ヒヤリハットとは? アクシデント・インシデントを減らすために施設に求められる予防策

ヒヤリハット

安全管理の説明などで「ヒヤリハット」という言葉を聞いたことはありませんか? この言葉は、アメリカの安全技師ハインリッヒによる労働災害の経験則「ハインリッヒの法則」において使われており、日本でも様々な現場で事故予防の基本的な考え方として活用されています。
ハインリッヒの法則やヒヤリハットなど、施設の事故予防にも役立つ考え方をご紹介いたしますので、安全な施設運用にぜひ役立ててみてください。

ハインリッヒの法則・ヒヤリハットとは? 事故予防の基本的な考え方

ヒヤリハット

ハインリッヒの法則とは、労働災害を統計学的に調べた結果をまとめた法則のことで、1つの重大な事故の裏には29の軽微な事故があり、さらにその裏には300のヒヤリハットがあるという経験則です。一方、ヒヤリハットとは、事故にはなっていないが、「ヒヤリ」「ハッ」と感じる危険を表しています。ヒヤリハットを見過ごさずに原因を特定して対策することで、重大事故を未然に防ぐことができる、というのが事故予防の基本的な考え方です。

アクシデントとインシデントの違いとは

ヒヤリハット

一方、「アクシデント」「インシデント」も事故に関連する言葉です。アクシデントは実際に生じた災害や事故を示すのに対し、インシデントは災害や事故に至る危険のあった出来事を表します。インシデントはヒヤリハットと同義とされることもありますが、ヒヤリハットは人が危険性に気づくことが前提であるのに対し、インシデントは危険性に気づいていない状態の出来事も含まれます。ヒヤリハットに対し、丁寧に対策することでアクシデント・インシデントを減らし、安全な施設運用に繋げることが大切です。

医療施設における医療事故や、インシデントを予防する取り組み、施設内の安らげる空間づくりについては下記の記事をご参照ください。
「医療現場のインシデントやアクシデントを減らすには ヒヤリハット対策のための空間づくり」

「ヒヤリハット」の代表的な事例とリスクアセスメント

ヒヤリハット

事故を回避するための予防策には、「リスクアセスメント」という方法もあります。リスクアセスメントというのは、危険の芽を摘み取る安全活動のことです。事故を未然に防ぐ危険対策をするという意味ではヒヤリハットの対策と似ていますが、リスクアセスメントはリスクを危険性の度合いまで分析するところに特徴があります。リスクレベルの高いものが分かれば優先的に対処すべき事柄が見えてくるからです。また、事故が起きにくくする環境を整えることもリスクアセスメントの過程に含まれます。
日々発見されるヒヤリハットは、起こりやすさと重大さを分析することで、そのままリスクアセスメントに活かせます。では過去の、利用者のヒヤリハット・事故例を参考に高齢者施設の環境をどのように整えていったら良いのか考えていきましょう。

1.転倒に関する事故例、ヒヤリハット事例
・段差や扉止めにつまずいて、転倒してしまった。
・手すりをつたって廊下を歩き、手すりが途切れたところで滑って転倒してしまった。
・近くにつかまれるものがなく転倒しそうになる

●転倒防止に対する環境改善のヒント
転倒の危険を防止する対策としては、施設の段差をなくしたり、滑りにくい床材や高齢者が握りやすい太さの手すりを採用したりすることが挙げられます。また生活動線に手すり、縦手すりを整備することも段差のつまずき予防につながります。関連した内容として、下記記事にて手すりについて詳しくまとめていますので、ぜひご参照ください。
⇒「手すりはなぜ必要? 手すりの種類とそれぞれの役割、設置場所別の要注意ポイント

また、高齢者自身の転倒回避能力を維持するために、筋力低下予防の工夫をすることも重要でしょう。こちらも関連した内容として、下記記事にて高齢者の筋力低下予防について詳しくまとめていますので、ぜひご参照ください。
⇒「筋力低下の予防に! 高齢者の全身運動に適したポールウォーキング

2.衝突/接触に関する事故例、ヒヤリハット事例
・視力の低下している高齢者がガラス戸の扉に気が付かず、衝突してしまった。
・部屋の出入り口付近や廊下の曲がり角などで他の人に気付かず、接触事故を起こしてしまった。
・室内ドアにぶつかる危険性を感じた。

●衝突/接触防止に対する環境改善のヒント
衝突事故を防ぐには、反対側が見通せる採光窓がついたドアなどの建具を採用するという対処法が考えられます。また、ぶつかった時の衝撃を和らげてくれたり、車いすと立ったままの両方に使いやすいドアを付けたりするのも環境改善につながります。

3.誤飲/窒息に関する事故例、ヒヤリハット事例
・自分で食事をしていた利用者がむせてしまった。
・薬シートの空袋を誤って飲み込んでしまった。
・イベント時に利用者の要望で普段食べていないものを提供したところ、誤嚥(ごえん)を起こした。

●誤飲/窒息に対する環境改善のヒント
確認・見守りの体制を強化する、利用者の体調観察や声かけを行うことが再発防止になります。体力が落ちている時など、普段とは違う状況の時は特に注意が必要です。開口を大きく取れる扉など、見守りがしやすい環境づくりを目指すと良いでしょう。

※事例参考:「福祉用具ヒヤリハット事例集 2019」「老人施設等による事故事例集
【第1回】高齢者施設の安全について考える 高齢者特有の危険が潜む室内ドア
介護サービスの利用に係る事故の防止に関する調査研究事業」報告書

ヒヤリハットを事故予防に役立てるには

ヒヤリハット

ヒヤリハットは組織で共有・分析・再発防止対策を行うことで、事故予防に繋がります。この作業を効率的に行うための方法のひとつがヒヤリハット報告書による記録と共有です。記録すべき内容としては、起きた場所・時間・当事者・状況・原因などが挙げられます。報告書を組織のメンバーと共有することで、事故予防の意識を高めることにも役立つでしょう。
しかし、それでもヒューマンエラーを完全になくすことはできません。意識だけでなく、事故が起きにくい環境を整えることも効果的な対策です。

東京消防庁の調査によると、挟まれ事故のうち、子どもの被害で最も多いのは手動ドアによる事故です。ここでは保育施設における手動ドアの事故に関するヒヤリハットの事例をご紹介します。
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●ヒヤリハット
・保育施設のドア開閉時に園児が指を挟みそうになった
●再発防止対策(意識)
・ドアの開閉時は周囲に園児がいないか必ず確認する
・園児が不用意にドアの開閉を行わないように注意して見守る
●再発防止対策(環境)
・指が挟まれにくいドアに変える
・挟まれてもケガをしにくいドアに変える
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このようなヒヤリハットをまとめて、意識と環境の両方の観点から再発防止を図ることで、事故予防の効果を高められます。

安全な施設運用を実現する環境づくり

ヒヤリハット

安全な施設運用を目指すためには意識改革だけでなく、環境づくりが不可欠です。ここでは環境づくりに効果的なポイントをご紹介します。

●挟まれる心配が少ない、挟まれてもケガをしにくいドアの導入
幼稚園・保育施設や、高齢者施設で多いのがドアによる挟まれ事故。勢いよく閉まるドアや、開閉部分に指が入る隙間のあるドアは、事故・ケガの危険性が潜んでいます。
そこで、開閉の際にブレーキ機構が働くドアの導入を検討してみてはいかがでしょうか。また、ドアの端部にクッションを付ける、枠とドアの隙間を大きくとる、などの工夫をすることでも、指挟み事故のリスクを下げることができます。下記記事にて高齢者特有の危険が潜む室内ドアについて詳しくまとめていますので、ぜひご参照ください。

⇒「【第1回】高齢者施設の安全について考える 高齢者特有の危険が潜む室内ドア

●滑りにくい床材の導入
また、様々な施設で起こる転倒事故の主な原因のひとつが、滑り転倒です。
滑り転倒は年齢に関わらず骨折などのケガに繋がる事故で、施設を安心して利用するうえで、滑りにくい床材は重要なポイントです。
滑りやすさは履物との相性に依るため、外履き・室内履き・靴下など、施設の環境に適した床材を選定することが大切です。下記記事にて転倒リスクを軽減させる床について詳しくまとめていますので、ぜひご参照ください。

⇒「【第2回】高齢者施設の安全について考える 転倒・転落リスクを軽減させる床

ヒヤリハットは事故予防に役立つ、とても有用な考え方です。ヒヤリハットを活用し、メンバーの事故予防に対する意識を高めると同時に、事故の起こりにくい環境づくりに取り組んでみてください。また、安全な環境づくりをサポートする建材の採用も検討してみてはいかがでしょうか。

公開日:2023.02.13 最終更新日:2024.02.27

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