地域包括ケアシステムを支えるクリニック・医院・診療所の役割 チーム医療、多職種連携の実践

地域包括ケアシステム 多職種連携 チーム医療

急速な高齢化が進むなか、国をあげて構築に向けた取り組みが進められている「地域包括ケアシステム」。高齢者支援の総合的なサービスを地域で提供する仕組みを指しますが、具体的にどのようなものなのか、また、その中でのクリニック・医院・診療所の位置づけと役割についてご紹介します。

地域包括ケアシステムとは?

地域包括ケアシステム 多職種連携 チーム医療

少子高齢化社会において介護需要が急増していくなかで、高齢者が重い要介護状態になっても住み慣れた地域で暮らせるように、医療・介護などの専門職の方はもちろん、地域の住民一人ひとりまでもが協力して対応していこうという取り組みを地域包括ケアシステムといいます。

●地域包括ケアシステムが推進されている背景
少子化が進む一方で高齢者人口は急増しており、人口のうち65歳以上の方の数は総務省の推計によると3624万9千人、約4人に1人の割合となっています。(2022年5月時点)
高齢化社会と切っても切り離せないのが介護の問題です。一般的に年齢が上がるごとに要介護認定率も上昇傾向となり、75歳以上の認定率は約30%に達します。 日本では団塊世代が75歳以上となる2025年以降、要介護認定者も増加の一途を辿っており、今後も医療や介護の需要はますます高まっていくでしょう。

こういった背景から国は、医療や介護を病院や施設だけ行うのではなく、在宅で行うものへ転換し、「住まい・医療・介護・予防・生活支援」が包括的・一体的に提供される体制の構築に着手しました。
こうして進められているのが、地域の包括的な支援・サービス提供体制である地域包括ケアシステムです。

●地域包括ケアが目指す姿
高齢化の状況は地域ごとに大きな差があり、高齢者を取り巻く環境も地域ごとに大きく異なっています。そのため、画一的な取り組みではなく、各地域の自主性や主体性に基づき、地域の特性に応じた「地域包括ケア」の取り組みを行うことが推奨されています。
2025年をメドとして進められているこの地域包括ケアシステムは、日常生活区域で、地域の状況に合った必要なサービスが提供されるよう、市区町村や都道府県を中心として推進されています。

●重要となる分野間の連携
地域包括ケアが取り組む「住まい・医療・介護・予防・生活支援」のうち、「住まい」は自宅や高齢者向け住宅(老人ホーム)など、生活を送る場所を指します。 「介護」は、訪問介護や訪問看護などの在宅系サービスと、介護老人福祉施設などの特定の施設による施設・居住系サービスの2種類に分かれます。
そして「予防・生活支援」では介護予防サービスを積極的に活用し、要支援1や要支援2の方であっても自宅で生活できる体制を整えることを目指します。

●医療が担う役割
そして「医療」は急性期病院・亜急性期・回復期リハビリ病院のほか、かかりつけ医や地域の病院 が連携し、それぞれの役割を分担することとしています。これは日常的な医療をかかりつけ医や地域医療機関が担い、病気の際の入院などについては急性期病院などが対応するという考え方です。
その中でも特にかかりつけ医が果たす役割は大きく、日常行う診療で患者の生活背景を把握して適切な診療及び保健指導を行います。自己の専門性を超えて、診療や指導を行えない場合には、急性期病院へ紹介するなど、地域の医師や医療機関と協力して解決策を提供することも求められているのです。

クリニック、医院、診療所は高齢者医療のゲートキーパー

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かかりつけ医には高齢者の健康や医療制度全体を守る「高齢者医療のゲートキーパー」としての役割が期待されています。

●包括ケアの要となるかかりつけ医
かかりつけ医がこの機能を担うことで、患者さんは適切な診療及び保健指導を日常的に受けることができます。

これまでであれば急性期の大病院を頂点として、回復期リハビリ病院や、地元のクリニック・医院・診療所という「垂直の連携」が地域医療体制の基本でした。しかし地域包括ケアの導入によって、かかりつけ医を核として地域の訪問看護師や介護分野とも連携する「水平連携」が中心となることが期待されています。

世界的に見ても、日本の診療所は人材面でも物資面でも質が高く充実しているので、検査・診断・治療・投薬・健診と多くの医療を行うことができ、地域包括ケアを進めるうえで大きな役割を果たすことが求められています。

●かかりつけ医に求められる能力と連携
かかりつけ医は、「何でも相談できる上、最新の医療情報を熟知して、必要な時には専門医、専門医療機関を紹介でき、身近で頼りになる地域医療、保健、福祉を担う総合的な能力を有する医師」と日本医師会で定義され、在宅医療に加え介護においてもその役割を担う存在です。

さらに地域包括ケアでは、在宅医療・介護の連携構築と質の向上および効率的なサービスを提供することを目指していますので、かかりつけ医も地域の病院や診療所、その他施設と上手く連携をとることが求められます。具体的にどのような連携が必要とされるのでしょうか。

・病診連携
病診連携とは大病院と診療所との連携で、外科や循環器科、糖尿病内科等といった近隣の診療所に無い診療科や専門医による専門外来を、それが必要な患者が受けることができるよう送り出し、状態が回復した患者の日常の診療を再び診療所で担う連携医療です。

・診診連携
診療所間の連携で、軽度の場合には近隣の他診療科で専門外来や検査依頼、終末期には在宅専門診療所等と連携することが求められます。

・多職種連携

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様々な職種のスタッフが目的と情報を共有しながら、業務を分担するとともに、お互いに連携・補完し合い、患者さんの状況に対応した医療を提供する「チーム医療」を推進するための連携です。
具体的には診療所と介護事業所や訪問看護、訪問リハビリ等の介護事業所、調剤薬局、地域包括支援センターのケアマネジャーなどと連携していくことが求められます。こうした関係各所との連携や患者さんとの信頼関係を築いていくことが重要となるでしょう。

かかりつけ医が信頼されるためには院内空間にも配慮を

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これからのクリニック・医院・診療所は、地域包括ケアの核として、また、かかりつけ医としての役割を果たすことが求められています。日常行う診療で患者さんやその家族から上手く生活背景を聞きだしたり、連携先のスタッフなどから信頼されたりすることが、かかりつけ医の条件となっているのです。

そのためには、医師やクリニックのスタッフと患者さんや他施設スタッフさんとの人間関係の構築のみならず、クリニック・医院・診療所自体の環境づくりも重要となります。

患者さんに落ち着きと安心感を与えるためには、間接照明で空間を演出したり、木目の造作材を取り入れることも効果的です。また、診察中の話し声が外に漏れない、スピーチプライバシーに配慮した診察室を用意することも、患者さんの安心感の醸成に繋がるでしょう。

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