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【第1回】第一線で活躍する社会課題の解決を目指すデザイナーが語る「高齢者にやさしい環境づくり」

2022.4.25

日本の高齢者の約6人に1人が認知症ではないかと推計される今、高齢者施設は認知症の方も安心して暮らせるよう配慮することが求められています。そこで、「認知症とともによりよく生きる社会」の実現に向け活動する、特定非営利活動法人イシュープラスデザイン 代表の筧裕介氏に、認知症の方が実際に見ている世界についてご紹介いただきます。

  • 筧

  • コメンテーター紹介


    筧 裕介 Yusuke Kakei
    特定非営利活動法人イシュープラスデザイン 代表


    1975年生。一橋大学社会学部卒業。東京大学大学院工学系研究科修了(工学博士)。慶應義塾大学大学院特任教授。2008年ソーシャルデザインプロジェクトissue+design を設立。以降、社会課題解決のためのデザイン領域の研究、実践に取り組む。2017年より認知症未来共創ハブの設立メンバーとして、認知症のある方が暮らしやすい社会づくりの活動に取り組む。
  • 筧

  • 著書紹介

    『認知症世界の歩き方』

    著者:筧 裕介 監修:認知症未来共創ハブ
    ライツ社

    なかなか理解してもらえずに困っていた「認知症のある方が実際に見ている世界」がスケッチと旅行記の形式で、すごーくわかる!
    まるで「ご本人の頭の中を覗いているような感覚」で、認知症のことを楽しみながら学べる一冊です。

テーマ「玄関マットが落とし穴に見える理由」

人は、何か行動するときに、次のようなプロセスを踏んでいます。*

①目や手などで外界の情報を「知覚」して
②その情報が何であるか認知し、過去の記憶や知識・経験に基づいて「判断」して
③ 判断にしたがって「行動」する

この「知覚」「判断」「行動」というプロセスを何度も繰り返すことによって、脳に経験・知識が蓄積されます。そして、情報が蓄積されることで、わたしたちはより円滑に日常生活を送れるようになります。

このプロセス①と②の片方、もしくは両方にトラブルが起こることで、日常生活にさまざまな困りごとが起きていると考えられます。

*池田文人「近く情報の処理と利用:5 錯覚とその情報処理モデル」『情報処理』Vol.50 No.1 2009年1月

玄関マットが落とし穴に見える

高齢者 認知症

図 知覚・判断の錯覚はどう起きているのか?

認知症がある方の「玄関マットだと言われてもどうしても穴に見える」というエピソードは、目からの情報を知覚する過程で、玄関マットが穴に見えるという、プロセス①の視覚情報の処理トラブルが起こっています。目から入ってきた二次元情報をうまく三次元情報に変換できず、穴に見えてしまっているわけです。

知覚(プロセス①)の段階でトラブルが起こっても、判断(プロセス②)の段階でその情報を確かめられれば、特に問題はありません。多くの人は一瞬穴のように見えても、「玄関に穴があるはずがない」というように、これまでの知識・経験などをもとに判断できます。

しかし、認知症のある方は、頼りにすべきその知識・経験などの記憶が曖昧になっているために、どうしても穴に見えてしまうのだと考えられます。

心身機能障害*「細かい色の差異を識別できない」が原因と考えられる生活の困りごと

■床と壁と扉の区別がつかない

廊下の床と壁が同じ色で、どこまでが床でどこからが壁なのかわからない。扉と壁も同じ色でどこが扉かわからず、ひたすら壁をノックしてしまった。

高齢者 認知症

■ドアがスムーズに開けられない

ドアとドアノブの色が似ていると、どこを持てばいいのかわからない。またドアノブの動かし方も、押す・引く・スライドするなどさまざまで、力のかけ方がわからず、開けられない。

高齢者 認知症

*心身機能障害:認知症のある方が心と身体に抱えるトラブル。全ての人が一様にこれらのトラブルを抱えるわけではありません。

  • 〜 Memo 〜
    認知症のある方が見ている世界はまるでトリックアートのようで、恐怖で身体が固まり立ちすくんでしまうことも。高齢者施設を設計する際は、扉と壁と床の色を区別する、ドアノブの動かし方を施設内で揃えるなどの配慮が必要です。

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