【前編】 開発ストーリー編 エプソンと大建工業の共創による『OFF TONE マグネットパネルN インクジェット特注対応』の製品化

吸音パネル

point 0 marunouchi(ポイントゼロ丸の内:未来のオフィス空間を実現していくための協創型コンソーシアム)への参画をきっかけに、セイコーエプソン株式会社および、エプソン販売株式会社(2社合わせて以下「エプソン」)と大建工業の共創による製品開発の構想がスタートしました。
そして、2022年11月大建工業の吸音パネル『OFF TONE マグネットパネルN』とエプソンの印刷技術「インクジェット印刷技術」を掛け合わせた『OFF TONE マグネットパネルN インクジェット特注対応』を発表しました。音の響きを抑えつつお好みの写真・イラストなどがプリント可能な吸音パネルです。
本記事では、開発に携わった方々へのインタビューを通じて、共創、開発の経緯と本製品の魅力などを詳しくご紹介します。

また、後編では『OFF TONE マグネットパネルN インクジェット特注対応』が初採用となったエプソンのショールーム、「エプソンクリエイティブスクエア赤坂」を音環境改善という視点でご紹介します。

  • お話を聞いた方々

  • 冨下公平氏 岡本由紀子氏 藤本剛士氏
  • (写真右から)
    エプソン販売株式会社
    特販営業本部 商業機器MD部 部長
    藤本 剛士 氏

    エプソン販売株式会社
    商業機器MD一課
    岡本 由紀子 氏

    セイコーエプソン株式会社
    Pデザイン部
    冨下 公平 氏

     

  • 駒倉昌和 一柳薫
  • (写真左から)
    大建工業株式会社
    音響製品部 開発課 課長
    駒倉 昌和

    大建工業株式会社
    商品企画部 イノベーション課 兼)音響製品部 開発課
    一柳 薫

吸音パネル

エプソンと大建工業の出会い、新たな取り組みへの挑戦

―共創のきっかけは?

エプソン 藤本 氏
企業協創/共創のためのコワーキングスペースpoint 0 marunouchiに参画していることがきっかけです。エプソンの技術にドライファイバーテクノロジー(以下、DFT)※1というものがありますが、その技術によって生み出される材料を建材へ応用できないかと考え、以前から大建工業さんに相談をしていました。DFTの活用以外にも、いくつかアイディアがでてきましたが、その一つが『OFF TONE マグネットパネルN インクジェット特注対応』の共創に繋がっています。

※1 ドライファイバーテクノロジー(DFT)とは、廃棄物となる繊維素材から、水をほぼ使わずに用途に合わせた繊維化や結合、成形を行い、新たな活用法を生み出す技術。

大建工業 駒倉
point 0 marunouchiのワークスペースで、セイコーエプソンさんと大建工業のブースは隣同士にあります。そのため日頃から意見交換をしやすい環境にありました。エプソンさんのDFTは乾式で古紙を再生するものです。大建工業も古紙を再利用する技術を持っていますが、すべて湿式による方法だったため、エプソンさんの技術はとても新鮮で魅力的でした。point 0 marunouchiへの参画当初からDFTには興味があり、何か一緒にできないかと考えていました。

―どのように開発は進んでいきましたか?

エプソン 藤本 氏
エプソンでは以前から自社技術を建材に応用したいという思いがありました。point 0 marunouchiにあるセイコーエプソンの専用ブースや個室会議室のpersonal room に大建工業さんの『OFF TONE マグネットパネルN』が設置されているため、日頃から吸音性能を実感していたことから、『OFF TONE マグネットパネルN』に着目し、その表面仕上げをインクジェット印刷技術で特注デザインにできたら、という発想に繋がっていきました。一緒に開発を進めるにあたりまず行ったのは、プリント方式の検討です。様々ある方式の中から昇華転写に決定しました。その後は生地や画質、吸音効果など細かな調整を大建工業さんともやり取りをしながら進めていきました。

吸音パネル

―デザインはどのようなものが対応可能ですか?

エプソン 冨下 氏
デザインはオーダーメイドで自由に対応可能です。解像度など諸条件をクリアしていれば写真、絵画、イラストなど好きなデザインを自由かつ高精細に印刷できます。例えば後述する「エプソンクリエイティブスクエア赤坂」で採用されたデザインはPデザイン部で担当しました。こちらは長野の白駒池周辺の森の写真で、同じ部署の社員が撮影したものです。セイコーエプソンは長野発祥で、自然を大切にしてきた会社ということもあり、この写真の採用に至りました。※2
また、ここまで大きなサイズにしても画質を維持できる高解像度であったことも理由の一つです。

※2 「エプソンクリエイティブスクエア赤坂」での『OFF TONE マグネットパネルN インクジェット特注対応』採用経緯は本記事【後編】 施工事例編 『OFF TONE マグネットパネルN インクジェット特注対応』による会議室の音環境変化にて詳しくご紹介しています。

吸音パネル

―開発中に苦労したことは?

エプソン 岡本 氏
昇華転写は200℃の高温でプレスをかけてインクを製品に浸透させる印刷方法です。そのため印刷時にどうしても生地が縮んでしまいます。今回は何枚もの絵を組み合わせることで一枚の大きな絵にするというものだったので、生地の伸縮を勘案して印刷する必要があり、微調整を繰り返しました。

エプソン 冨下 氏
今回「エプソンクリエイティブスクエア赤坂」向けの製品は、50枚を組み合わせた絵と32枚を組み合わせた絵の2セットを製作しました。一辺が2m50cmほどもある大きなものなので、とてもチャレンジングなプロジェクトでした。もちろん数字では認識していましたが、実際の大きさが想像しにくかった点は大変でもあり、面白くもありました。

大建工業 駒倉
木枠に生地を張る時には逆に伸びてしまいます。しかも伸び率はX方向とY方向で異なるためバランスがとても難しかったです。

エプソン 藤本 氏
昇華転写は、ポリエステルを染める対象としているプリント方法です。紙ではない物に印刷するためには、その対象物に合わせた最適なメディアプロファイルを開発する必要があります。インクの吐出量や乾燥時間など、最適な画質が得られるよう細かな調整を、時間をかけて行いました。

大建工業 一柳
生地を木枠に張り合わせる作業はすべて手作業で行っています。目印としてトンボを印刷していますが、張り合わせ後にはズレがないか一つ一つ細かく確認する必要があります。作業効率の改善点を探るために、作業者の方たちにヒアリングを行い、エプソンさんとも話し合いを重ね進めていきました。

吸音パネル

2社の技術が融合した『OFF TONE マグネットパネルN インクジェット特注対応』とは

―『OFF TONE マグネットパネルN インクジェット特注対応』の魅力は?

大建工業 駒倉
とても発色が良く、きれいです。一枚で見た時もそうですが、複数枚のパネルを使って大きな1つの絵にすることでより発色の良さを感じることができます。エプソンさんの技術の賜物だと思いました。

エプソン 藤本 氏
印刷の色味や質感がとてもよいものになりました。これは壁紙やポスターとは違い立体感のあるファブリックに印刷したからこそ演出できた点だと思います。

エプソン 岡本 氏
音環境に関する問題の改善策にとどまらず、デザインとしてのメリットがあるところに魅力を感じました。また、1点ものを1枚から作れるという点は、デジタル印刷ならではの強みです。

吸音パネル

―『OFF TONE マグネットパネルN インクジェット特注対応』の効果は?

大建工業 駒倉
『OFF TONE マグネットパネルN』はpoint 0 marunouchiでの実証実験「半個室(欄間オープン)空間の音響改善に関する実証実験」において、吸音効果及び会話明瞭度の低下について実証されていましたが、初採用となった「エプソンクリエイティブスクエア赤坂」※3の欄間オープン会議室でも同様に設置後一定の効果を体感することができました。

※3 「エプソンクリエイティブスクエア赤坂」での『OFF TONE マグネットパネルN インクジェット特注対応』採用経緯は本記事【後編】 施工事例編 『OFF TONE マグネットパネルN インクジェット特注対応』による会議室の音環境変化にて詳しくご紹介しています。

大建工業 一柳
設置前の「エプソンクリエイティブスクエア赤坂」の会議室ではバスルームのような反響がありましたが、『OFF TONE マグネットパネルN インクジェット特注対応』を貼った後では反響を感じにくくなりました。会議室の外への音漏れも少なくなっています。設置前後の音の測定をしたことで、違いをより実感できました。

大建工業 駒倉
発売後から多くの問い合わせをいただいています。今回のプロジェクトをきっかけに特注のオーダーが増えれば嬉しいです。他の建材でもオンデマンドの技術は使えると思うので、今後も様々な展開を期待しています。

吸音パネル

▼▼【後編】 施工事例編 『OFF TONE マグネットパネルN インクジェット特注対応』による会議室の音環境変化へ続く

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