【後編】ウェルネスオフィスが描き出す、新たな天井表現(天井材編)

ウェルネス

須賀工業株式会社 新本社ビル|東京都

設備設計と材料の創意工夫により実現した「ミニマルでフラットな天井」

1901年の創業以来、空気調和・衛生設備のパイオニアとして数多くの建築の設備設計施工を手掛けてきた須賀工業株式会社。同社の創業120周年記念事業の一環として、東京都江東区富岡に新本社を建設。永代通りと大横川に挟まれた立地を活かした、都市と自然に溶け込むオフィスビルです。
国土交通省による令和2年度「サステナブル建築物等先導事業(省CO2先導型)」にも選定された本物件は、「ウェルネスオフィスの実現」がコンセプトに掲げられています。計画段階から施主様と設計者様の間で密にブレインストーミングが行われ、社員の方が生き生きと執務するための工夫が随所に凝らされています。本記事では施主様、設計者様へのインタビューを通じて、【前編】オフィスのコンセプト編【後編】天井材編に分けて詳しくご紹介します。

アイデアを具現化するための天井材開発

ー天井材開発の経緯は?

日本設計 吉田 氏
オフィスや病院などの天井は岩綿吸音板が多く採用されています。虫食い模様の凹凸形状が吸音性能を確保するとともに、模様により施工時のタッカー跡が目立たなくなるメリットもあり普及しています。一方で、虫食い模様が意匠的に美しいとは言えず、病院の患者さんが天井を長時間見て気分を悪くされるケースもあります。

「ミニマルでフラットな天井」というアイデアを具現化するため、岩綿吸音板と同等の吸音性を確保しつつ、すっきりした意匠の天井材を探しました。既製品では良いものが見つからず、大建工業さんに相談をしました。すると、ちょうど開発途中の製品があるということで話が進みました。

大建工業 藤原
日本設計様のご要望のような市場ニーズがあることは、かねてより我々も認識しており、水面下で製品化の検討を進めていました。

日本設計様からのご相談を受け、当時システム天井用に開発を進めていた、従来品よりも模様が目立たない表面意匠の試作品をご紹介したところ、非常に気に入っていただけました。しかしながら、今回の物件はシステム天井ではなく、在来工法の天井。ここから専用設計品の開発に共同で取り組むことになりました。
※『グリッド用天井材 ダイロートン12mmグリッド〈SS柄〉』として、2021年10月に発売。詳しくは こちら

ウェルネス

日本設計 吉田 氏
大建工業さんは特注対応に、非常に前向きに取り組んでくれました。私自身も数回、大建工業さんの岡山工場に出向き、意匠や性能、施工性の検証を重ねました。
結果、吸音性能を確保しつつ、白く明るい特殊高反射塗料を採用することで、光をやわらかく拡散する天井材が出来上がりました。

大建工業 藤原
ハードルは2つありました。1つは施工時のステープル跡、もう1つは目地でした。在来工法の場合、施工時のステープル跡が天井表面にどうしても現れてしまいます。今回はサネ形状にすることで、ステープルはサネ部分に打ち込み、跡が見えないようにしました。目地も意匠的にすっきり見えるように極力細く、浅くしています。角部分には面取り加工を施し、不陸の目立ちを緩和する納まりにしました。

日本設計 吉田 氏
目地については、印象として美しく感じる目地幅をコンマミリ単位で調整しました。天井材の長手と短手で目地幅を変え、長手方向(建物の南北方向)の抜け感や流れを強調できるよう設計しました。見る角度を変えると目地幅が均一に見える仕掛けにもなっており、意匠的にはとてもすっきりしました。

ウェルネス

本物件用に専用開発された、在来工法用の天井材(※特注対応品) 
表面に特殊高反射塗料を塗布し、照明や自然光をやわらかく拡散

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吸音穴が目立ちにくい表面意匠ながら、従来品と同等の吸音性能を確保

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基準階 執務室: 南北方向に通るすっきりとした目地 空間の流れを演出

安井建築設計 伊藤 氏
天井材の開発については日本設計さんと大建工業さんで詰めていただきました。弊社は、設備の観点から天井材と照明との相性を重点的に検証しました。今回の天井材は表面が高反射塗装仕上げのため、指向性の強い照明をあてるとハレーションを起こす懸念がありました。開発途中の天井材を照明メーカーに持ち込んで10数パターンの照明を検証しました。

結果、スポットライトとライン照明の2種の組み合わせとなりました。天井幅をまんべんなく照らすスポットライト、スポットライトの直線的な光を和らげる役割のライン照明という考え方です。かつ、自然光とのバランスを考慮し、明暗差がつきすぎないように工夫しました。
※強い光が当たった部分が白くぼやける現象。

ウェルネス

基準階 執務室: スポットライトとライン照明の組み合わせ

各社のチャレンジが生んだ、新しい天井の在り方

ー完成したオフィスで働いてみた印象は?

須賀工業 川井 氏
第一印象は、「気持ちがいい」です。最初は天井が暗くならないかと懸念していましたが、2か月ほど働いて、十分な明るさという印象です。様々なお客様も見学されていますが、皆さん「天井が間接照明だけなのに、明るく、きれいだ」とおっしゃってくれています。

南北のガラスカーテンウォールと東西の間接照明だけで、これだけ明るい空間が作れるものなのかと驚いています。特に夜間は、天井全体が輝く様になり、執務室内がより明るく感じます。
検討を重ねましたが、不安要素もありました。自社ビルだからこそチャレンジできた部分だと思います。吸音性能もしっかりと確保されていて安心しています。

須賀工業 鈴木 氏
漆喰調のようなしつらえが個人的にとても好きです。天井材の色調と艶感のイメージが良いです。目地も東西方向の目地が目立たず、美しい天井だと感じています。

ウェルネス

2階 応接スペース: ミニマルな天井面ながら、十分な視環境と吸音性能を確保

ー今回の取り組みで感じた可能性は?

安井建築設計 伊藤 氏
天井の無駄をなくしていかに美しく見せるか、施工者含めて真剣に考えたのは貴重な経験になりました。経年劣化はこれから検証が必要ですが、いまのところは問題点も少ない印象です。
天井での利用だけではなく、今後さらに応用のアイデアが広がっていく製品だと感じました。

日本設計 吉田 氏
新たな天井表現のために、専用設計品の共同開発から施工検証まで、多くのチャレンジをしたプロジェクトでした。良いものをつくるにはとても神経を使いますが、施主様、設計者、施工者、メーカーが同じベクトルに向かって進むことで魅力的な物件に仕上がりました。

日本の天井は関連法令の制約もあり、画一的になりがちです。海外の建築は状況が異なるため、自由度の高い天井が設計されることが多いです。天井からいろいろなものを無くせることを示せた大きな一歩であると考えています。大建工業さんには今回の取り組みだけに止まらず、不燃材料認定の取得や、さらなる改良・工夫を重ねていただくことで、このような天井材が普及していく可能性は十分にあると思います。

ウェルネス

南側外観: 昼夜で大きく印象が変わる

ウェルネス

南側外観: 夜間に浮かび上がる、フラットで美しい天井面

 

須賀工業株式会社 新本社ビル

●施設データ
須賀工業株式会社 新本社ビル

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