子どもたちの元気な声が騒音に?

まずは動画でチェック

動画が見れます

幼稚園・保育施設では、日常そしてイベント時に発生する「音」への配慮が必要とされてきました。大阪府が実施したアンケート調査でも、子ども施設へ寄せられた苦情のうち「音」に関するものが最も多い結果に。今回は、時に騒音問題ともなりかねない、幼稚園・保育施設が発する音について調べました。

昔と違って子どもの声の対策が必要に

騒音は、大気汚染のように直接健康被害を与えるというよりもむしろ、人の快・不快を刺激することから、“感覚公害”と呼ばれています。線路近くの電車の音、車の音、飛行機の音などは昔から騒音公害とされてきました。しかし最近では、自分にとっては楽しい・心地よい音、または、生活する中でどうしても避けられない音が、他の方にとっては騒がしい・不快な音として受けとられるケースがあります。

隣のテレビの声やピアノの音、洗濯機や掃除機の動作音、そして、保育施設や学校から聞こえる子どもたちの声なども騒音と認識されてしまうようになってきました。私たちが騒音について考える際、「人はどのような音を“望ましくない”と感じるのか」について、しっかりと知っておくことが必要です。

苦情の6割以上が「日常時・イベント時の音」について

平成29年に総務省が実施した「就業構造基本調査の結果」によると、小学校入学前の未就学児を育てながら働く女性の割合は64.2%。育児をしながら安心して働きたいという子育て世代のニーズを受け、公的支援の充実や、都市部を中心に保育園や幼稚園・認定こども園の新増設が進められています。

しかし、子ども関連施設の整備・運営にあたっては、しばしば地域とのトラブルが発生するケースも。大阪府の調査によると、平成25~27年の3年間には、府内43市町村のうち37市町村へ子ども施設に関する苦情などが寄せられています。また、その内容として多い項目5つを選んでもらったところ、「音に関するもの」が173件と、全体の約6割にも上ったというデータが発表されています。

子ども施設の運営で苦情などとして多い事項

日常的な音に関すること37.6%、イベント時の音に関すること26.2%、交通に関すること27.3%、その他8.9% 子ども施設の運営で苦情などとして多い事項

出典:大阪府「子ども施設と地域との共生に向けて 子ども施設環境配慮手引書(平成29年1月発行)」

子ども20人が室内で遊ぶとゲームセンターレベルの音量に

この大阪府の調査からわかった、音に関する苦情の上位3つは

  • ● 練習・指導での、楽器の演奏音や歌声(24件)
  • ● 練習・指導での、放送音・拡声器の音(21件)
  • ● 園庭での園児の声(17件)

と、「音の大きさ」や「音の高さ」に関わる内容となっています。

まず、「音の大きさ(音量)」はdB(デシベル)で表されますが、日本建築学会環境系論文集第 729号では、50人程度の園児が庭で遊ぶと、10m離れた地点で70dB弱の騒音が発生する可能性があり、室内では20人程度で80dBを超えることもあると発表しています※1

また、ピアノは瞬間的に90~100dBほどの音量を発したり、大勢の子どもたちが打楽器を演奏したりすると、さらに大きな音となることが予測できます※2

施設で発生する子どもたちの声や楽器の音量の目安70dB~100dBは、ゲームセンターの音量80dBを超えるレベル※3に相当することから、かなりの音量が出ていることがお分かりいただけるのではないでしょうか。

イラスト

子どもの声は高音で保育士さんのストレスにも繋がります

次に、Hz(ヘルツ)で表現される「音の高さ」について、大人の通常の話声は、男性で150~250Hz、女性で250~500Hz程度です。しかし、園庭遊び時の子どもの声は、1,000Hz~2,000Hzほどとかなり高音。加えて、人間の耳は1,000~5,000Hzの音で感度が高くなるため、実際の音量よりも大きく感じてしまう特徴を持っているのです※2

そのような音環境で働く保育士さんは、日々大きな声を出し続けることでストレスを感じるでしょう。また、保育士さんが大きな声を出さないと、子どもが話を聞いてくれなくなってしまうことも懸念されます。さらに子どもたち自身も、周りの音が大きいことで自分の声が聞こえづらくなり、ますます大きく高い声で騒いでしまいがちに。

これからの保育施設づくりは音対策が最も重要に

子どもたちは遊びを通して好奇心や想像力を養い、協調性や思いやりの心を育むため、これからの保育施設づくりには、園生活にまつわる「ハード面からの音対策」が求められます。

施設へ音対策をすることで、さまざまな音が聞き取りやすくなり、子どもたちの発する声も自ずと小さくなるでしょう。加えて、保育士さんの声も園児に届きやすくなるというメリットも生まれます。多忙な保育士さんたちが大声を出す機会が減り、ストレスや負担も軽減されます。

子どもたちの成長にとって、そして保育士さんの労働環境改善にとって、音環境の整備は早急に行うことが望まれます。

参考:
※1 橋本典久「保育園での子どもの遊び声に関する騒音測定調査-子どもの遊び声の音の大きさとその特性について-」(日本建築学会環境系論文集第 729号、2016年11月) P912,913
※2 大阪府「子ども施設と地域との共生に向けて 子ども施設環境配慮手引書(平成29年1月発行)」
※3 環境省「生活騒音パンフレット(2019年3月)」P1騒音の目安

他のお役立ち情報も一緒にチェック