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2021年度、中期経営計画「GP25 2nd Stage」の最終年度を終えました。
3年間の成果と課題について聞かせてください。
当社は創立70周年を迎えた2015年に、10年後の2025年に向けた長期ビジョン「GP25」を策定し、ありたい姿として、「建築資材の総合企業」を目指すと打ち出しました。その背景には、当時の当社が、売上の大半を国内の新築住宅市場向けが占める「住宅用建材メーカー」であり、人口減少によって将来的に新設住宅着工戸数が減少していく中で、事業・市場ポートフォリオの見直しが大きな経営課題となっていたことがあります。そこで、事業領域を建材だけでなく、素材の供給から施工・工事まで拡大し、市場も新築住宅に限らずリフォーム・リノベーション、公共・商業建築分野、産業資材分野もターゲットに広げて提案を行い、また、国内だけでなく海外へと拡大を図ることで、「建築資材の総合企業」へと進化することを目指しました。
2021年度は、2025年度までの10年間を3つのフェーズに分けた第2フェーズの中期経営計画「GP25 2nd Stage」の最終年度でした。「建築資材の総合企業」に向けて、成長戦略の加速と経営基盤の強化の2つを基本方針に掲げて各種施策を推し進めてきたこの3年間を振り返ると、コロナ禍という想定外の経営環境の変化があった中でも、長期ビジョンの実現に向けて着実に前進し、ステージチェンジを進められたと評価しています。
とりわけ、成果を示せたのが北米を中心とした海外市場での拡大です。住宅着工件数や床面積の広さなどから、実質的な市場規模が日本の約4倍となる世界最大の木造住宅市場で、中長期的な人口増加も見込まれている北米市場での拡大を図るため、2019年度にカナダの単板工場と米国のLVL工場をM&Aでグループ化しました。その後の外部環境も当社にとっては追い風で、コロナ禍で高まった郊外型の住宅ニーズによる旺盛な需要にサプライチェーンの混乱も相まって木材製品の価格が高騰する「ウッドショック」が今に至るまで続いており、これらの需要をしっかり取り込んだ北米事業は大きく利益貢献しました。また北米のLVLと並ぶ素材事業の主力製品のMDFについても海外を中心に家具や建材用途の需要が拡大し、海外売上高の比率も、2021年度は全体の32%と、長期ビジョン策定時の2015年度の6%から飛躍的に拡大しました。
国内市場では、コロナ禍での外出自粛やテレワークの浸透を背景に、より快適な住環境を求めるニーズが高まったことで、新築住宅、リフォーム向けの需要が堅調に推移する中、ワークスペースの確保や防音関連を中心に新たな機会を捉えることができました。その一方で公共・商業建築分野は、コロナ禍の影響で宿泊施設や商業施設向けの需要が急減したことにより、売上高の拡大目標が未達となるなど課題を残しました。既に、公共・商業建築分野に向けた営業体制強化を通じて、ニューノーマルでのニーズに対応した提案や、他社との連携から新たな発想を取り込んだ商材の拡充などを進めており、今後、中断・延期となっていた工事が再開するにつれ、当社の提案が成果に結びつくものと期待しています。また2021年度後半には、想定を上回る受注増に海上輸送の混乱が重なり、建材事業の一部製品で納期遅延が発生し、受注を制限せざるを得ない状況となり、お客様、お取引先の皆様には多大なご迷惑をおかけしました。既に受注制限は解除したものの、当社のサプライチェーンが業界全体に与える影響の大きさを改めて認識し、再発防止に向けて取り組んでいきます。
業績については、売上高は「GP25 2nd Stage」で掲げた最終年度の目標に届かなかったものの、営業利益は120億円の目標に対して、173億円と大きく上回る結果になるなど利益目標はすべて上回り、主要財務指標についてもROE10.9%、ROA10.5%、自己資本比率41.7%と、着実に成長を加速できたと評価しています。
また、ESGやサステナビリティ関連の取り組みが年々重要性を増す中で、当社は非財務についても目標を定めて取り組んできました。環境に関しては、CO2国内総排出量26%削減(2013年度比)の目標に対して36%の削減を達成できたほか、ダイバーシティに関する取り組みの底上げを狙い、当社独自指標で設定した目標も達成しました。一方、ガバナンスに関して掲げたグループ企業理念浸透度については、2017年度と比べ5ポイント改善したものの、目標としていた10ポイントの上昇の達成には至りませんでした。この点については、グループ全従業員が理念に共感し、日常業務で実践できるよう今後も各種の浸透プログラムを継続的に実施するなど着実に取り組みを進めていきます。
新中期経営計画「GP25 3rd Stage」の策定にあたり、マテリアリティを再設定しています。
その背景について教えてください。
2015年に策定した長期ビジョン「GP25」も、残すところあと4年となり、投資家の方々からは「GP25」のその先の長期ビジョンに関するご質問を受けることが増えています。次期長期ビジョンを先行して打ち出すという選択肢もありますが、まずは「GP25」のありたい姿の実現に向けた取り組みをしっかりやり切ることを優先したいと考えています。
2020年には日本政府が2050年までのカーボンニュートラルを宣言しました。当社も長期的な視点で環境課題への取り組みをより一層強化するために、2021年10月に「DAIKEN地球環境ビジョン2050(以下、「環境ビジョン」)」を策定し、2050年までに、温室効果ガスの排出量実質ゼロ、廃棄物の最終埋立処分量ゼロ、東南アジアに生育する天然木のラワン材使用ゼロという3つのゼロの達成を目指すことを軸として方針と長期目標を明確にしました。創業以来、木質資源を中心に、限りある資源を有効活用することを事業の軸足に据えて成長を続けてきた当社にとって、サステナビリティは事業に直結した強みの一つでもあります。ハードルは決して低くはありませんが、温室効果ガスの排出量削減についても、これまで国内だけにとどまっていた目標設定を海外にも拡大し、また、Scope3も対象とし、バリューチェーン全体での取り組みとして着実に目標の達成に向かっていきたいと思います。
当社を取り巻く外部環境は、2015年の長期ビジョン「GP25」策定当時には想定していなかったパンデミックの発生や地政学リスクの増大など、大きく変化しています。これらの変化と「GP25 2nd Stage」で認識した課題も踏まえながら、グループ企業理念や環境ビジョンの実現に向けた具体的なアクションプランとなるよう「GP25 3rd Stage」を策定する必要があると考えました。そこで、2025年よりさらに先の2035年を見据えたメガトレンドや当社の強みを再確認し、当社が優先的に取り組むべきマテリアリティを再設定することとし、具体的には、「資源循環、循環型社会の実現」「ニューノーマル時代のユーザーニーズ」「働きやすさ、働きがい向上による多様な人財基盤」の3つを掲げました。
「資源循環、循環型社会の実現」には、当社が資源循環に向けて積極的にかかわり、社会・地球環境の課題解決に貢献していく決意を込めています。当社は常に、豊かな社会と環境の調和を第一に考え、限りある資源を有効活用することで社会の期待を超える価値を創出してきました。木質資源については、メーカーとして原材料から製品を生み出すことにとどまらず、使用された建築解体木材などの廃材についても、可能な限り廃棄・焼却へと回すことなく、マテリアルとして長く使い続けられるよう、「循環」の構築に注力してきました。建築解体木材を使ったインシュレーションボードや、製材端材を主原料としたMDFなどの素材開発は、木材を余すことなく活用することを体現した主力事業ですが、木質ファイバーを土壌改良材や木質培地といった用途で植物の生育促進へと活用する取り組みも進めています。また鉱物資源についても、未利用だった火山灰を原材料として活用し、不燃、軽量、高強度などの特長をもつ当社独自の素材「ダイライト」を開発するなど、利用されないままでいる資源にも着目し、その有効活用に取り組んできました。今後も、植林木や認証材などの循環管理された木質資源に加え、利用されずに廃棄されているような資源にも目を向け、それらを有効活用した素材の開発や新たな用途開拓を進め、グローバル市場への展開を加速させていきます。その過程で、適切に管理された森林から産出した認証材の活用比率を上げ、また当社の技術力を活かした脱ラワン材の取り組みも加速させることで、環境ビジョンで掲げる目標の達成を目指します。
「ニューノーマル時代のユーザーニーズ」については、コロナ禍で人々の住まい方が変化してきている中で、地震や自然災害の頻発も踏まえ、当社ならではの技術を活かした安全・安心・健康・快適な空間づくりを通じて、ユーザーニーズに応えていきます。長年の研究開発で培ってきた空間の評価・分析機能や、素材・建材の開発から製品の供給、そして施工・工事までを手掛ける一貫体制といった強みを発揮することで、お客様の課題解決につながるソリューション提案を強化していきます。
3つ目に「働きやすさ、働きがい向上による多様な人財基盤」を設定しましたが、私は、企業が事業活動を推進していく上で、なによりも大事な経営資源は人財だと考えています。人財戦略では、ダイバーシティの推進に加え、従業員一人ひとりのスキル向上を会社として積極的に支援し、そのスキルの多様性を組織として把握した上で、適材適所へとジェンダーの差もなく配置していくことが重要です。そして私が重視するのは、従業員一人ひとりが「DAIKENで働いていて良かった」と感じられることです。この気持ちが持てれば、それは仕事の成果として表れ、ひいては組織の力を強化することにつながります。ライフイベントに左右されずにキャリア形成を続けられる制度・仕組みの拡充や、コロナ禍で定着したテレワーク、シェアオフィスの活用など、柔軟な働き方を進展させ、働く環境をより良いものへと進化させながら、必要な人財投資も積極的に進めていきます。
これら3つのマテリアリティの再設定と連動させる形で、長期ビジョンに掲げた「2025年のありたい姿」についても、その先の2035年の事業環境の変化も考慮した上で、より具体的な姿へとアップデートしています。

「GP25 3rd Stage」について、重要なポイントを聞かせてください。
「GP25 3rd Stage」は、アップデートした「2025年のありたい姿」と環境ビジョンで目指す姿を起点として、バックキャスティングする形で策定しており、「GP25 2nd Stage」に比べ、サステナビリティを重視する考えをより色濃く反映した内容となっています。長期ビジョンで描く「建築資材の総合企業」としての姿を確立する総仕上げのステージとなりますが、その基本方針には、「成長戦略の実行」と「サステナビリティを軸とした経営基盤の強化」の2つを掲げました。成長戦略は、マテリアリティと連動させ、「循環型社会への貢献」と「ニューノーマル時代のユーザーニーズの充足」を軸に取り組みます。その成長戦略を支える経営基盤は、人財基盤、事業基盤、財務基盤、ガバナンスの4つの切り口で、先行き不透明な事業環境における企業経営のレジリエンス向上を図っていきます。特に事業基盤については、原材料のサステナビリティ追求とDX推進の2つの取り組みを加速します。木材を主原材料の一つとして扱う当社にとって、木材の持続可能な調達は企業としてのサステナビリティに直結します。中長期的に、脱ラワン材の取り組みを進め、木材調達におけるサステナビリティ比率の向上を目指します。また、基幹システムへの投資や物流体制の合理化・効率化に向けた投資を進めるほか、各種デジタルツールを活用し、顧客に対して戦略的にアプローチするデジタルマーケティングを強化するなど、ニューノーマルに適応したDXを推進していきます。
数値目標については、北米での木材製品の市況価格が今後調整局面に入ることも織り込みつつ、世界的な資源インフレによる原材料のコストアップ等にも構造改革やコストダウン努力などにより、「GP25 2nd Stage」で高めてきた収益性を確保し、最終年度の2025年度には、売上高2,500億円、営業利益150億円、親会社株主に帰属する当期純利益100億円の達成を目指します。
今後の成長に向けた投資、経営資源の配分の考え方について聞かせてください。
「GP25 3rd Stage」においても、引き続き積極的に成長投資を行っていくスタンスに変わりはなく、地政学リスクや資源価格の高騰、為替の動向なども勘案した上で、適切なタイミングで実行していきます。今後の経営資源の配分については、4年間で想定する約700億円の営業キャッシュ・フローと政策保有株式の縮減などの資産効率化で得られるキャッシュを原資に、400億円の戦略投資枠を設定し、最優先で成長投資へと振り向けます。成長投資の中核は、当社の成長ドライバーである海外での素材事業強化です。エリアについては、効率性を重視し、北米と、MDF強化を軸としてアジア・オセアニアに集中します。また、国内の合理化・効率化に資する投資や長期的視点での研究開発、人財、環境投資などの基盤強化に必要な投資についても、当社としての“ESG投資”として進めます。研究開発は、当社の価値創造の肝となる部分であり、2022年度の組織改編により次世代に向けた新規事業の具体化や知財戦略を連動させるための体制強化を図っています。またグローバル展開をカバーする技術開発の強化も視野に入れながら、研究開発の投資額を売上高の2%程度まで段階的に引き上げていきたいと考えています。環境投資に関しては、素材事業とのシナジーのある木質バイオマスボイラーを中心に再生可能エネルギー利用比率を国内で50%にまで高めてきましたが、今後は他の再生可能エネルギーの導入検討も進めながら、海外も含めて温室効果ガス排出量の削減につなげていきます。また利益面でのリターンだけでは環境投資の効果を測定できないため、インターナルカーボンプライシングの導入についても検討していきます。成長と基盤強化のための投資としては、戦略投資枠400億円にBCP対策や安全対策などの通常投資200億円を合わせた総額600億円を振り向け、同時に、経営全体の資本効率を追求すべく、新たに社内管理指標に導入したROIC(投下資本利益率)の浸透を図っていきます。
また、「GP25 3rd Stage」の4年間における株主還元については、業績に連動した利益還元の充実と、短期的な利益変動に左右されにくい安定的な配当を重視し、配当性向35%、DOE(自己資本配当率)3.5%を目標とした配当を実施し、長期安定的に継続保有いただける株主の方々が、じっくりと腰を据えて当社に投資いただけるよう方針を見直しました。

中長期的な価値創造のポイントや経営の方向性について聞かせてください。
当社が価値創造をしていく上でポイントとなるのは、環境ビジョンで掲げた「資源循環の推進」「気候変動の緩和」「自然との共生」の3テーマを成長戦略とシンクロナイズさせていくことです。
今、地球環境は、資源枯渇や廃棄物の増加、気候変動、森林破壊などによる生物多様性の喪失など、グローバルレベルで深刻に悪化しており、これらへの対応が喫緊の課題となっています。当社は終戦直後に木材を貴重な資源として有効活用し、戦後復興を通じて社会貢献することを志し創業しました。以来、木材を余すことなく使い尽くすという考えの下、持続可能な資源である木材の長所と短所に向き合いながら、弱点を克服し、良さを引き出す技術開発を進めることで素材の持つ可能性を引き出し、世の中に新たな価値を生み出してきました。木質資源を軸に、地球環境のサステナビリティにも資する事業で成長を遂げてきたことは、当社の大きな特長であり、また強みでもあります。
環境課題への取り組みは、リスク面に目が行き、また、短期的にはコストが先行することから事業成長とトレードオフの関係に捉える向きもありますが、中長期的視点で見れば、この環境課題にこそ持続的な価値を創出できる新たなビジネス機会が存在します。発想を転換し、トレードオフからトレードオンの関係へ、リスクを機会へと変えていくことで、新たな成長軌道を確立するためのステージチェンジを実現させていきます。
資源循環を推進する上では、先述の「ダイライト」で活用した火山灰のように、利用されていなかった資源に加え、現状は廃棄されている資源であっても、技術を吹き込むことでこれまでにない価値を生み出す可能性を秘めています。気候変動の緩和についても、セルロースナノファイバーをはじめ、再生可能な新素材技術の確立によって、石化資源に代替できる新たなスタンダードを創出しカーボンニュートラルに貢献することも可能です。また、当社事業の生命線である木材資源の調達を持続可能なものにするための取り組みも強化していきます。
環境ビジョンと成長戦略を連動させることは、すなわち社会・地球環境のサステナビリティと当社事業のサステナビリティを連動させ、競争力強化や企業経営のレジリエンス向上につなげていくことにほかなりません。また、これらを実践していくためには、研究開発から原材料の調達、工場での生産活動、そして当社が生み出した製品をお客様にお届けし使用され、やがてその役割を終えるその先も見据えた、バリューチェーン全体のあり方を、サステナビリティ視点で見つめ直し、再構築していくことが必要です。これらの考えの下、従来の「CSR基本方針」を改定・進化させ、今般、「DAIKENサステナビリティ基本方針」を制定しました。不確実性の高い時代において舵取りを任された経営者として、当社グループがもつ“技術・発想・情熱”を結集させ、こうした「サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)」を力強く推進することで、持続的な企業価値の向上を追求していく所存です。今後も変わらぬご支援を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。