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長期ビジョン「GP25」の最終ステージである中期経営計画「GP25 3rd Stage」の初年度が終わりました。
まずは、「GP25 3rd Stage」で重視していることを聞かせてください。

当社は、2025年を見据え、これまでの「住宅用建材メーカー」から「建築資材の総合企業」へと成長することを“目指す企業像”として掲げた長期ビジョン「GP25」を2015年に策定し、以来、10年間のロードマップを、第1フェーズ、第2フェーズ、第3フェーズに分けて、中期経営計画を策定し推進してきました。

「建築資材の総合企業への第一歩を踏み出す」と銘打った2016年度からの第1フェーズでは、既存事業の深耕を図りながらも成長の鍵となる新規事業の基盤づくりに着手し、続く2019年度からの第2フェーズは、目指す姿の実現に向けて成長戦略を加速させるステージと位置付け、海外を中心とした積極的な成長投資の遂行と、国内事業ポートフォリオの見直し、そして経営基盤の強化を進めてきました。

2022年度は、これまでの6年間の成果を受け継いだ最終ステップとなる中期経営計画「GP25 3rd Stage」の初年度でした。第3フェーズの4年間で、当社は「建築資材の総合企業としての姿を確立」するために、さまざまな施策を遂行していきます。

今、改めてこの1年間を振り返ると、一言で言えば、さまざまな要因により事業環境が激変を続ける中で、環境変化への対応に翻弄された、課題の多い1年だったということです。新型コロナウイルスによるパンデミックも収束しきらない中で、2022年2月にはロシアによるウクライナ侵攻が勃発し、それに伴う原燃料価格の高騰や急速なインフレがあり、欧米を中心とした金利の上昇や米国での金融機関の破綻など、事業環境の不確実性は、今も高まっています。

そのような中で改めて大建工業の強みを見直すと、1945年の創業時から、サステナブルな社会の実現に資する事業を一貫して続けてきたことにあると私は考えます。製材の端材や建築解体木材を何かに活用できないかという発想から、廃木材チップなどの木質再生原料を主原料とする木質繊維板「インシュレーションボード」の生産を開始したのは1958年にさかのぼります。畳床や養生ボードなどに使われるこの製品は、断熱性や調湿性、さらにはクッション性や軽量化といった新しい価値を社会に創出しながら、木質素材をマテリアルとして使い続けることで炭素を貯蔵し続けています。生産開始当時は、今ほど気候変動への危機感や脱炭素化に対する社会的要請は高くなく、炭素の貯蔵機能を顧客に訴求することもありませんでした。しかし当時から当社の中に浸透していた、貴重な資源を余すことなく使い尽くそうという発想と技術は、今も当社に脈々と受け継がれています。

グローバル全体が「環境」価値に、より重きを置く方向へ変化してきたことで、限りある資源を活用するために大建工業が磨き続けてきた発想と技術は今、社会の要請と合致し、当社の飛躍的な成長を支える大きな基盤となっています。

私は、「GP25 3rd Stage」を策定するにあたり、当社の強みである「サステナビリティ」を経営の軸に据え、事業を通じた社会課題解決の追求をもとに、成長し続けることを基本方針として掲げました。ですが、この方針は「GP253rd Stage」だけにとどまるものではありません。その先の未来においても、絶えず念頭に置いて経営を進めていくべきものと捉えています。なぜなら、当社の持続的な成長が、私たちの暮らす社会そのもののサステナビリティの実現につながると確信しているからであり、それこそが当社の存在意義でもあるからです。

2022年度の市場動向にも触れながら当期の振り返りを聞かせてください。

国内の新築住宅着工戸数は2022年度には86.1万戸と、コロナ禍を通じて大きな減少を見ることなくほぼ横ばいで推移しました。その中身を見ると、2022年度に入って持ち家の弱含みが続いた一方で、賃貸は好調に推移し、また戸建分譲住宅も前年度の水準を維持しました。日本国内は人口減により、今後、住宅着工戸数の大幅な増加は望めないものの、社会全体が脱炭素に資するサステナブルな方向へと大きく舵を切っている中、環境視点で多彩な品ぞろえを持つ当社の強みを訴求することで、さらなるシェアの獲得につなげていきたいと思います。一方、住宅リフォーム・リノベーション市場は、コロナ禍でテレワークが増え、家の中での過ごし方に対する生活者のいろいろな気づきが、さまざまな需要の拡大につながっています。「音」や「におい」「湿気」など、これまで気づかなかったり、気づいてもさほど大きく捉えていなかった問題が顕在化したことで、ユーザーニーズの拡大は一時的な反動としてではなく、しばらく続くものと見ています。国内の住宅リフォーム・リノベーション市場は6~7兆円に上るという調査結果も出ており、生活者ニーズに対応した製品・空間の提案の強化を進めることで、成長機会を逃さず捉えていきます。

公共・商業建築分野では、「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」が2010年に施行されて以来、国が率先して木材利用の促進を図っており、当社には追い風が吹いています。その一つの例が公立学校施設の木質化に向けた取り組みです。文部科学省によると、2021年度には新築公立学校施設の7割以上に木材が使用されましたが、校舎の木質化によって、子どもたちの「ストレスが緩和され落ち着いた」「集中力が向上した」「地域木材や自然への関心が高まった」といった効果も発表されており、木質化の動きがさらに広がることで当社の事業機会の拡大にもつながると期待しています。当社はまた、「地産地消」を軸に、地域材をフローリングや壁材に活用する取り組みも行っており、さまざまな分野での内装木質化を切り口に、当社の各種機能建材を通じて、快適な空間づくりを提案してきました。またオフィスビル等に関しても、東京・大阪で数多く再開発案件が進行するなど、市場は活況が続いており、人手不足の懸念はあるものの、内装工事等で回復する需要を取り込むことができました。

海外市場では、世界最大の木造住宅市場である北米事業が2021年度には大きく利益貢献した一方で、2022年度は金利上昇の影響で住宅着工の減少傾向が続いています。「ウッドショック」と呼ばれた木材製品の価格高騰も、2022年度後半からは、LVL、単板ともに調整局面に入っています。2022年8月にはLVLの製造・販売を手掛ける米Pacific Woodtech Corporation社(PWT社)が、事業拡大を目的に増資したことで、当社の連結子会社からはずれ、持分法適用関連会社になりました。その影響で、2022年度の海外売上高の比率は、前期から4ポイント縮小し28.3%となりましたが、海外市場を成長ドライバーとしていく方針に変更はありません。そして、この方針を遂行するにあたり、インドネシアのドア事業については、販路を従来の英国だけでなくヨーロッパ市場へと広げていくなど、新市場の開拓にも注力しています。また、マレーシアとニュージーランドで製造する当社素材事業の主力製品であるMDFについては、収益性改善に向けた構造改革を推進しながら、コスト増に伴う売価への転嫁を順調に進めることができました。

このような市場環境の中でも、2022年度は課題の多い1年だったと申し上げたのは、2021年度第4四半期に発生した建材事業の納期遅延、受注制限による販売減の取り戻しや、原材料等の急激な高騰によるコスト増へのリカバリーなど、この1年、事業環境の変化への対応が総じて後手に回ったためです。特にコスト増に対する合理化やコストダウン、売価への転嫁などの各種施策は、大きく遅れたと言わざるを得ません。その結果、売上高は前期比2.4%増の2,288億円に対し、営業利は同43.2%減の98億円、経常利益は同30.5%減の130億円となりました。なお、親会社株主に帰属する当期純利益はPWT 社の異動に伴う特別利益の計上で、同31.2%増の103億円となりました。

中計初年度を終えて積み残した課題とその対応策や、初年度に見られた成果を聞かせてください。

最大の課題は、1年を通して後追い・守りの行動を強いられたことで、収益性向上に向けた事業構造改革が遅れていることです。また、素材こそ常に新たな用途を開発していく必要性を感じていながらも、直面する課題への対応を優先し、新規用途開発や新規顧客開拓が後手に回ったことも否めません。まさに変化への対応力が問われており、不確実性の高い事業環境が続く中でも、先を見越した手立てを講じなければなりません。

そこで2023年4月には組織改編を実施し、マーケティング・企画機能の強化を図ることで市場の変化に柔軟かつ迅速に対応できる体制を構築しました。またコンフォート事業統轄部を新設し、製造・販売・工事が一体となった体制を構築し、公共・商業建築分野をメインターゲットとした新たなビジネスモデルの推進を加速します。

一方で、着実な成果が見られた取り組みの一つが他社とのオープンイノベーションを通じた新製品開発です。未来のオフィス空間を実現するための協創型コンソーシアムでは、当社の吸音パネルを他社の技術と融合させた新たなソリューションを開発しています。もう一つが、社内ベンチャー制度で新事業として発足した、都市部のオープンスペースで手軽に野菜などが栽培できる菜園システム「みんなのエコ菜園」です。高層階から都会を眺めると屋上の活用ができていない建物はとても多く、その殺風景な屋上を緑に変えて地域の緑化率向上につなげるこのサービスには、多くのお問い合わせをいただいています。当社が技術開発した木質培地「グロウアース」もこの菜園には活用されており、都会の緑を増やしながら実績も伸ばしていきたいと思います。こうした取り組みからは、当社が従来の主軸である住宅領域の枠を超え、公共・商業建築分野などにも目を向けて知恵を出していることが手ごたえとして感じられ、「建築資材の総合企業としての姿を確立」しつつあると嬉しく思います。

代表取締役 社長執行役員 億田 正則

サステナビリティを経営の軸に据えた背景と、そのことによる企業価値への影響を聞かせてください。

国内市場を見渡せば、2022年には約78万人の人口が減少しており、建築作業に従事する人材も、高齢化に加え従事者数そのものが減少しています。こうした大きな趨勢の中において、歴史的に住宅を中心に事業展開していた当社が、「建築資材の総合企業」を目指す姿に掲げるのは必然的な流れであり、日本国内では住宅市場は新築からリフォーム・リノベーション市場へ、住宅市場から公共・商業建築分野へと事業ドメインを拡張し、日本だけでなく海外市場への展開にも注力しています。

競合メーカーと異なり、当社は素材・建材といった製品の販売だけでなく、工事も手掛けているという特徴があります。この素材からエンジニアリングまでの事業を、非住宅領域でも展開することで、人口減の中でも成長する市場を確実に捉えることができており、2015年に長期ビジョン「GP25」で打ち出した方向性は間違ってはいなかったと自負しています。

先ほど、大建工業の強みを、創業以来磨き続けてきたサステナブルな発想と技術だと申し上げましたが、その取り組みは木質素材だけにとどまりません。天井材などにご利用いただいている「ダイロートン」は、製鉄時の副産物であるロックウールを活用して板状に成形したもので、未利用の鉱物資源の持つ不燃性や吸音性を活かして開発した素材です。また火山国の日本には大量の火山灰が未利用のまま眠っていますが、この火山灰とダイロートンで使われるロックウールを活用することで、不燃性に加えて防蟻性、防腐性、高強度を特長とする「ダイライト」を、住宅やオフィスなどの壁材に活用しています。

世界を見れば、ウクライナ紛争等の地政学リスクや、資源・エネルギー価格の高騰、インフレや為替変動といったリスクも認識していますが、気候変動危機への対応や循環型社会の実現に向けて、個人レベルでもSDGsへの意識が高まっている大きなうねりもあります。環境に資する当社製品の品ぞろえは、先人の努力による恩恵もありますが、私はその先人たちから脈々と受け継いだ、限りある資源に対する姿勢こそが、ことさら、これからの時代により大きな強みを発揮すると考えています。

「GP25 3rd Stage」の作成時には、最終年度の2025年度よりさらに先の2035年を見据えて、「資源循環・循環型社会の実現」「ニューノーマル時代のユーザーニーズ」「働きやすさ、働きがい向上による多様な人財基盤」を優先的に取り組むべきマテリアリティ(重点課題)に設定しました。こうした私たちが目指すサステナビリティについては、「DAIKENサステナビリティ基本方針」で明確化しており、持続可能な社会・地球環境・経済の実現に貢献することと、企業としての持続可能性の追求が、異なる2軸ではなく相互に連動し好循環を形成することで、持続的な企業価値の向上につながると考えています。

そして、その実行に向けた中長期の成長戦略として、サステナビリティ課題に対する重点施策と目標値を「成長の最大化」と「リスクの最小化」の2つの視点で定め、時間軸も中期と長期の2軸でプロットしたサステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)を展開していきます。環境、事業活動におけるさまざまな取り組みを、SXの考え方のもと整理を行い、実行に向けたロードマップを社内で共有することで、取り組みの実効性が高まるものと期待しています。

環境戦略に関しては、2021年10月に策定した「DAIKEN地球環境ビジョン2050」で、「温室効果ガス排出量ネットゼロ」「廃棄物の最終埋立処分量ゼロ」「天然木のラワン材使用ゼロ」の3つのゼロ達成を含む長期目標を掲げています。これらの取り組みについては、私が委員長を務めるサステナビリティ推進委員会において進捗をモニタリングし、推進を図っており、中でも「天然木のラワン材使用ゼロ」を含む「自然との共生」のテーマについては、森林破壊の防止だけでなく、地域住民や林業に従事する人たちの人権への配慮も徹底していきます。また、こうした取り組みと並行して、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)に沿った情報開示の充実化・高度化も進めています。

2023年5月には、木質由来の接着剤を用いたMDF製造技術を確立しました。これにより、将来的には化石燃料由来の接着剤等を使用しない、天然素材比率100%のMDFの実現が可能になると考えます。他社製品との差別化につながるだけでなく、製品を生み出す技術から製品を循環させる技術へと進化を図ることで、当社と社会のサステナビリティを同時に実現することを目指します。

DAIKEN のサステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)展開概要

経営基盤の強化について、重要な経営資源である人財基盤やガバナンスについての考え方を聞かせてください。

自社の強みを改めて見直し、人、モノ、カネだけでなく、当社が長年培ってきた技術やノウハウなどあらゆる資源を投入して強化を図ることで、中長期にわたる成長を支える事業基盤を創っていきます。中でも、当社の強みである技術や発想力、ノウハウはすべて「人財」が生み出していることから、当社の価値を増幅させ続ける「人財」への投資はとても重要です。重点市場である公共・商業建築分野の売上を牽引するセールスエンジニアや、海外市場の展開を加速するグローバル人財、そして新たな価値創造に不可欠な研究開発人財の確保・育成は、喫緊の課題と位置付けています。同時に、ダイバーシティや、コロナ禍で定着しつつある柔軟な働き方も強力に推し進め、男性社員の育児休暇取得なども積極的に促しながら、多様な経験・バックグラウンドを持つ人財が集う組織としての強みを引き出していきます。技術の伝承などでデジタルを活用して品質を担保し、よりクリエイティブな分野に人財の持てる力を最大限発揮できるよう、人員配置の最適化も行っていきます。

また、大建工業の強みの源泉となっている企業理念については、一朝一夕には浸透が進みません。長い時間をかけて企業風土として定着させることが求められます。私は経営トップとして、情報を発信し続け、理念についても考え、討議する場を設けながら、理念実践の行動を称賛するサイクルを先頭に立って回し続けます。そして、そうした社員との対話を深めていくことが、若手の登用など、組織の活性化にもつながると感じています。

事業基盤の要となるガバナンスに関しては、2021年に監査等委員会設置会社に移行して、社外取締役3名を含む9名からなる取締役会を中心に、実効性の高いガバナンス体制を構築し、公正かつ透明性の高い経営に努めています。取締役会では毎年、実効性を評価しており、そこで抽出された課題は、社外取締役が委員長を務め、過半数を社外取締役で構成されたガバナンス委員会も積極的に関与しながら、内部統制の強化やガバナンス体制の改善につなげています。

代表取締役 社長執行役員 億田 正則

最後に、ステークホルダーの皆様に一言、お願いします。

経営環境が目まぐるしく変化し、先行きの不透明さが増している現在において、より多くのステークホルダーの皆様に当社の取り組みを説明し、さまざまな意見を広く収集して、企業経営に取り入れていくこと、即ちステークホルダーエンゲージメントの重要性は今まで以上に高まっています。今後につきましても、持続的成長に向けた成長戦略とその進捗や、当社の強みであるサステナビリティの取り組みなど、さまざまな観点からステークホルダーの皆様への情報発信や継続的な対話を強化してまいりますので、引き続きご支援いただけますようお願い申し上げます。