に1回」、防火設備に至っては「1年に1回」が基本となっています。もちろんこの法定年数はあくまで「最長」の話で、これより短いスパンで点検することは問題ありませんが、現実はこの法定年数ギリギリで点検する建物がほとんどです。そのため、法定点検だけでは不具合が手遅れの状態になっている場合が多く、建物の長寿命化は実現しにくくなっています。

●自主点検
法定点検より短いスパンで点検できることはもとより、法定点検ではチェックされない部分も点検できるのが自主点検。基本的には施設管理者が点検しますが、場合によっては専門家に依頼して点検することもできます。チェックポイントも点検時期も臨機応変に決めることができるので、劣化や不具合を早期発見できるばかりか、事前に察知がしやすくなります。中でも予測不能な台風や地震の際は、この自主点検が大きな意味を持つことでしょう。そして不具合があれば早急に対応でき、予兆があれば「要観察」「自主修繕」「直ちに専門業者に修繕依頼」などの段階に分けて判断し、適材適所の対策を行うことができます。

【予防保全のための自主点検チェックポイント】
1)敷地:通路(スロープ)、側溝・マンホール、擁壁・塀、フェンス、門扉など
2)建物外部:外壁・柱、軒裏、屋根・屋上、外階段、窓・ドア、屋外電気設備など
3)建物内部:床、天井・壁、室内ドア、内階段など
4)主な設備:換気扇、エレベーター、空調機、給排水・衛生設備、受水槽、照明など
5)非常用施設・設備:避難通路、防火扉、落下物、転倒防止、排煙窓など
6)台風接近時の警戒点検:飛散物、脱落・落下、開閉・施錠の不具合、ガラス破損など
※参考:横須賀市「公共施設点検マニュアル」

建物の診断と修繕。老朽化や不具合があった場合の具体的な対策法とは?

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法定点検でも自主点検でも、老朽化などによる不具合やその予兆を発見したら必要になるのが診断と修繕です。法定点検なら専門家や専門業者に依頼するので診断も修繕も対応可能ですが、自主点検の場合は施設管理者だけでは対応しきれないことも多々あります。自主点検での診断の際は可能な限り専門家に同行していただき、的確な診断と具体的な対応を仰ぎましょう。専門家に依頼するにはコストがかかりますが、施設の長寿命化を考えれば費用対効果は高いと言えます。

修繕については、その不具合の箇所や度合いによって対応方法が異なります。壁や柱など建物の構造体に関する不具合は自主的な修繕は行わず、専門家に相談して即時修繕するか、長期的な修繕時に対応するかを決めましょう。また、構造にかからない壁や扉などの不具合は専門家に相談せずとも、その部分の建材メーカーに相談・依頼すれば短期間で改善できる可能性もあります。建材は日進月歩で進化していますので、新しい商品で予防保全にもつながることでしょう。

この診断と修繕で注意したいのが「1つの業者に全てを任せっきりにしてしまうこと」で、場合によっては過度な補修を施されてしまうこともあります。点検・診断はできる限り、施工とは分離した「建築士」などの中立的な専門家に依頼するのがおすすめです。

下記の記事で、公共施設においての老朽化問題についてまとめていますので、こちらもぜひチェックしてみてください。
「公共施設の老朽化対策 求められるのは「利用したくなる」魅力的な空間づくり」