自分らしい生き方ができる高齢者施設

超高齢社会

世界に類を見ない「超高齢社会」を迎えている日本。
需要の高まる高齢者施設においても、人材不足・サービスの質の低下・不便な設備といった多くの課題を抱えています。
今後の高齢者施設や介護サービスがどうあるべきかについて、施設向けの介護アドバイスや設計アドバイスを手掛ける、ケアプロデュースRX組代表の青山 幸広氏に話を伺いました。

  • お話を聞いた方

  • 青山幸広氏
  • ケアプロデュース RX組
    代表
    青山 幸広 氏
    全国で施設向けの介護アドバイス、介護技術研修、介護人材育成、さらには福祉施設の設計アドバイスを手掛ける。著書に「青山流がんばらない介護術」講談社 他

高齢者の増加と人材不足で介護が追い付かない現場

日本では高齢者の数が年々増え続け、今では総人口の25%以上が65歳です。それに伴い、高齢者施設も急増していますが、その多くが人手不足に陥っています。常に時間に追われ、介助も必要最低限なものになりがちです。認知症の患者に対して動き回らないように閉じ込めたり、拘束したりする施設もあります。その結果、寝たきりになってしまう高齢者が多いのが現状です。一人ひとりの個性を尊重せず、集団的で均質な介護しかできていないのがこの業界の抱える大きな課題といえます。また、そのような施設では、スタッフのやりがいが生まれず、離職者が後を絶たないという悪循環にも陥っています。

超高齢社会

入居者がそれぞれ自由にくつろげるスペース。少人数のスタッフでも全体を見守れるよう、1つの空間に多様な居場所を作っている。(写真:あたり前の暮らしサポートセンター ©Nacasa & Partners Inc.)

目指すべきは、入居者が元気になる施設

超高齢社会

スタッフが調理するキッチンの横に、入居者も使えるアイランドキッチンを。お年寄りの知恵や、「おふくろの味」を継承する場にもなっている。(写真:あたり前の暮らしサポートセンター ©Nacasa & Partners Inc.)

高齢者施設の本来の目的は「入居者に喜んでもらう」「残りの人生を楽しんでもらう」ことであるはずです。
生活介助が必要だったり、寝たきりだったりする人が、生きることを諦めず、もう一度夢や希望をもち「自分で立ちたい」「孫に会いたい」と思えるようなサポートをしていくことが、介護の本質なのだと私は考えています。
高齢者が元気になっていくような介護が実現できれば、スタッフもより働きがいを感じられるようになり、関わる全ての人が幸せになります。だからまずは、高齢者にやさしい環境や使いやすい設備を整えた、もう一度元気になれる施設づくりが必要なのです。

生きがいを見つけられる場所づくり

超高齢社会

花壇や畑など、敷地内には緑があふれており、日当たりも良いので入居者の憩いの場になっている。室内に閉じこもらず、外に出たくなる工夫。(写真:あたり前の暮らしサポートセンター ©Nacasa & Partners Inc.)

高齢者が元気になるためには、趣味などを通して生きがいを見つけてもらう必要があると考えています。
私が関わった施設では、スタッフと一緒に入居者の皆さんが腕をふるうキッチンや、大工仕事の道具を揃えた小部屋などを設けました。自分達が得意なことを施設でも続けられれば、生きがいができて元気になり、身体機能の回復にもつながります。
若いスタッフたちが、梅干しの干し方・煮物の作り方などを、入居者から教わることも。じいちゃん、ばあちゃんたちは生活の知恵の宝庫ですから、それらを学ぶ場にもなっています。

開かれた施設は地域との関係も育む

今の施設はコンクリートの監獄みたいな建物が多いですね。周囲と遮断された環境で、勝手に外へ出られないようにしています。本来は尊敬し、恩返しをすべき高齢者を、このような環境に閉じ込めるのは悲しいことです。
私が作ったデイサービスとショートステイの施設では、地域の人が訪れやすいように、カフェやセミナールームを設けています。中庭には花壇や菜園を設けて定期的にマルシェ(市場)を催すことも。このように地域とつながることで、ボランティアや職員も集まりやすくなります。
老人ホームでも、基本的に施設に閉じ込めることはせず、出入り自由にしています。認知症の人でも、居心地の良い施設ならきっと帰って来たくなる。また、地域とのつながりがあれば、万が一入居者が徘徊してしまってもすぐに連絡をくれたりするものです。

超高齢社会

玄関でありながら、料理も行う土間。かまどや囲炉裏で、郷土料理を一緒に作りながら、スタッフが入居者から学ぶ場面も多いそう。(写真:あたり前の暮らしサポートセンター ©Nacasa & Partners Inc.)

安全に生活を楽しめる居心地の良い施設設計

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畳は、お年寄りの生活になじみが深く、機能性も高い素材、と話す青山氏。写真は「ダイケン健やかおもて」(写真:楽技介護塾 紫野庵)

自由に動ける施設としている分、安全面の配慮は欠かせません。スタッフの見守りでは限界もあるため、施設設計から十分に配慮しています。
施設内事故の中で圧倒的に多いのが転倒。居室内・廊下・共同スペース・トイレ・浴室など、過ごす時間が長い場所で起こっています。そのため床には滑りにくく、クッション性のある木質材料を使います。また、畳は衝撃を受け止めてくれるうえ、そのまま寝転がることや足腰の弱っている人が這って移動することもできる優れた素材。談話室など人が多く集まる場所に使っています。DAIKEN の畳なら何かをこぼしても拭き取ればキレイになるので、汚れに神経質にならなくても良いのがうれしいですね。
また、入居者が生き生きとした暮らしができるよう、居心地の面でも配慮が必要になります。私は、明るく広い場所もあれば、暗く狭い「たまり場」のような場所も作っています。個人の好みに合わせられるよう、多様な空間を用意しておくのです。
ある施設では、玄関を入ると土間になっていて、そこにかまどを設けるとともに、すぐ横には囲炉裏を置いて魚も焼けるといった空間を作りました。スタッフが入居者からご飯の炊き方を教わったり、囲炉裏で談笑したりと、日々笑顔がたえない場所になっています。

モチベーションを高め、自立を促す設備

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床は滑りづらい十和田石を使用。ヒバの浴槽も、入りやすい大きさや深さにこだわっている。自然の素材をふんだんに使った、居心地の良い浴室。(写真:あたり前の暮らしサポートセンター ©Nacasa & Partners Inc.)

また、暮らしやすさと共に大切にしたいのは、自分の力で生活したくなるようにモチベーションを高めること。もう一度歩きたい、トイレに一人で行きたいなど、希望を持ってもらうことです。
例えば浴室は、「自分が入りたくなるような空間」にしたいと思って設計しています。私が使っている浴槽は、青森産の天然のひばを使用していて、独特の香りや肌ざわりが利用者を癒してくれます。また、床や壁に使っている十和田石は、見た目や肌ざわりもいいのですが、滑りにくく乾きやすいといった特徴を持っています。

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人によって掴みやすい位置が違うので、どんな角度からも掴める手摺を複数設置したトイレ。できるだけ一人で排せつができるよう工夫されている。(写真:あたり前の暮らしサポートセンター ©Nacasa & Partners Inc.)

トイレも効率一辺倒ではなく、こっそり使えるものや、広いもの、狭いものなど、様々な人が使いやすいよう配慮し手摺の位置も工夫して、自分で排せつができるようサポートする場所にしています。このように、自分で生活する力を取り戻してもらえるよう、設備にもこだわっています。

社会に求められる「自立できる高齢者施設」

今後も間違いなく高齢者施設の利用者は増えていくでしょう。しかし、今のままの介護を続けていたのでは、寝たきりの高齢者が増えて介護保険料がかさみ、自治体の財政に負担となるばかりです。高齢者が自立し、元気を取り戻す介護が社会的にも求められているのではないでしょうか。
そのためには、これまで話してきたような、入居者が「役割を持つ」「趣味が楽しめる」「家事ができる」「日光浴ができる」という環境づくりが大切です。
自分らしく生き生きと暮らし、自立できるようになる。これが、これからの時代に最も必要とされ、高齢者からもその家族からも選ばれる施設の姿なのだと思います。社会全体でそんな施設を作り上げていきたいですね。

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