スーパーサイエンスハイスクールとは? アクティブラーニング重視の先進的な教育現場

スーパーサイエンスハイスクール

アクティブラーニング」を合言葉に、学校教育が変わりつつあります。そのひとつが、20年前に登場した「スーパーサイエンスハイスクール(SSH)」です。大学顔負けのハイレベルな理数教育を行うスーパーサイエンスハイスクールには、どのような特色があるのでしょうか。スーパーサイエンスハイスクールが注目される背景と意義、そしてその成果について解説します。

先進的な理数教育の場、スーパーサイエンスハイスクールとは

スーパーサイエンスハイスクール

スーパーサイエンスハイスクール(Super Science High School)とは、「先進的な理数教育を実施する高等学校」を、国がバックアップする制度です。文部科学省が全国の高校から集まった応募を審査し、「指定校」に決定された学校は、5年間にわたり年間1000万円前後の支援を受けられます。 この制度は「将来の国際的な科学技術関係人材を育成する」ことを目的のひとつとしており、平成14年度にスタートしました。令和4年度には、全国で217校がスーパーサイエンスハイスクールに指定され、国の支援で大学レベルの高度な教育を実施しています。

数年前、経済産業省が日本のエンジニアは2030年に最大79万人不足する可能性があると発表して、大きな話題となりましたが、Socity 5.0(ソサエティ5.0)(※)の実現を考えた場合、絶対的に求められる理工系の人材が不足することは非常に深刻な問題です。実際に、日本の国際競争力はこの30年で大きく落ちたといわれており、スイスのビジネススクール・IMD(International Institute for Management Development=国際経営開発研究所)が毎年発表している、世界60カ国以上の「人材競争力」をまとめた、「ワールド・タレント・レポート(世界人材調査)」において、日本のランクは残念ながら30位~40位前後という結果です。とりわけ、人材プールの「質と能力の高さ」や「準備度」などが、諸外国に比べて低評価となっています。
この事実を改善していくためにも、大学からではなく、もっと早い段階から日本の子どもたちの数理リテラシーを育成しなければならない、という国の姿勢がスーパーサイエンスハイスクールには表れています。

(※)仮想空間と現実空間を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会
(内閣府「Socity 5.0」より抜粋)

スーパーサイエンスハイスクールでの学びの特長

スーパーサイエンスハイスクール

スーパーサイエンスハイスクールでは、具体的にどのような教育が行われているのでしょうか。特徴のひとつとして挙げられるのが、文部科学省の提言する「学習指導要項」にこだわらないことです。例えば鹿児島県のあるスーパーサイエンスハイスクールでは、全職員で独自のテキストを作成し、さらに英語・数学・理科・国語の教師が協力して、教科の垣根を越えたオリジナルの授業を行っています。

また、多くのスーパーサイエンスハイスクールでは大学や専門の研究機関、企業と連携して授業や研究を頻繁(ひんぱん)に実施します。大学を訪問したり、研究者を招いて講演や講義を受けたり、海外の高校生や研究者と交流したりして最先端の研究を体験。もちろん英語教育にも力を入れ、教科書や授業が「オール・イングリッシュ」だったり、成果発表が英語で行われたりすることも珍しくありません。

スーパーサイエンスハイスクールでは、「先生の説明を聞いて学ぶ」のではなく、自分で課題を見つけて研究を進めるという、アクティブラーニング重視のスタイルを採用しています。

生徒は少人数のグループに分かれて研究テーマを自分たちで設定し、主体的に研究を進めてその成果をプレゼンテーションします。毎年スーパーサイエンスハイスクールの研究発表会が全国で行われていますが、上位にランクインして表彰された作品のテーマを見ると、高校レベルをはるかに超えた理数学習が行われていることがうかがえます。

スーパーサイエンスハイスクールがスタートして20年。最初の卒業生は年齢も30代後半となりました。スーパーサイエンスハイスクールを支援する科学技術振興機構(JST)のホームページでは、卒業生たちの現在とその活躍を垣間見ることができます。多くの卒業生が日本や海外の大学で、企業の研究室で、あるいは起業して、最先端の研究に携わっています。スーパーサイエンスハイスクールはその先進的な理数系教育により、国際性、創造性、そして主体性豊かな人材を育てることに貢献してきたといえるでしょう。

スーパーサイエンスハイスクールの学びを支援する環境づくり

スーパーサイエンスハイスクール

こうしたスーパーサイエンスハイスクールでのカリキュラムを支えるのが、生徒たちがより集中できてスムーズに対話を行える環境づくりです。例えば、教室の天井材を吸音効果のあるものにして余計な反響を抑え、不要な音をカットすることで、教師やクラスメイトの声を聴きとりやすく、ディスカッションがしやすい空間に整備することが挙げられます。アクティブラーニングを実践するスーパーサイエンスハイスクールにおいて、このような教室空間は生徒の学びに大きく貢献するはずです。

これまで大きな成果を上げてきたスーパーサイエンスハイスクールですが、もちろん課題がないわけではありません。文部科学省が、指定校の約半数に「改善や努力が必要」という厳しい評価を付けた年もありましたし、一部の学校だけで行われているハイレベルな教育に、批判がないわけでもありません。理想を言うなら、すべての生徒たちに、より優れた環境での教育を提供することができれば「日本人材力」をいっそう底上げする結果につながるでしょう。

人を育てるには、学校にも国にも様々な課題と向き合うことが求められています。未来のイノベーション創出を担う人材を育てる必要性は、今後ますます大きくなっていくでしょう。

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