フェーズフリーとは?求められる施設や実現する内装設計のポイント
※掲載している画像は、記事の内容をわかりやすくするイメージであり、実在する製品や実現するものとは異なる場合があります。
近年は、日常の利便性や快適性を維持しながら、災害時にも機能する施設づくりが求められています。その考え方として注目されているのが「フェーズフリー」です。
建築・設計分野では、教育施設や公共施設をはじめ、多様な用途の建築物で平常時と非常時の双方を見据えた設計が進められています。
この記事では、フェーズフリーの基本的な考え方や5つの原則、適した施設や内装設計のポイントについて解説します。
※「フェーズフリー」は、一般社団法人フェーズフリー協会によって管理・運営されている登録商標です。
フェーズフリーとはどのような考え方?
「フェーズフリー」とは、防災と日常生活を切り離して考えるのではなく、普段から利用するモノやサービス、空間等に防災機能を取り入れる考え方です。ここでは、フェーズフリーの基本的な考え方と、実現するための5つの原則について解説します。
●フェーズフリーとは
フェーズフリーとは、平常時と非常時を分けて考えず、どちらのフェーズでも役立つモノやサービスをデザインするという概念です。「フェーズ(phase)」は平常時・非常時の区切り、「フリー(free)」はそれ(区切り)がないことを意味します。防災専門家の佐藤唯行氏が2014年に提唱した考え方です。
従来の防災では、防災用品や食品などの備蓄品を非常時のためだけに購入・管理することが一般的でした。一方でフェーズフリーは、日常生活で利用する設備や身のまわりの製品に防災機能を組み込み、平常時の利便性と災害対策を両立させるのが特徴です。
●フェーズフリーの5原則
フェーズフリーを実現する製品やサービス、空間デザインには、「常活性」「日常性」「直感性」「触発性」「普及性」という5つの原則があります。それぞれの概要は、下記の通りです。
・常活性:平常時・非常時を問わず利用できること
・日常性:普段の生活の中で快適に使えること
・直感性:誰もが迷わず使えること
・触発性:防災意識や災害対策への気づきを促すこと
・普及性:誰でも気軽に活用・参加でき、周りに広めたくなること
建築や設計では、これらの原則を空間構成や素材選定、動線計画などに反映することで、日常の利便性と非常時の安全性を両立したフェーズフリーデザインを実現できます。
参考:
「フェーズフリーとは」(一般社団法人フェーズフリー協会)
「フェーズフリーを実現しよう | フェーズフリーの広がり」(一般社団法人フェーズフリー協会)
「いつもともしもがつながる学校のフェーズフリー」(鳴門市学校教育課)
フェーズフリーデザインが活きる主な施設と設計の工夫
近年は、平常時の利便性や快適性を高めるだけでなく、災害時には避難所や支援拠点として機能することを前提とした施設計画が、さまざまな分野で進められています。ここでは、フェーズフリーデザインが活かされている主な施設と、設計に取り入れられている工夫を紹介します。
●教育・保育施設
小・中学校や幼稚園、保育園などの教育・保育施設は、日常は教育や保育の活動に利用される一方で、災害時には地域住民の避難所として機能するケースが多くあります。そのため、平常時と非常時の両方を見据えたフェーズフリーデザインが重要です。
例えば、床までのガラス張りを採用した見通しの良い空間設計は、日常の安心感や見守りやすさを高めるのに加えて、災害時には施設内外の状況を把握しやすくする効果が期待できます。また、軒下の回廊空間は、普段は遊び場や移動スペースとして活用しつつ、非常時には一時待避場所や避難動線としても機能します。
●公共施設
公共施設は、日常はカフェや会議室、広場などを備えた地域住民の交流拠点として利用される一方で、災害時には防災対策本部や避難場所として重要な役割を担います。そのため、平常時の利便性と非常時の機能性を両立するフェーズフリーデザインが求められます。
例えば、アトリウムや広場空間をイベントや交流の場として使用しながら、災害時には物資の受け入れや支援活動の拠点として活用できる設計が効果的です。また、天井を設けない「無天井空間」を採用すれば、開放感のある空間を実現するとともに、地震発生時の天井材落下リスクを低減でき、安全性の向上にもつながります。
●スポーツ・文化施設
スポーツ施設や文化施設は、日常はスポーツやイベント、地域交流の場として利用される一方で、災害時には多くの避難者を受け入れる大規模な避難所として活用されます。そのため、平常時の快適性と非常時の機能性を兼ね備えたフェーズフリーデザインが重要です。
例えば、通路空間にガラスカーテンウォールを採用することで、開放感のある空間を演出しながら、災害時には見通しや視認性を確保できます。また、ホールの座席からひじ掛けをなくすことで、簡易ベッドとして転用しやすくなります。床面に障害物の少ないシンプルなフロア構成にすれば、避難スペースや支援活動の場として柔軟に活用できます。
参考:
「フェーズフリーの視点を取り入れた公共施設等の事例集」(内閣府)
フェーズフリーデザインを実現する内装設計のポイント
フェーズフリーデザインの実現には、防災機能を後付けするだけでは不十分です。つまり、設計段階から、日常利用の延長で非常時にも機能する空間構成を組み込むことが重要となります。ここでは、フェーズフリーデザインを意識した、内装設計のポイントについて解説します。
●自然採光・通風を活かした環境設計をする
フェーズフリーデザインを実現するには、自然採光や通風を活かした環境設計が重要です。
例えば、ハイサイドライト(高窓)や大開口を設けることで、明るく快適な室内環境を維持できるだけでなく、災害による停電時にも自然光を確保できます。
また、外壁や開口部の位置を工夫して自然換気を促す設計にすれば、空調負荷が軽減して省エネルギー化につながり、電力が使えない状況でも、換気量や温熱環境を維持しやすくなります。
●耐震性や安全性の高い天井構造・建材を選ぶ
フェーズフリー施設として機能させるためには、天井の耐震性を確保することが欠かせません。地震による天井部材の落下は、人命に危険を及ぼすだけでなく、避難経路の遮断や施設機能の停止につながるおそれがあります。
そのため、大きな揺れにも耐えられる天井構造を採用し、安全性を高めることが求められます。また、耐火性や耐久性に優れた建材を選定することで、災害時の被害を抑えるだけでなく、日常の維持管理負担の軽減や施設の長寿命化にもつながります。
●温もりと安心感を与える仕上材を選ぶ
フェーズフリーデザインは、仕上材の選定も重要なポイントです。
木材をはじめとする自然素材を取り入れることで、平常時には温もりのある落ち着いた空間を演出できます。また、災害時に避難生活が長期化した場合でも、避難者の心理的な安心感を高め、ストレスの軽減が期待できます。
フェーズフリーを取り入れた施設設計が大切
フェーズフリーは、日常の快適性と災害時の機能性を両立させる設計の考え方です。教育・保育施設や公共施設、スポーツ・文化施設などでは、平常時だけでなく非常時に避難所や支援拠点として機能する空間づくりが求められます。
そのためには、自然採光や通風、耐震性、安全性、快適性を考慮した内装設計が重要です。平常時と非常時を一体的に捉えるフェーズフリーの視点を設計に取り入れることで、利用者にとって安全で価値の高い施設を実現しましょう。












