街中に「第2の森」をつくる~木造建築の可能性と挑戦
循環型社会のあり方が問われているいま、「公共施設の木造化」が求められています。日本の街中に「第2の森」をつくることを目指し、長年にわたり木造建築を手がけてきた杉本 洋文氏(元東海大学教授)に、木造建築の重要性と可能性、これまで手がけられた事例について語っていただきました。
お話を聞いた方
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株式会社計画・環境建築
代表取締役会長
元東海大学教授
杉本 洋文 氏
豊かな森林資源を次世代に活かすために~木造建築のススメ
杉本氏は40年にわたり、木造を中心とした建築作品を発表しておられます。2018年からは「奈良の木販売促進アドバイザー」に就任するなど、全国各地で地域資源を活かしたまちづくりにも取り組まれています。
「街中に『第2の森』をつくる、というのはCO2を蓄積した木材をもっと活用して都心に木造建築を増やしましょうという意味です。森は私たちが出すCO2を吸収して成長します。その森から得た木材による建築物が街中に増えれば、そこにCO2を固定(貯蔵)することができます。いずれその建築物が解体されても、再生木材や燃料として再利用が可能になります。これらは燃やすとCO2が発生しますが、もともと森にあったCO2なので、地球環境内で循環することになります。エネルギーとして活用すれば化石燃料を使う割合を減らすことができ、結果としてCO2の発生量を抑えることにつながり、地球環境に貢献します」。
「木造建築はその建築工程においてもサステナブル」と説く杉本氏。
例えば住宅の場合で比較すると、木造住宅1戸あたりの炭素貯蔵量は、鉄骨プレハブ住宅、鉄筋コンクリート住宅と比べて4倍近く多くなります。一方で材料製造時の二酸化炭素排出量は最も少ない――つまり木造建築を増やすことは地球温暖化防止に貢献すること、そしてSDGsへの貢献にもつながります。
日本は世界的に見ても森林の豊かな国です。第二次世界大戦後に盛んに植林され、現在、木材資源として使われるのに適した木(10齢級以上)がたくさん育っています。しかし一方では、都心に木造建築が増えていないことで、地方の林業が廃れているという実態があります。林業が廃れてしまうと、森そのものも次世代につないでいくことができません。日本は世界各地から安価な木材を輸入する割合も高いため、国内の森林循環だけでなく、その輸送にかかるエネルギーロスも問題となっています。
国土の森林割合(森林率)は約68.5%――日本は世界有数の森林国家
「今後はもっと日本の木を切り、木材として適切に使っていくことが望まれています。国産材の自給率は37.8%(※)ですが、これを50%まで高めていこうという目標も立てられています。これを達成するためには、住宅だけでなく大型の木造建築に対する各種整備手法の検討のほか、JAS認定工場の増設やJAS材の供給量の増加などが必須となってきますが、こうした課題に対応していくことで、日本の森が次世代に引き継がれ、木材活用によって地方も都心も循環型社会としての発展、活性化が可能となります」。
※出典:林野庁/森林・林業白書 令和2年度「木材需給表」
国産材の自給率を37.8%から50%まで高めていくことが目標
今後は生活者、設計者の意識と行動を変えていくことで、「木なりわいの循環」、つまり木材を持続可能な資源として活用していける社会を実現していくことが重要――杉本氏は次のような図とともに私たちの意識の変革の必要性について語りました。
循環型社会の形成に向けた「木なりわいの循環」
緑の矢印は、従来の「木材の循環」を表す。これまで木材は、様々な段階を経たのちに初めて生活者のもとに届くというサイクルが主だった。今後望まれるのはオレンジの矢印。生活者や設計者が森林に赴き、木材の「目利き」となり、林業者、製材・加工技術者、大工技術者たちとより密に交流していくことで、植林や古い木材の再資源化なども含めた「木なりわいの循環」への変化を起こしていくことが望まれる。
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