2021.9.30
DAIKENは2022年に建築音響事業40周年を迎えます。
それに伴い、2021年4月より、会員型コワーキングスペース「point 0 marunouchi」を活用しながら、音環境に関する実証実験を実施する等、新たな取り組みを始めました。
その取組みの一環として、7月29日、快適な音環境についてのトークセミナーをハイブリッド形式(オンライン主体+ オフライン少人数出席)で開催いたしました。
当日は、ゲストスピーカーに武蔵野美術大学の若杉浩一教授をお迎えして、音とデザインをめぐるさまざまな問題についてお話いただきました。
さらにそのソリューションとしての音響調整の試みについてもご紹介しています。
※「point 0 marunouchi」…「未来のオフィス空間」を実現していくためのコワーキングスペースであり、実証実験の場です。
※所属・役職名などは取材時点のものです。
登壇者 : 藤原義一
DAIKENは2022 年に建築音響事業40周年を迎えます。ここに至るまで、社会的問題やニーズを背景にさまざまな音の商品群を提案してきました。
DAIKENの取組み | 社会の動き | |
1960年代 | ・社会的ニーズに先がけて、音響分野に着目 ・インシュレーションボード、ロックウール吸音天井板を発売 |
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1970年前後 | ・天井材以外にも防音室向け音響製品を拡充 ・防音室の提案開始 |
・新幹線や空港、道路周辺などの交通騒音工事騒音などが社会問題化 ・住宅防音工事が一般化 |
1980~90年 | ・施工者への技術的なサポート等ソフト面を充実 ・防音関連製品の開発・営業を担当する建築音響事業部を新設 |
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1990年代~ | ・高音質&映像を提供するホームシアター空間の提案 ・マンション用防音床の開発 |
・高級オーディオ、ホームシアターが普及 ・デジタル放送開始、インターネット普及 ・マンション需要の増加 |
さらに現在では、身近な音環境の改善を目指し、オフィスを中心とした音環境の問題にも取り組んでいます。
登壇者 : 高桑健一
新型コロナウイルス感染症拡大に伴い、働く環境は大きく変化しました。特に事務所内でもウェブ会議が一般化するなど、会議手法が劇的に変わりましたが、その際の「音」に悩まされることが少なからずあったのではないでしょうか?
「point0 marunouchi」でも、オープンスペースでのウェブ会議は困難でした。
課題
では個室スペースに移動するとどうかというと、今度はこんな課題がありました。
課題
登壇者 : 武蔵野美術大学 若杉浩一教授
産業革命以降、工業化によって、物が増え、手に入りやすくなるにつれ、社会は分業化が進みました。その結果、何も考えず言われたこと、与えられた仕事だけやる、「 見ざる・考えざる・繋がらざる」という姿勢が我々の身に付いてしまっています。この姿勢が現在の深刻化した環境問題、格差問題につながっていると考えています。トマ・ピケティが著作で訴えたように、現代の世界は富が集約するモデルになってしまった。そんな暮らしを未来に伝え、受け継がせていいのか?私はこうした危機感を非常に強く持っています。
我々はこれまで、お金や不動産といった「見える価値」を頼りにモノとコトを取り扱い、それをデザインと呼び、喜びなどの感情や美しいと思う感性はその対極にあるものとして扱ってきました。しかし、我々が暮らす社会自体が危機に晒されている今、感性や精神性、つまり無意識的なものや「見えない価値」に再度目を向ける必要があるのではないかと思うのです。
これからの社会で求められる精神性、新しいクリエイティビティを高めるには、合理性や論理性といった「問題解決能力」ではなく、自ら問題を発見する「問題を掘り起こす力」が必須といわれています。この力はデザイン思考と呼ばれたりもしますが、本質的な豊かさを感じる情感力、エンパシーと呼ばれる共感力に支えられているものです。
これまでの日本の音響設計市場は、スタジオ、コンサートホールにおける特殊音響や騒音問題への対策としての住宅音響がまず重視され、ここではエンジニアリング・コンストラクションからのアプローチが行われていました。
一方、オフィス内や公共空間、商業施設といった非住宅ジャンルの音環境については空白となっており、新しいマーケットといえます。ここで、多くの人が集う共有空間に何が求められるのかについての共感力、デザイン思考が大切になってくるのです。
新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、職場である大学ではオンライン講義が主となりました。教師1人に対して、何十人の学生を相手に講義したり、ゼミでディスカッションをしたりという場面では、さまざまな問題が生じました。
課題
その中でもとくに音にまつわる不便、不満がクローズアップされました。
課題
もちろん、画像による問題もありますが、音がきちんと聞こえないというのは、授業の理解度やコミュニケーションの成立に直接的な影響を与えることがはっきりと実感できたのです。
最後に、音以外のジャンルにおけるデザインの状況をご紹介します。音以外のことに触れてみます。照明では、基本的に色温度、照度、演色性というたった3つの軸で構成されており、すでにきちんと可視化されています。学校、ホール、住宅、と空間ごとに最適な照明の演出やデザインの方法論があり、当然照明デザイナーもいます。
一方、音響の場合は、明瞭度、反射率(残響)、吸収率(吸音)、静粛度(騒音)などの軸はあるものの、それがきちんと可視化されていません。ここが大きな問題です。
これまで五感の中でも音は、はっきりとした実感がなく、聞こえればいい、あるいは音を防げばいいという発想が中心でした。しかし、これからは音の世界にも、艶やかで演色性があり人間の気持ちをダイナミックにし、ノリを与えるなどいうようなデザインが求められるはず。音響設計の質的な面が非常に重要になっていくでしょう。
後編では、ここまで提起された音にまつわる問題に対し
どのようなソリューションが考えられるか、
具体的な事例をご紹介していきます。
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