R&Dセンター開設記念 特別座談会 2018.10.3

※プロフィールは全て2018.10.3 時点のものです。

社内外のコミュニケーションを促進し、価値の「共創」の場となるべく動き出した
『DAIKEN R&Dセンター』。その開設を記念し、木材研究の各分野の第一人者である
3名の大学教授を招いて行った座談会の様子をご紹介いたします。

R&Dセンター
エントランス

1. 近年の木材利用とその認識

井 上今回の座談会のテーマは「今後の木材産業における産学連携のあり方」ですが、この短時間で結論を導くことは難しいと思います。本日の議論が“産”と“学”の相互理解と今後の協働のきっかけになればと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。
早速ですが、有馬先生は木材物理から木質構造、アメニティーや環境の分野まで、ご専門も幅広く、木材利用のオピニオンリーダーとしてご活躍ですが、最近の木材利用についてどのようにお考えでしょうか。

有 馬木材利用について非常に印象に残っている出来事があります。それは1990年頃、建築学会で環境問題が取り上げられた際、「木材を活用することは『木を伐ること』でまず1回、『木で作ったものを壊すこと』でもう1回。木材を利用することは、二重に環境に悪いことをしている」と指摘されたことです。まるっきり逆さまのことが、社会では認識されているということに大きなショックを受けました。同時に、何とかしなければと発奮するに至ったわけです。それから約30年が経ち、木材に対する認識は当時と比べて雲泥の差、隔世の感があります。「木材利用が環境に良い」という考え方がかなり定着してきたように感じます。

井 上そうですね、以前と比べれば理解は進んだかと思います。
ただ、最近の調査結果でも、依然として約3割の人が、“環境を守るためには木は伐らない方が良い”と考えているという現実があります。林先生は木質材料が専門で、秋田県立大学で教鞭もとっておられますが、最近の学生の木材に対する認識はどうでしょうか?

我々は、「木を伐って使うことは環境に良い」ということを当たり前のこととして認識していますが、残念ながら学生はそう思っていないようです。新入生相手の講義が終わった後のレポートには、7割くらいの学生が「今まで木を伐ることは環境破壊だと考えていた。でも今日の授業で、そうではないことがよく分かった」と回答しています。我々が考えている以上に、「木材利用=環境破壊」と考えている若者が世の中には多いということでしょう。まだまだ我々の努力が足りないと受け止めています。

井 上最近のアンケートでは、「日本はどの地域から最も多く木材を輸入しているか」という質問に対し、半分以上の人が“東南アジア”と回答します。(※2017年度の木材最多輸入国はカナダ)この誤認が、東南アジアなどでの森林破壊が地球温暖化の原因である事実と重なると、日本での木材利用が環境破壊にリンクするのでしょうね。このような誤解を解いていくことから始めなければならないと、今更ながらに考えさせられました。

オフィス

2. 技術開発の今

井 上木材利用の可能性を格段に広げる技術開発としてセルロースナノファイバー への期待が高まっています。木材科学を専門とされている福島先生は、その可能性についてどのようにお考えでしょうか?
※セルロースナノファイバー:木材などの植物繊維の主成分であるセルロースをナノサイズ(1㎜の百万分の1)にまで細かく解きほぐすことにより得られる木質バイオマス資源。軽量・頑丈・寸法が安定といった特徴を兼ね備える。

福 島裏山の木から石油製品代替品を作ることができ、資源がないわが国でも困ることはなくなるというコンセプトの研究開発として注目されています。一方、ここでも、原料である木材チップの安価で安定した調達は避けることのできない絶対条件です。現状、主な調達先は製紙会社が所有する海外植林地となっており、原料の調達部分におけるミスマッチが大きな課題となっています。そういった課題が解決できれば、森林・木材産業の活性化にも繋がるものと思います。

井 上大建工業としても、セルロースナノファイバーの技術開発については、情報収集しておくべきでしょうね。さて、億田社長にお伺いしたいのですが、直近、大建工業で取り組んでいる技術開発について、特徴的なところをご紹介いただけますでしょうか。

億 田代表的なものを申し上げますと、現在、木材の不燃化技術について注力しています。現状、準不燃の技術は確立し、公的認定の取得も完了しました。不燃についても半年後を目処に取得できるものと考えています。課題は、この不燃化技術をどう活用し、具体的な製品へとどうやって落とし込んでいくかということ。市場性を見極めながら、方向性を明確にしていきたいと思っています。

図書スペース

3. 産学連携について

井 上続いて、今回のテーマでもある、企業と学術・研究機関との連携において、重要な項目は技術開発における連携だと思いますが、大建工業ではどのような分野で大学などの取り組みを進めていますか?

億 田最近の事例でいえば、インシュレーションボードの原材料である木質チップの新たな用途開発として研究を進めている土壌改良材や、MDFのアカシア植林木の活用などについて、研究開発や大学からお知恵を頂戴しているところです。

井 上技術開発分野で企業が産学連携に期待する項目は、ひとつは製品開発のヒントになるような最新情報、もうひとつは具体的に解決したい課題に関する相談ではないかと思います。そのような観点から、先生方の最近の産学連携の取り組みやその傾向などをご紹介いただければと思います。

数年前の取り組みについて申し上げますと、研究所の数キロ先にある集成材工場とCLTについて情報交換を行い、その工場で使われていない設備を使ってCLTを製造し、JAS認定まで取得しました。

福 島最近、薬剤がどのように木材に浸透していくのか、細胞壁の中の1ミクロンほどのスケールで分析を行うといった研究を、企業と共同で行うケースが増えてきました。こういった技術や設備は大学にしかありませんので重宝されています。
また、具体的な達成目標のある案件ではなく、大学のシーズ技術が製品化に役立つものかどうか確認したいということで、受託研究、共同研究を行う機会も多くなっています。

有 馬産学連携について思い起こされるのは、ツーバイフォー工法がオープン化された時の業界の動きです。オープン化に合わせてシージングボードが耐力壁面材の一つに指定され、業界内に大きな衝撃が走りました。木質繊維板が耐力壁に指定された一大転機に、様々な材料メーカーが国の研究に資金提供してくれました。これをきっかけとして、ボード類が構造用として大きく飛躍することになりました。告示や建築基準に対して、業界が積極的に動いた初めての事例といえるでしょう。

井 上企業としては、リクルートや人材育成においても、大学などとの連携が重要になると思います。大建工業は新卒採用についてどのようにお考えでしょうか。

億 田当社には木材系の大学出身者が多数いて、製造・開発部門はもちろん、建材や木質ボードの営業部門や経理管理部門など、様々な部署に配属されています。内定者の中には、研究開発と事業の結びつきについて興味を持っている学生もいて、とても頼もしいと感じました。今回、R&Dセンターを開所し、研究拠点としての器を作りましたが、中身も重要です。中でも若い発想は研究開発には必要不可欠。今後も新しい人材の採用を積極的に進めていきたいと考えています。

井 上私の実感として、木材学を学んだ学生が、木材産業以外の業界に就職を希望するケースが増えているように感じています。木材産業の魅力がきちんと学生らに伝わっているでしょうか。

福 島学生にもよるでしょうが、少なくとも木材業界には魅力を感じていると思います。実際、化学系の企業に入った学生も、実務についてはバイオマスをやりたいと言っていました。
それよりも、最近の傾向として顕著になっているのが、SDGsの目標達成に貢献できる企業への就職を希望する学生が増えているということです。その意味では、木材を扱っている企業にとっては追い風が吹いていると言ってもいいのではないでしょうか。

実験室

4. R&Dセンターへの期待

億 田創立70周年を迎えた2015年に、10年後の2025年を目指した長期ビジョン「GP25」を策定し、「住宅用建材のメーカー」から「建築資材の総合企業」へ成長することを方針として掲げました。GP25の実現には、柱の一つである素材事業の成長が必須です。まずは研究環境としての“器”を整える必要があると判断し、R&Dセンターの設立を決断しました。
また、研究開発を活性化するためには、顧客・研究機関・行政といった関係者からご意見をいただくことも大事だと強く感じています。R&Dセンターには、研究拠点としての“器”であるのと同時に、顧客や研究機関と共に新しい価値を作り出せる“場”となることを大いに期待しています。

有 馬大建工業については、本当にたくさんの素材、建材を開発してきた会社であると受け止めています。音にしても、環境にしても、先頭に立ちリーダー的な役割を担ってこられました。
木材産業の開発には、原料の問題と何に使うかという出口の問題の2つの側面があります。この2つの問題を踏まえた上で、開発部門がどう展開させていくかが大きな鍵となります。「良いモノだと思ったものが売れない」の根本原因は、つまるところ開発担当者と市場ニーズとのミスマッチ。「良いモノが、息長く売れる」そんな製品を今後も数多く市場に送り出すためにも、このR&Dセンターが市場との接点となり、情報の受発信基地となるよう期待したいと思います。
施設を拝見した感想としては、大変立派な研究施設が設立されたと思っています。施設、設備についてはかなり基礎研究に視点が置かれているという印象を受けました。欲を言えば、特に休憩スペースに木質のしつらえがあると良かったですね。

施設を拝見した率直な意見としては、木質構造を取り入れた木鉄ハイブリッド構造が一部分でもあれば、ずいぶん印象が変わったのではないかと思いますし、内装木質化や国産材利用拡大への取り組みが手薄に感じられたことは少し残念でした。
産学連携の成功事例としては、ヤング率が低いというスギの弱点を逆手にとって厚物化し、当初とんでもないと思われたところから、改良に改良を重ねて在来工法のスタンダードとなった、構造用合板「ネダノン」の事例があります。こうした成功事例を頭において、産学連携の取り組みを加速していかれることで、R&Dセンターが、まさに産学連携のセンターとして成長されることを祈念しています。
※ヤング率・・・木材のたわみにくさを表す数値。

福 島違った視点からになりますが、R&Dセンターに期待したいのは大学の教育の一端も担ってほしいということです。例えば、学生の長期のインターンシップの場として活動していただきたい。大学の授業で学べることには限界があり、実際にモノを生産する現場でこそ、学べることも多いはずです。
また、拝見したDAIKEN R&Dセンターは本当に素晴らしい施設で、木質系では日本最高峰の研究拠点ではないかと思います。すべての分野において研究設備が充実しており、基礎研究から商品開発まであらゆるシーンで産学連携が可能だと確信しました。世界に冠たる木質系先端材料の開発拠点となることを期待しています。貴センターの存在意義は、グローバルな視点と地域に根差した視点の両面から、人と自然が共生できる持続的な社会構築に貢献することだと思っています。

億 田本日は貴重なご意見、ご提言を頂戴しありがとうございました。『DAIKEN R&Dセンター』が様々な人が集い、活発な意見が飛び交う、理想のオープンイノベーションの場となるよう、しっかり運用して参りたいと思います。今後の『DAIKEN R&Dセンター』にどうぞご期待ください。