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【前編】ウェルネスオフィスが描き出す、新たな天井表現(オフィスのコンセプト編) 


設備設計と材料の創意工夫により実現した
「ミニマルでフラットな天井 」


東京都:須賀工業株式会社 新本社ビル


※画像クリックで動画が再生されます。

人の健康、安全、安心を軸に
心地よいオフィス空間をつくる

1901年の創業以来、空気調和・衛生設備のパイオニアとして数多くの建築の設備設計施工を手掛けてきた須賀工業株式会社。同社の創業120周年記念事業の一環として、東京都江東区富岡に新本社を建設。永代通りと大横川に挟まれた立地を活かした、都市と自然に溶け込むオフィスビルです。

国土交通省による令和2年度「サステナブル建築物等先導事業(省CO2先導型)」にも選定された本物件は、「ウェルネスオフィスの実現」がコンセプトに掲げられています。計画段階から施主様と設計者様の間で密にブレインストーミングが行われ、社員の方が生き生きと執務するための工夫が随所に凝らされています。

本記事では施主様、設計者様へのインタビューを通じて、

【前編】オフィスのコンセプト編
【後編】天井材編

に分けて詳しくご紹介します。

お話を聞いた方々

  • 集合写真

【前編】オフィスのコンセプト編
■心地よい場を選べるオフィス

ーオフィス設計のコンセプトは?

日本設計 吉田 氏
須賀工業さんのご要望として、「健康、安全、安心なウェルネスオフィスの実現」というテーマがありました。それを踏まえた上で、「社員の方ご自身が自然の豊かさに感性を向け、アクティビティに変えていけるオフィス」というアイデアが、共に議論する中で生まれました。

北側の永代通りと南側の大横川。道路幅と川幅がほぼ同じ30m程度。南北に向かって都市と自然の一面をあわせ持つ土地特性は、設計者としてとても魅力的な条件でした。北面はガラスファサード、南面も開口部を大きくとりバルコニーにすることで建物の透過性を高め、都市と自然に溶け込むオフィスビルをイメージしました。

ウェルネス

北側外観: 北面のガラスファサード

ウェルネス

南側外観: 大横川をのぞむ、南側バルコニー

日本設計 吉田 氏
内装は南北への抜け感を意識できる空間づくりを目指し、壁や間仕切りを極力排除し、エレベーターもガラス製シースルーとしています。9フロアのビルのため、タテの繋がりもしっかり意識し、階段はエレベーター横にガラス主体で構成しました。階高も抑え、踊り場も不要にし、角度のゆるい上り下りしやすい階段としました。

画一的な箱の中に整った環境があるというよりは、開かれた空間の中で働き手が自由に心地よい場所を選べるようなオフィスを目指しました。

ウェルネス

基準階 共用スペース: 北側から南側への抜け感をイメージ

須賀工業 川井 氏
弊社は空気調和・衛生設備の会社として、より良い環境を提供することが仕事です。それを担っている社員が心身ともに不健康であってはならないと、社内では常々話をしていました。今回の新本社プロジェクトでは、改めて「健康に寄与するオフィス」について根本から考え直しました。

一般的なオフィスはどの空間に行っても均一、均質な照度、温度、湿度であることが良いとされてきました。我々設備屋としても均一化、均質化を目指して設計する傾向が強いのは確かです。今回は「その考え方を見直してみてはどうか」と日本設計さんから提案され、いろいろなシミュレーションや検討を重ねつくり上げてきました。

結果、あえて空間に違いをつけるオフィスになりました。明るい場所もあれば、すこし落ち着いた明るさの場所もあります。また、営業部員や工事部員が外から帰ってきて心地よい温度の場所もあれば、内勤部員が心地よい温度設定の場所もあるといった具合です。実際に引っ越して、1、2週間ほどでほとんどの社員は順応していました。
「今日はここで仕事がしたい」とオフィスのいろいろな場所で社員が自由に仕事をしてくれています。

ウェルネス

6階 フリースペース: 社員が働く場を自由に選べる

須賀工業 鈴木 氏
あえてエレベーター横に階段を設置し、エレベーター裏は共用スペースとして自由に利用できることから、エレベーターを使わず屋内階段を利用している社員も多い印象です。エレベーターを使わずに階段を生き生きと上り下りすることが、早速ウェルネスにつながっていると感じています。

執務室も間仕切りを使わず大空間になり、社員同士の顔がよく見え、コミュニケーションの場が生まれています。計画通りの魅力的な執務空間になっていると感じています。

ウェルネス

階段室とエレベータホール: ガラスファサードからの開放感あるつながり

安井建築設計 伊藤 氏
弊社は、基本設計段階では日本設計さんのコンセプトワークに所々参画しながら、設備の実施設計と監理を担当しました。須賀工業さんのやりたいことは基本設計で明確に整理されていたので、設備の実施設計はその実現に徹することに集中できました。

南北の抜け感を損なわないように、なるべく設備オブジェクトを露出させないような設計にしました。
照明、空調などの機器類が見えないすっきりとした空間です。ただし、メンテナンス性はしっかりと確保しなければならない。意匠性とのバランスをとりながら、点検口や機器配置の在りようをこのメンバーで検討するのは良い緊張感があったと思います。

■天井設計の再定義

ー空間設計における天井の位置づけは?

日本設計 吉田 氏
前述の通り、意匠は装飾的になりすぎないように、なるべく控え目にしていくことがテーマでした。そこから、ほぼ何もない「ミニマルでフラットな天井」 というアイデアにつながっていきました。

当たり前のように光源が天井に配置されているオフィスは実はギラギラしています。皆さんある程度そういうものだと思ってしまっています。一方、ホテルなどでは間接照明によりやわらかい光に包まれる空間がある。本来的には照度は欲しいけれど、真上の天井に照明が欲しいわけではない。その疑問に今回は挑戦し、再定義を目指しました。

北の永代通り側からは直射ではない、拡散された光を取り込みます。南の大横川側からは川幅も広いこともあり鋭い日射が入り込むため、ライトシェルフを使い、強すぎる光をカットしながら取り込みます。このような外光と室内の間接照明でバランスをとり、光環境をつくりあげるという考え方です。

かなりチャレンジングな取り組みでしたが、結果として、ギラギラしないやわらかい拡散光による、目に優しい視環境を実現することができました。

ウェルネス

6階 フリースペース: 外光と間接照明のバランス

安井建築設計 伊藤 氏
日本設計吉田さんのご指摘の通り、空調や照明が幾何学的に配置されるグリッド天井は、照度や温度環境の均一化、均質化を図るうえで普及している方法論です。ただし、人によっては照明がまぶしい、空調が寒いと感じるなどの問題が内在していたのも事実でした。
今回のプロジェクトではウェルネスという観点で従来のセオリーを再検討しました。具体的には照明・設備機器は天井の左右端部に集約しました。これにより天井中央部分には照明も空調もなくなりました。今回のオフィス向けに専用開発された白い天井材のみがフラットに存在しています。左右に集約したことによりメンテナンスポイントも集約できるなどのメリットもあり、オフィスレイアウトの自由度も上がりました。

一番チャレンジングだったのは照明でした。基本的には両サイドからの間接光だけで執務空間の照度をとる、という方法をとったからです。直上から打ち下ろし照明ではないので手元にほとんど影が出ず、結果、視環境が大変に良くなりました。

ウェルネス
ウェルネス

基準階 執務室: 照明・設備機器を左右に集約した「ミニマルでフラットな天井」

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