2022年10月25日
お話を聞いた方:野村 孝伸(大建工業株式会社 代表取締役 常務執行役員 国内事業統括、国内新規事業担当)
※役職は撮影当時のものです。
インタビュアー:こにわ(サンミュージック)
☆本インタビューのダイジェスト映像はこちら
“「建築資材の総合企業」DAIKEN”として、住宅・建築業界ではおなじみの大建工業株式会社(本社:大阪府/本店:富山県)。幅広い分野で活躍している大建工業の事業に対する取り組み姿勢や魅力を伝えていくWEBマガジン「DAIKEN魂!」。
第2弾は、音に関する社会課題をテーマにインタビューしました!!
こにわ:こんにちは! こにわです。
今回は東京・秋葉原にあります、DAIKENコラボレーションスタジオにお邪魔しています。
大建工業さんが音の課題について、どのような取り組みをされているのか。音というのは私たちにとって身近な問題の一つでもありますから、どのようなお話が聞けるのか楽しみです!
今回お話をお伺いするのは、代表取締役 常務執行役員 野村 孝伸さんです。よろしくお願いします!!
野村:よろしくお願いします。
音響製品事業は今年で40周年 大建工業の音へのこだわり
こにわ:音は私たちの生活に密接な関わりを持つテーマだと思います。このご時世になって皆さんちょっと敏感になってきているかもしれませんが、野村さんは音についてどのような印象を持たれていますか?
野村:そうですね。音というのは音楽や映画鑑賞、楽器演奏など様々な形で私たちの生活を非常に豊かにしてくれる面もありますが、一方でいろいろな社会課題に直結していく側面もあります。
音に対する印象は人それぞれに個人差があり、一人ひとりで感じ方も違えば、好き嫌いもあります。そこをどのようにうまくコントロールしていくかということがとても重要なところだと考えています。
こにわ:なるほど。それでは、音の社会問題や課題には、どのようなものがあるのでしょうか。
野村:一つの事例として、マンションやアパートなどの集合住宅で上の階から下の階へと伝わる音の問題があります。例えばスプーンを床に落としたり、椅子を引きずったりする音は、昼間ならそれほど気にならないのですが、夜のシ〜ンと静まり返った時などは随分気になりますよね。それが問題となってトラブルになっている事例は結構あるかと思います。
その他にも、例えば幼稚園で子どもがワーッと元気に遊んでいますよね。この音って小さなお子さんがいらっしゃる方からすると微笑ましいものかもしれませんが、人によっては「ちょっとうるさい」と騒音に感じてしまうこともあります。
このように、音というのは人によっては肯定的に捉えられる面もあれば、迷惑に感じられる側面もあります。
こにわ:騒音問題というのはよく耳にしますけれども、御社ではいつ頃から音の問題に関しての取り組みを始められたのですか。
野村:当社では音響製品事業をおこなっているのですが、最初の商品を出したのが今から40年前の1982年で、ちょうどその頃は床がカーペットから木質のフローリングに洋風化していた時代なんです。そしてその影響で、上の階の音が下の階へ伝わることが社会問題化していたタイミングでした。そこで防音の床や天井など音に関する課題を解決していく製品をどんどんと品揃えしていきました。
こにわ:私が生まれたのが1982年ですから、まさにタメですね。ありがとうございます(笑)。40年も前から音の問題に取り組んでいらしたのは驚きです。騒音には様々な種類がありますが、中でも注目されている騒音はどのようなものですか?
野村:当時は高度経済成長期からの流れでアパートやマンションなどが続々と建設された時代だったのですが、やはり先ほどもお話しした通り上の階から下の階に伝わる音というのは大きな社会問題になっていました。また、畳やカーペットから木質系のフロアになっていったことで、そうした音の問題がより顕在化していったのです。そこで、当社としては問題を解消するため、音が下に伝わりにくい床材として『オトユカ』を開発するなど、様々な製品を世に出していきました。これによってマンション・アパートを含めてですけど、非常に住みやすい環境になっていったのではないかなと思いますね。
こにわ:防音をしたい場合の大事なポイントとは、どのようなところなのでしょうか。
野村:防音には大きく分けて「吸音」と「遮音」の2つがあります。
遮音というのは文字通り音を遮る、外に音を逃さない、外から入ってくる音を中に入れないということです。吸音というのは音が反響しないよう、適度に材料に吸収させる。
この2つを組み合わせることで、部屋全体の防音性能を上げていくのです。
こにわ:そのために大建工業さんではどのような建材を提供しているのですか?
野村:例えば、天井は石膏ボードだけだと音が響くんです。室内の会話やテレビの音は、響くと聞き取りにくくなる。でも、その音を適度に吸収してあげることで、非常に聞き取りやすくなるんですよ。そこで効果的なのが吸音天井なんです。
当社は元々、1945年に合板からスタートした会社で、その13年後の1958年に、木を細かなファイバーにしたものを使って軽量ボードを作ったんですね。これが軽いうえに強度もあって、さらに吸音性能もあったんです。これが業界初となる吸音天井で、当社の音に関する建材開発のスタートといえます。まず素材があって、それを住宅にどう活用していくか、その中で出てきたのが音に関する事業ですね。
こにわ:すごいですね。音響事業がスタートした1982年よりさらに20年以上前から、大建工業さんの開発していた素材がすでに音の吸収をしていたという。
野村:吸音天井でそこに住む人に快適な空間を提供した後、下の階に住む人への配慮として先ほどお話した『オトユカ』などの音を軽減する防音床材を提供しました。さらには、隣の部屋への会話漏れなどを防ぐために壁材・遮音シート・石膏ボードを重ねる工法の開発など、次々にフェーズ展開させていきました。
こにわ:なるほど。天井、床、壁と、音の対策は進化しているのですね。このように生活音の問題が解消されてくると、今度は趣味を楽しむ欲が出てくるのではないですか?
野村:そうですね。十数年前頃から大型のスクリーンでテレビや映画が観られる自分専用のシアタールームを持ちたいという方が増えました。サラウンドをリアルに再現するにはシステムの性能だけではなく、部屋全体の適度な吸音をはじめとした音響設計が重要なんです。音のお悩みや相談に長年お応えしてきたのが私どもの音響事業ですので、音響設計に関するノウハウや知見には自信を持っております。
また、2022年に音響事業が40周年を迎えるにあたり、『40の音物語』という記念サイトを当社のホームページに掲載しています。日常生活の中で「あっ、こういうことあるよね」という具体的な音問題のあるあるをシチュエーションごとに掲載して、それをどのように解決すれば良いのかまでをご提案させていただいておりますので、現在、音の悩みを抱えている方にぜひご覧いただきたいです。
DAIKENオリジナル吸音材の効果を体感!!
こにわ:このDAIKENコラボレーションスタジオ内には、一般的なクロス仕上げの部屋と吸音体感ルームがあり、吸音材の効果を体感できるとのことなので、ちょっと入ってみます。
さあ、まずこちらの部屋が一般的なクロス仕上げの部屋ですが……もう声が響いていますね。手を叩いてみます(パンパン)。やっぱり音が響いてしまいます。 会議室として使用する場合、この状態でみんなが一斉にしゃべったりすると声が聞き取りにくいでしょうね。私みたいに声の大きな人は、「この会議室から出ていけ〜!」なんて言われそうです。
では、今度はお隣にある吸音体感ルームに入ってみましょう。
はー、これはすごいですね。入った直後から聞こえてくる音がもうぜんっぜん違う! 違うというのは、余計な音が吸収されて必要な音がクリアに聞こえるんです。手を叩いてみます(パンパン)。やはり音の響きが抑えられています。
これは会議をする時には最高ですね。それでいて音がこもったような圧迫感もまったくなく、適度に音が広がるので心地良く話すことができます。この会議室だったらいくらでもいいアイデアがでますね! いや〜、参りました。
公共・商業施設の音の課題にも次々に対応
こにわ:大建工業さんでは一般住宅以外に、公共・商業施設の音の課題にも多く関わってこられたようですが、ビジネスの面でいうと、いろいろな企業の要望や課題などをどのように解決されたのでしょうか?
野村:公共・商業施設向けの音に関する製品も数多く出しているのですが、例えば、街のクリニックで患者さんと問診している声が診察室から聞こえてきたら嫌ですよね。他にも歯医者で歯を削るときのキーンという音が聞こえてくると、お子さんが怖がってしまう。
こにわ:そうなんですよ!
野村:これを防音ドアで仕切ると、音が聞こえにくくなりますし、プライベートな空間も保つことができるようになります。
他には、今でもカラオケ屋さんってたくさんありますよね。昔はコンテナを改造して、その中でカラオケを楽しんでいた時代があったので、カラオケボックスといわれていたんですよ。コンテナは密閉性が高いですが、音漏れを防ぐためには開口部、出入り口の処理がとても大事でして、当社で開発したカラオケボックス用の防音ドアを多くの店で採用してもらいました。その流れで、今でも多くのカラオケ屋さんでは私どもの防音ドアをずっとお使いいただいております。
こにわ:へーっ、そうだったんですか!
野村:あと、カラオケ屋さんで使われている片開きの防音ドアは20数年前から製品化しているのですが、ついに吊戸タイプを出しました。防音ドアで仕切れば音は聞こえにくくなるので安心ですが、病院・クリニックをはじめとした公共・商業系の施設では引き戸の方が使い勝手が良いケースが多いんです。ただ、引き戸は構造上隙間が多くなってしまうため、これまで音の課題を解決するのが難しかったのですが、今回診察室などからの音漏れを50%程度軽減し、スピーチプライバシーに配慮した吊戸タイプの室内ドアを製品化しました。
また、ここ数年はコロナ禍の影響でご苦労された旅館業ですが、状況が沈静化していく中でのインバウンド需要は高まっていて、都内を含めて高級ホテルがどんどん建設されています。ホテルの床は絨毯といいますか、カーペットが結構多いのですが、私どもではあえて木質の床をご提案しているのです。
こにわ:えーっ? それ、すごいですね。
野村:やはりホテルでも上から下へ音が伝わってしまうことをすごく嫌っていて、特にハイヒールの靴音は階下に漏れやすいのです。実はそれを解決するフロアも開発しておりまして、(目の前の床を指差して)そこに張ってあるんですよ。
こにわ:この目の前に張ってあるこれが!? うわ、それすごくないですか?
野村:カーペットの代わりに使ってもらうためには、カーペットと同じ厚みの木質の建材をいかに開発・加工していくかが重要で、それをクリアしたのがこの製品です。土足にも対応していますので、様々なシーンで活用いただけると思います。
お客様のお困りごと、クレームを参考に次の商品開発を
こにわ:いや、すごいなぁと思うのが、大建工業さんの『製品をどんどん進化させていく開発力やモチベーションの高さ』です。やはり、製品を使用された方からのフィードバックを参考にされるのですか?
野村:そうですね。建材メーカーの中では私どもだけだと思うのですが、サウンドセンターという施工時のアドバイス等も含めた設計提案を行う専門部署を用意しています。物件ごとにカスタマイズした「防音仕様提案」を行うなど、ソフト面での技術支援も行うことで、防音室の設置を後押ししていて、現在もお客様の困りごとに対して、ハード(製品)・ソフト(防音設計)の両面から、空間全体で提案できる体制を整えています。
このサウンドセンターに寄せられた皆様からの音に関する様々なお困りごとや相談事をお聞きして参考にさせていただいております。
コロナ禍になっておうち時間が増えたことで、普段は気にならなかった音の悩みが出てきたのか、サウンドセンターへのお問い合わせ件数はコロナ前よりずっと増えました。中にはクレームもありますがこれもまた大事でして、クレームをきっちりお聞きすることが次の商品展開につながっていくんですね。そのような繰り返しを40年間やってきたわけです。
こにわ:こうやっていろいろな開発をしてきたからこそ、今度はそれを使った組み合わせで問題を解決することができるということですよね。ありがとうございます。
最後になりますが、これから先、音との関わりについてどのようなところを目指していくのか、音響事業の未来を教えてください。
野村:先ほどから吸音や遮音に関して様々な素材、材料を組み合わせた建材による空間設計についてお話しさせていただきましたが、建材軸での発想なのでパッシブ=受け身の発想なんですよ。それだけではなく、アクティブに音をコントロールしていくような方向へ行きたいなと考えています。
こにわ:アクティブに!? ちょっと待ってください。それはどういうことですか?
野村:例えば新製品として『サウンドトロン』という丸太状の自立式吸音材を開発したのですが、設置数や設置位置を変更することで、室内の音響を自分好みに調整することができます。
こにわ:うわっ、すごいですね。それ、面白い!
野村:他にも、建材だけでは多分できないのですが、アクティブな音響技術を組み合わせることで、嫌な騒音は消して聞きたい音だけを空間に流すとか。
また、空間の一定のポイントだけに音を流す音響技術があるんですよ。ピンポン玉ぐらいの空間に耳を移動させることではじめて音が聞こえるので、そちらではクラシックが聞こえて、こちらではジャズが聞こえるといった、今までにない新たな空間づくりの実現を目指していきたいですね。
こにわ:いや、すごいですね! 有名なテーマパークでは、アトラクションごとにテーマが決まっていて、それぞれの場所で曲が切り替わったりしますけど、そのようなことがおうちの中で実現できるかもしれないと。これは皆さん、すごい未来が待っていますよ!
ということで、まさに大建工業さんの魂を感じさせてもらったので、最後に二人で決め台詞をよろしいですか。
こにわ・野村:『DAIKEN魂!』