看護師として働く中で環境の大切さに目覚め、イタリア・ミラノの建築デザイン大学で学んだ後、一級建築士へ転身。現在は医療施設などの建築デザインへ携わる株式会社ドムスデザイン代表戸倉蓉子氏に、「患者さんに寄り添った 医療環境作り」についてご紹介いただきます。
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コメンテーター紹介
戸倉蓉子 Yoko Tokura
株式会社ドムスデザイン 代表取締役(看護師、イタリア政府認定デザイナー、一級建築士)
看護師として慶應義塾大学病院に勤務中、人間は環境で生き方が変わることを悟り、インテリアの勉強を始める。インテリアコーディネート会社を設立後、1998年にミラノへ建築デザイン留学し、建築家パオロ・ナーバ氏に師事。帰国後、一級建築士取得。現在オール女性スタッフによる建築デザインオフィスの代表を務める。
「環境を通して、人を健康に幸せにする」ことをミッションに、 病院・クリニック・マンションづくりで上質な人生と輝く生き方を応援している。
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著書紹介
『医療の場を整える 環境デザイン』
戸倉蓉子
環境が人を元気にする! 看護師から一級建築士へ転身した著者が実現した「こんなことできるんだ!」 医療施設の新築・改築・改装のアイデアを100点以上のカラー写真で紹介します。 デザインを考えることで、医療の場を整えることを具体的に提案する 看護界初のデザイン書です。
日本看護協会出版会
テーマ「患者さんが見つめても温かい天井に」
病院・施設の天井を見つめたことがありますか?
患者さんは診察や検診、そして入院時にも、否応なく長時間、天井を見ています。穴開き吸音板の穴を数えたり、照明のまぶしさに目を閉じたり、エアコンの埃を見つめたりしています。
残念ながら看護師はその瞬間に別のものを見ています。患者さんだったり、カルテだったり、モニターだったり。お互いが同じ方向を見て共有する時間はあまりありません。
だからこそ、患者さんが長時間見ている天井が寂しいもの、冷たいものでないように配慮したいものです。
【ポイント】天井を患者さん目線で観察してみよう
病室の天井には主として吸音板が使用されています。また、照明やエアコンの吹き出し口、スプリンクラーや非常用照明などさまざまな設備が天井には取り付けられています。
建築工事の際に患者さん目線からの要望をしなければ、顔の真上にまぶしい照明が来たリ、エアコンの吹き出し口から風が直撃する事態となります。天井に何があるか、何を取り付けるかを確認することが大切です。患者さんが見つめても温かい天井にしましょう。
── Author's voice
私が妊婦さんに実施したアンケート調査で印象的なコメントがありました。
ある妊婦さんが分娩室に入室中に、スタッフが準備のために退出することがあり、一人で過ごす時間が放置されているようでとてもつらかったというのです。
短時間でも妊婦さんから離れる際の声かけは重要ですし、もし離れている一瞬でもその部屋が温かい環境であれば妊婦さんの不安をいくらかは軽減できると思います。
不安いっぱいで臨むお産ではなく、妊婦さんの気持ちを前向きにさせる環境づくりが大切です。

【参考事例】分娩室の天井において、妊婦さんの不安を出来るだけ軽減できるように天井に子宮の形が浮かび上がる「折り上げ間接照明」を取り入れました。