地域産材活用のプロに聞く 地元の木を内装材に活かす意義

環境共生型

豊かな森林を守るために、国産材の活用が課題となっています。
オークヴィレッジ株式会社は、岐阜県高山市で1974 年の創設当初から国産のミズナラを使った『環境共生型』のモノ造りを実践し、家具製作をはじめ、木造住宅や店舗などを設計・建設しています。
地域産材活用に長年取り組む、同社 上野英二氏に木を使った空間の魅力や可能性について伺いました。

地元の木を内装材に活かす意義。

  • お話を聞いた方

  • 上野英二氏
  • オークヴィレッジ株式会社
    代表取締役社長
    上野 英二 氏
    1959年岐阜県生まれ。
    1985年よりオークヴィレッジに所属。
    以後、地元の木の魅力を活かした建築を実践し続ける。
    手掛けた物件はメディアなどでも注目を集め建築系雑誌に多数紹介されている。

日本の木を活用することは
森の健全性を守ること

日本は、国土の2/3 を森林が占めている、森林資源の豊富な国です。けれど、現在国内で使われている木の多くは輸入材。価格が安く、均一的で加工しやすいため、多用されています。しかし、日本の木が使われなければ、新しい木が育つことができず、森は荒れる一方。森は二酸化炭素を吸収したり災害を防いだりと、人間が生きる環境を守ってくれていますが、それらの機能が失われてしまいます。

私たちは地元の自然を消費するのではなく、生かすモノ造り『地産地生』という考え方を大切にしています。家具や建築などで使う木材は、地元の森で十分まかなえるので、無理に他の森から切り出す必要はありません。そして伐採後は新たな木を植え、その木が何十年もかかって大きくなる間、造ったものを大切に使っていく。そういった循環を意識した使い方をしています。

地元の木を、地元で使う
林業活性化・雇用創出に貢献

環境共生型

オークヴィレッジ高山のショールーム。こだわりの天然木を使った家具やおもちゃが展示されており、やさしい木の香りに包まれた空間。

また、地元で採れた木を活用することは、雇用の創出にも一役買ってくれます。伐採から加工まで一貫して地元で行うことで、林業や大工さんにお金が回っていく。それが広まり、ひとつの産業として成り立つことで地域の活性化が望めると思います。

木を使うことは環境を破壊することではなく、むしろ森と社会の両方を健全に循環させていく手段です。大切なのは木を正しく使って、次世代への森林資源を育てることなのです。

地元で育った木だから
その地の自然環境に強い建物に

地域産材で建築物を造ることは、建物自体にも良いことがあります。木は気候・環境に適応して育つので、育った地域の自然環境に強い木材になるのです。例えば、雨や雪が多く厳しい気候の中で育った木材は、耐久性に優れ湿気に強いなどの特長があります。そのため地元の材料で造った建物は、腐ったり劣化しにくく、長持ちすると言われているのです。大事に育まれてきた地域産材を使った建物は、一世代だけではなく、子や孫の代まで長く大切に使って貰えるものになるはずです。

地域に根差した木材は
五感に訴えかける魅力がある

また、岐阜県の白川郷を見てもわかるように、地域ごとにそれぞれ特色のある木材を使うことで、土地の風景や人々に馴染んだ建物になります。木に囲まれた空間を見ると、どこか懐かしいような、記憶に残っているような気持ちになりませんか。日本人は昔から木に囲まれて生きてきたので、DNA レベルで木を心地よく感じることが出来る土壌があるからだと思います。だからこそ私たちは、地域産材の木目や香り・肌ざわりなどの、五感に訴えかけてくる魅力を最大限に活かしたモノ造りを提案していきたいと思っています。

温かみある木の内装で、
患者さんが安心できる場所に

環境共生型

歯科医院の待合室。開放的な中庭と木に囲まれたやさしい空間が評判になり、患者さんの憩いの場となっているという。(写真:齋部 功)

これまで多くの木造・木質空間を創る中で、やはり木は人に良い影響を与えているのだと感じることがあります。理屈や科学的なことだけではなく、「温かい」「やさしい」という豊かな感情をもたらすのが木の魅力なのです。

ある歯科医の方から「どうも今の医院の居心地がよくないので、木を使って新築できないか」という相談がありました。そこで床・壁・ドアなどに木をふんだんに使った建物を設計しました。とても落ち着ける空間になり、患者さんが予約の1 時間も前に来て本を読んでいたりするなど、憩いの場となっているそうです。

通ってくる子どもたちも、泣いたり騒いだりせず静かに待つようになったといいます。コンクリートとは違い、素材の香りや温もりが伝わる木の空間だからこそ、心安らぐ場に出来たのではないでしょうか。

環境共生型

内装に木を使った歯科医院の診療室。病院にありがちな無機質感や冷たい雰囲気がなく、温かみのある空間。(写真:齋部 功)

幼い子どもたちに
木の豊かな温もりを伝える

他にも、「地元の木材を使って保育園を建てたい」というご相談をいただいたことがあります。質感まで考えた素材を子どもたちに触れさせたいという要望で、柱などの構造部分から、床や腰壁まで全て地元・愛知県の木で造りました。完成して驚いたのは、子どもたちがすぐに素足になって遊び出したり、丸く削った柱に抱きついたりと、常に木に触ってくれたこと。様々なことを覚える幼少期に、木に囲まれた豊かな空間を創ってあげられたのは非常に意味のあることだと思っています。

地元の木に目を向けて、
地域産材活用に取り組む

環境共生型

オークヴィレッジ高山のラウンジ。木工技術の協力をしている島根県浜田市から提供を受けたサクラ材の板を張った壁が、美しい。

地元の木を使ってみたいけど、どう取り組んでいいのかわからない建築士の方は、まずは木を良く知るパートナーを見つけることが重要です。 私たちが今、木工技術でお手伝いしている島根県浜田市は、豊かな広葉樹の森を持ちながらも木の活用方法が分からず、産業として成立していませんでした。 そこで当社の技術者を派遣して、現地で木工事業を立ち上げました。今は、木製の小物・小型家具の生産を始めていこうとしています。地場の材料を使い、雇用も生まれるということで、行政も協力してくれています。こういった活動を全国に広めていくことができれば、様々な土地で木が活発に使われ、日本の森の健全性が保たれると期待しています。

そのためには、設計事務所や建材メーカーが率先して木を使うということに取り組んで欲しい。日本の建築士たちは世界でも最先端の魅力的な作品を創っているので、木を使った建築に取り組めば、きっと世界に誇れる斬新なものができると思います。日本にはそれを実現できる人材と、豊かな自然があるのですから、上手く使っていって欲しいです。

素材の技術研究を進めて、
都市部での木材活用を広める

環境共生型

「木という素材の持っている魅力を、見た目ではなくて本質として捉えた製品がどんどん増えて欲しいですね。」メーカーへの期待を語ってくれた上野氏。

もちろん使い方だけを広めても、木の普及は難しいでしょう。素材としての耐久性や災害への強さも重要です。でも、木だからもろい・弱いと否定的になることはないと思います。今後、耐久性があって台風や地震などに強い加工や構造の技術研究は、どんどん進んでいくでしょう。スギやヒノキといった国内に豊富にある材を、もっと強く、魅力的に使える方法が生まれてくるはずです。そうすれば「木=弱い」とはならず、ビルやマンション、人の集まる都市部でも迷いなく木材を採用できる時代になると思います。 大量生産・大量消費の時流には逆行する事かもしれませんが、建築に関わる人間一人一人が使命感をもって地域産材の活用に取り組むことで、木材消費量も増加します。私たちは木で物を造る立場の人間として、うまく木を活用して循環を促し、森が元気になる仕組みづくりを進めていきたいです。

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