【後編】公共施設への地域産材活用の新たなアプローチ(地域産材フローリング編)

地域産材

八代市役所 本庁舎|熊本県

国内最大規模のCLT構造採用の庁舎建築

2016年4月に発生した熊本地震により損壊した八代市庁舎。震災復興プロジェクトとして建て替えが進められ、震災発生からおよそ6年後の2022年1月に新庁舎が完成しました。

震災の経験を踏まえ、「災害に強い庁舎」がコンセプトの軸となった新庁舎建設。「より安全で、安心な庁舎の実現」を前提としながらも、八代産杉材を使った大規模なCLT構造ユニットの採用など、地域性をふまえた新たな試みが取り入れられ、庁舎建築が目指すべき新たな姿が提示されています。

本記事では、新庁舎の設計を手掛けた株式会社久米設計の伊藤上級担当役員へのインタビューを通じて、八代市新庁舎の設計コンセプトや、地域産材活用がもつ可能性に迫ります。

  • お話を聞いた方

  • 伊藤 彰 氏
  • 株式会社久米設計
    上級担当役員
    設計本部 兼 第4建築設計室 室長
    伊藤 彰 氏

【後編】地域産材フローリング編 ~真の地域産材活用とは~

●地域産材活用の在り方への問題提起

-WPC加工フローリングの採用経緯は?

久米設計 伊藤 氏
八代産杉材のCLTの採用により構築された木質感あふれる内部空間において、当然床材にも八代産杉材の活用を検討することになりました。しかし、杉材は柔らかいため、市民が土足で出入りする庁舎の床のようなハードユースな部位に、無垢材のまま使用することはできません。

杉材を床材として使用する場合は、無垢の杉材に圧縮加工を施すなどして耐久性を高める工夫が必要になります。しかしながら、圧縮加工は現状では圧縮技術の完成度やコスト面などで課題があったのも事実です。

そこで目をつけたのが、DAIKENの「WPC(Wood Plastics Combination)」という加工技術です。木が本来もつ風合いは極力保ちつつ、表面硬度が高められるということで、天井がCLTの空間との調和を考えた場合に、仕上げ材としてはWPC加工が最適と判断しました。また、床材だけでなく、受付カウンターや什器の表面にもWPC加工を施した八代産杉材を使用しています。

※木材組織にプラスチックを含浸させて硬化させる、DAIKEN独自の加工技術。天然木がもつ自然な美しさや風合いは保ちつつ、優れた耐摩耗性、耐傷性、耐汚染性を実現します。
↓詳しくはこちら↓
https://www.daiken.jp/public/technology/wpc/

地域産材

突板部にWPC加工を施したフローリング材。杉材本来がもつ風合いを生かすために試作を重ねた

-製品化のチャレンジのなかで意識したことは?

久米設計 伊藤 氏
八代産杉材のWPC加工を検討する中で議論になったのは、天然の杉材がもつ荒々しい風合いをどこまで維持できるか、という点です。

杉材は色味や木目、節にばらつきがあるのが特徴です。ですが、仕上げ材として使用する場合、ある種おとなしく、ばらつきのない安定的な風合いの材を選別して製品化する傾向にあります。

しかし、今回はそういった選別は極力少なくし、ばらつきや荒々しさをあえて生かすことを目指しました。地域産材の活用を掲げながら、選り好みをして木が本来もつはずのばらつきを認めないことでは、真の意味での地域産材の活用にはならないと考えたからです。

DAIKENさんとは製材所まで足を運び、何度も試作のやりとりを重ねました。あえて風合いや色味のばらつきを維持し、多様性を認める考え方はDAIKENさんとしても新しい試みとなったのではないでしょうか。
苦労もありましたが、フローリングとしての仕上がりには満足しています。CLT部分の杉材との調和もしっかりとれていると思います。
単に意匠的な意味合いだけでなく、木材をありのままで生かすことの意義についても問題提起できたのではと感じています。

地域産材

ばらつきをあえて許容した、表情豊かな八代産杉材のWPCフローリング。

●木材活用の新たな可能性

-庁舎利用者の反響は?

久米設計 伊藤 氏
建物の大きさとともに、八代産杉材がふんだんに使われていることに驚かれる方が多いと聞いています。市民の方が親しみを感じる庁舎になっていればうれしく思います。八代市からの評判もとてもよく、八代城跡という歴史ある場所にふさわしい庁舎建築になったのではないかと感じています。

壁や建具などにも八代産杉材をふんだんに使用。地域産材活用のあるべき姿を体現

-地域産材活用がもつ意義について

久米設計 伊藤 氏
地域産材の活用については、建築基準法で定められている不燃性や耐火性能や、そもそも木材の耐久性という様々な課題をクリアする必要があります。

CLT構造はコンクリート構造に比べて圧倒的に軽いというメリットがあり、施工スピードも比較的速いため、工期の短縮にもつながります。

また、DAIKENのWPCのような技術により、耐久性への課題をクリアできれば、地域産材を建築に無駄なく有効活用することができ、市民の環境配慮への意識や地域への親しみを醸成してくれると期待しています。

 

八代市役所 本庁舎

●施設データ
八代市役所 本庁舎

 

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