トップインタビュー

トップインタビュー 代表取締役 社長執行役員 億田正則

Questionこれまでの新型コロナウイルス感染拡大による影響とその対応状況についてお聞かせください。

新型コロナウイルスの世界的な感染拡大は、社会、経済活動に甚大な影響を及ぼしています。最前線の医療従事者の方々をはじめ、感染拡大防止に尽力されている方々に日々支えられていることに対し、感謝の念に堪えません。依然として事態の行方は予断を許さない状況が続いていますが、当社でも引き続き、お客様、お取引先様、従業員とその家族をはじめとするすべてのステークホルダーの安全確保と感染拡大防止に最優先で取り組み、影響を最小限に抑えられるよう努めていきたいと考えています。そんな中にあって、2019年度の業績への影響という点では幸いにも限定的でした。2020年2月から3月にかけて、当初、感染拡大の影響が大きかった中国からの部材調達に懸念がありましたが、2018年度に発生した調達面のトラブルを踏まえて強化を図ってきたBCP対応により、住宅、建築資材の需要が高まる期末時期における安定供給という点では、メーカーとしての責任を果たすことができたと思います。
2020年度に入ってからの影響としては、事態が刻々と変化する難しい状況ではありますが、このインタビューを実施している 6月時点まででいえば、まず、全社的な対応として、私が本部長を務める対策本部を設置し、国内外を含めた全社一元的な管理体制の下、感染拡大防止を徹底しながら、可能な限りの事業活動の継続に努めているという状況です。主要拠点の状況としては、国内生産拠点では、一部生産調整を行いながらも、稼働を継続しています。海外では、ニュージーランドのMDF工場が、ロックダウンにより、3月下旬から4月末までの約1カ月間停止しました。また、米国のLVL工場でも、稼働率を4~6割程度抑えての操業を余儀なくされました。その他、マレーシア、中国、インドネシアの各工場でも制約を受けるなど、日本国内に比べ、海外の影響が大きい状況です。東京、大阪をはじめとする業務拠点では、日本政府による緊急事態宣言の下、原則、在宅勤務の体制に移行し、8割以上の水準を維持することができました。急場での対応ではありましたが、BCPや働き方改革の視点で準備を進めてきた仕組みが機能したといえると思います。また、売上、受注面では、期初4月時点での影響は限定的でしたが、月を追うごとに厳しさが増している状況です。当社が手掛ける住宅、建築資材は、着工から2~3カ月程度遅れて影響が出てくることから、2Q以降に想定される急激な需要減に備えるため、需要動向に対して、柔軟に対応できる生産体制などの準備を進めているところです。

Question2019年度は中期経営計画「GP25 2nd Stage」のスタートの年でした。1年目を終えての成果と課題についてお聞かせください。

まず成果としては、新設住宅着工戸数が減少する中での、着実な市場ポートフォリオ見直しの進展と、注力市場強化に向けたM&Aの2点が挙げられます。2019年度は、以前からいわれていたことではありますが、10月の消費増税以降、新設住宅着工戸数が減少トレンドに向かった年でした。上半期までは駆け込み需要もあり、持家、分譲戸建が前年比プラスで推移するなど好調でしたが、年度ベースでみると下半期の反動減によりマイナス7.3%と全体としては低調に推移しました。しかしながら、そのビハインドの環境下でも、建材事業は、新築住宅市場向けで増収を維持しながら、非住宅の公共・商業建築分野や住宅リフォーム市場への展開を強化することで、プラス6%と伸ばすことができました。新設住宅着工戸数が減少する中でも、差別化製品の提案でシェアアップを図るとともに、市場ポートフォリオの見直しを着実に進めることで、存在感を高めることができる手応えが得られました。さらに、注力市場と位置付けている海外市場、公共・商業建築分野、住宅リフォーム市場の3つの市場で強化に向けたM&Aの手が打てたことは成果といえると思います。
特に海外市場では、市場規模が大きく、中長期的な成長が見込まれ、さらに当社が得意とする木造住宅を主とする北米市場に足掛かりができたことは、大きな一歩でした。北米での展開としては、当面はまず、既存事業である住宅向けのLVLを中心に拡販を進めることになりますが、今後は、防腐、不燃などの機能を付与した付加価値の高い製品をラインアップに加え、住宅向けでの提案の幅を広げるとともに、2018年に資本業務提携した伊藤忠商事(株)のリソースも活用し、非住宅の商業施設などへの販路の拡大や他の素材、建材への展開も検討を進め、中長期の戦略を描きながら、北米でのさらなる拡大を図っていきたいと考えています。
公共・商業建築分野においては、これまでラインアップできていなかった無垢床材事業の本格展開を開始しました。無垢材に対して根強いニーズのある体育館や教室などの文教施設を中心に提案を強化していきたいと考えています。またこれと並行して、営業体制も住宅中心から、公共・商業建築分野への大きなシフトを進めています。公共・商業建築分野での提案力を強化し、販売拡大を加速させていきたいと考えています。
一方、課題として挙げられるのは、素材事業の主力であるMDFが、米中貿易摩擦などに端を発する海外市況の悪化の影響を大きく受け、業績が低迷したことです。市況が悪化すると汎用製品は価格競争に陥り、売価の低下など大きな影響を受けますが、床材の基材として使用される特殊MDFは、耐水性や寸法安定性に優れていることが顧客に評価され、安定した受注を確保することができました。機能性に優れた付加価値の高い製品は、市況悪化の影響を受けにくいことが明確になりました。

当社では床用特殊MDF以外にも、機械すき和紙を加工し、従来のい草にはない耐久性を付与した畳おもてや、住宅での音の問題を解決する音響製品、独自技術で意匠性を高めた床材「トリニティ」など、当社にしか提供できない差別化製品を数多くラインアップしていますが、さらなる製品開発と新たな用途開発を、体制の整備を含めて強化していきたいと考えています。

代表取締役 社長執行役員 億田 正則

Question2021年度までの中期経営計画「GP25 2nd Stage」達成に向けた方向性についてお聞かせください。

まず直面する不確実性の中でリスクと機会を見極める必要があります。リスクに対しては、増産を前提とした設備投資の凍結、費用の総点検・厳選、一段の資産効率化の追求とともに、手元流動性の水準の引き上げなど、足元を固めるための体制づくりを進めています。これらリスクへの備えを進める上で留意すべき点は、費用の総点検・厳選の中で、何もかも一律にやめてしまうこと。そして機会を逃さないことが肝要だと考えています。身構えるだけでは、縮小し衰退するだけになってしまうおそれがあります。“切り落とした枝の先に将来に向けた大切な芽がある”ということがないよう、中長期の競争力、企業価値向上に不可欠なものを見極め、“攻めるべきは攻め、守るべきは守る”スタンスをとり、攻守両面を見据えてトップとして判断していきたいと考えています。
そして、リスクに備えつつ、不確実性の中の変化を見極め、機会を捉えて手を打つ必要があります。2008年のリーマンショックの際には、年度ベースの新設住宅着工戸数が103万戸から77万戸に25%程度減少するという厳しい市場環境に直面しました。当時は2000年前半からキッチンなどの住宅設備機器、屋根材、外装材、さらには、創業期の事業である合板も撤退するなど、事業構造改革を進めていましたが、その一方で機会を捉えて、ニュージーランドのMDF工場をグループ化し、素材事業の拡大を図りました。今では拡大したキャパシティを生かし、また工場ラインの長所を考慮した製品のすみわけも進め、量産型の汎用製品はニュージーランド工場に委ね、マレーシア工場では高付加価値の床用特殊MDFの生産に特化し、今般の市況悪化でも影響を受けにくい製品として経営を支えています。また、建材事業の主力製品ではあるものの、当時苦しんでいた床材において、創業期からの主力工場だった名古屋工場の機能を現在の三重工場に集約し、設備も刷新することで生産性向上に舵を切りました。今では建材事業の中核となる存在として復活を果たしています。
今回のコロナ禍でも、機会を捉えるための事業ポートフォリオの見直しを加速させたいと考えています。これまでは新設住宅着工戸数が漸減するというリスクシナリオの下、2nd Stageから3rd Stageにかけて段階的に進める想定でしたが、時間軸を早め、役割を終えた事業は縮小・撤退の判断をしていきたいと考えています。そしてその一方で、リーマンショックの時と同様、勝ち続けるための事業、次の成長源となる事業には、積極的に経営資源を投入していきます。不確実性が高い中のM&Aは、より難しい判断にはなりますが、条件面では有利な場合が多いと思います。当時と比較して改善している財務体質も生かしながら、その機会をしっかりと見極めたいと考えています。
このような状況の中で、2021年度に向けた中期経営計画「GP25 2nd Stage」の目標については、需要減の影響や、既存事業だけをみれば、当然厳しい面があります。しかしながら、中期経営計画の基本スタンスとしている “新設住宅着工戸数が減少する中でも、事業・市場ポートフォリオを変革し、長期ビジョンで目指す姿「建築資材の総合企業」に向けた取り組みを着実に進める”という考え方に変わりはありません。また、不確実性の中の機会を捉えた新たな展開も含め、現段階で経営目標を変えるつもりはありません。さらに長期ビジョン実現に向けた総仕上げとなる2022年度からの「GP25 3rd Stage」のスタートに向けて、社会課題解決につながる当社らしい、素材、建材、エンジニアリング事業に次ぐ、第4の柱となる次世代事業のシーズを見出したいと考えています。
外部環境の変化に対応し、新しいものを生み出すのも、お客様をはじめとするステークホルダーの皆様との信頼関係を構築できるのも、すべては人財力だと考えています。新型コロナウイルスの影響で働き方が変わっていく中においても、グループ全従業員が、それぞれが持つパフォーマンスをいかんなく発揮し、活躍できる職場環境づくりなど、人財への投資も強化していきます。

Questionコロナ後を見据えた中長期の経営戦略をどのように描きますか?

キーワードとして、「変化」と「原点回帰」があると思います。変化については、「働き方の変化」と「くらし方の変化」の2つの視点があります。まず働き方の変化としては、「出勤=仕事」であるという概念はなくなり、自宅やサテライトオフィスなど場所を選ばず仕事をするリモートワークのスタイルが当たり前になることも考えられます。営業活動では、対面中心からオンラインも活用することで移動の必要がなくなり、その時間を市場分析、お客様のニーズにマッチした提案、企画の充実など、付加価値を高めることに充てることができます。また事務ワークは、在宅勤務による対応が可能で、業務内容によっては、むしろ集中することができ、生産性が高まります。これらは、子育て、介護などライフイベントを抱える従業員でも活躍できる場が広がっていることの証明でもあります。
くらし方の面においても、今後はさらに様々なシーンでオンライン化が進むことになるでしょう。オフィスに近い都市部に住む必要性がなくなり、むしろ、地方に生活の拠点を移したり、郊外の広い一戸建てで生活することがトレンドになる可能性もあります。オフィスでは、できる限り接触を避けながら快適性、機能性を追求したスペースが求められ、ウェブ会議が当たり前となり、そのための個人用ブースの新たな需要が生まれることも考えられます。家庭では、在宅勤務に必要なデスクワークスペースや家族との共生のための防音などの機能を持つ空間が求められます。また、ウイルス対策として、当社では2012年より新型インフルエンザの発生を機に開発した抗ウイルス機能「ビオタスク」を付与した製品の提案を進めていますが、今後は抗ウイルス機能の適用範囲を拡大した製品開発を進めることで社会に貢献していきたいと考えています。加えて、昨年度から医療施設向けの建材をシリーズ化して発売しましたが、この内容では物足りないことがわかりました。「命を守る最前線で活躍する方々の役に立てる製品づくりを」という新製品開発における大義、課題ができたといえます。
今のまま、今までのまま、同じことを続けるだけでは、“選ばれ続ける企業”には成り得ません。常に「昨日の自分を超えることができたか」を自問自答する必要があります。コロナ後の社会の変化を見据えて、新たな価値を提供する対応力とスピード感が求められます。これはまさに、グループ行動指針に掲げた「ニーズや社会の変化を先取りし、安全・安心・健康・快適で魅力あふれる製品・技術・サービスを提供することで、お客様の満足と信頼の向上に努めます」の実践そのもので、真価が問われます。
最後に「原点回帰」。コロナ禍により不確実性が高まる中、原点に立ち返る必要があります。当社は2020年9月に創立75周年を迎えます。終戦直後の創業から今日まで、経営上厳しい局面、危機と呼べる時期もありました。その中で当社が存続し、成長し続けることができたのは、原点があるからだと思います。木材加工業を祖業とした「限りある資源の有効活用を通じた持続可能な社会への貢献」、そして、素材に機能を、さらに付加価値の高い建材へと事業展開する中での「安全・安心・健康・快適な空間づくり」。これら2つのこだわらなければならない原点があります。新型コロナウイルスによる影響がフォーカスされますが、これによって、気候変動や頻発する地震、資源の枯渇など他の社会課題が無くなるわけではありません。不確実性が高まる中だからこそ、原点に返り、より本質的な「事業を通じた社会課題解決」への貢献のあり方を追求することが重要だと考えています。当社が創業以来大切にしてきた原点を踏まえ、今後の社会への貢献のあり方についての検討を“DAIKENの強みの再確認 ”を含めて、進めていきたいと考えています。これらの取り組みが、持続可能な社会、そしてSDGsへの貢献にもつながると思います。

代表取締役 社長執行役員 億田 正則