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DAIKEN Architect News vol.5 | 特別インタビュー

ストーリーを感じさせる商空間デザイン

「ザ・ペニンシュラ東京」や「炭火焼肉トラジ」、
2017年にオープンした話題のホテル「コンラッド大阪※」など
数々の有名店舗やホテルを手がけてきた世界的デザイナー・橋本氏。
ご自身のデザインの“哲学”や、こだわるポイント
これからの商空間の在り方について伺いました。

※日建スペースデザインと協働設計

橋本夕紀夫デザインスタジオ 橋本 夕紀夫 氏

お話を聞いた人 橋本夕紀夫デザインスタジオ
橋本 夕紀夫 氏

インテリアデザイナー。ホテル、レストラン、ブティックなど多くの施設のデザインを手がける。「北米照明学会最優秀賞」「JCD優秀賞」をはじめ多数の受賞歴を持つ。
「技術」は向上した
しかし、「個性」が足りない

これまでホテル、レストラン、ブティック、オフィスなど様々な空間デザインに携わってきましたが、最近の商空間デザインは、どこも随分と、こなれているな、という印象を持っています。特に飲食店は、部材や家具の選び方、照明の使い方などが上手く、どの店もいい雰囲気に演出されています。反面、店ごとの個性は弱い。きれいにまとまってはいますが、その場所だけの新しい提案や想いが感じられない、ということが多くあります。商空間というのは、家では味わえない”非日常”を体験したくて人が訪れることが多いですよね。だからこそもっと実験的に、個性の光る空間提案を行ってもいいのではないでしょうか。

橋本氏が手がけたコンラッド大阪内のレストラン「アトモスダイニング」。「水」がテーマになっており、波紋をイメージした装飾が印象的。
橋本氏が手がけたコンラッド大阪内のレストラン「アトモスダイニング」。「水」がテーマになっており、波紋をイメージした装飾が印象的。

商空間は「文化」を
発信する場でもある

商空間は「文化」を発信する場でもある

これからの日本は、間違いなく「観光」が国の拠り所の一つになっていきます。海外から来た人が訪れるホテルや空港だけでなく、私たちが日常的に出かけるような飲食店も含め、商空間そのものが日本のオリジナリティを発信する場になればいいですね。素材や加工技術など、日本には魅力的なものがたくさんある。私も色々考えるうちに日本の伝統素材や技法に行き着くことが多々あります。世界に無いような日本独自の技術を、現代そして未来に使えるように、文化として具現化するのも、私たちの大切な仕事。商業も「文化」を構成する大切な要素ですからね。

ネットでモノが買える時代に
店舗に行く価値を見出す

人々がリアルな店舗に足を運ぶ機会は確かに減っていると思います。だからこそ商空間をプロデュースすることは、これまで以上に「その空間に行ってみたい」と思わせる役割を担う大切なプロセス。例えば蔦屋書店などでは、書籍の販売だけでなくカフェを併設することで「行きたい、過ごしたい」と思わせる空間づくりをしています。そのように、店舗のカタチはどんどん進化し、新しい業態も生まれてくるでしょう。メディアとの連動で、話題性を持たせるというのも一つの手ですよね。その日・その場所でしか見られない空間演出で、インスタグラマーの心をくすぐる、などの仕掛けも考えられるかもしれません。話題性など、時代に合わせた方法を探っていくことも大切です。

「コンラッド・スパ」のレセプション。アート性の高いオブジェが優雅に飾られ、くつろぎの時間を演出。
「コンラッド・スパ」のレセプション。アート性の高いオブジェが優雅に飾られ、くつろぎの時間を演出。

表面的な意匠ではなく
空間全体の「空気感」をデザイン

「ザ・ペニンシュラ東京」のフロントデスク。左官仕上げの壁は、狂いのない、なめらかでまっすぐな表面が職人技を感じさせる。
「ザ・ペニンシュラ東京」のフロントデスク。左官仕上げの壁は、狂いのない、なめらかでまっすぐな表面が職人技を感じさせる。

私が空間をデザインするときに大切にしているのは、お客さんもスタッフも含めてそこにいる人々が五感でどう感じるか、という点です。視覚だけ、聴覚だけ、触覚だけではなく、『空間全体が醸し出す「空気感」で伝わる何か』は、必ずあります。例えば、スタッフが誇りと愛着を感じられる空間になれば、自然とホスピタリティが生まれ、お客さんも心地よく過ごせる。空間をデザインするということは、「表層」だけを整えるのではなく、空間が包含する背景・時間・ストーリーなどの「深層」をいかに表現するか、ということなのです。
「ザ・ペニンシュラ東京」では、日本全国の木工、漆、左官、石工などの伝統技術を持つ職人さんに参加してもらい、伝統的な素材を使った空間づくりのプロジェクトを行いました。そこでは関わった人の思い、技術、完成までの道のりなど、それらがすべて空間のストーリーとなり、その場でしか感じられない「空気感」を創出しました。ある意味、私の理想とするデザインだと言えるでしょう。

同じく「ザ・ペニンシュラ東京」の客室。トチの木の扉や布目朱塗りの家具、網代天井など職人の技が結集し、「日本の文化・美意識のエッセンスを調和」を実現させた。
同じく「ザ・ペニンシュラ東京」の客室。トチの木の扉や布目朱塗りの家具、網代天井など職人の技が結集し、「日本の文化・美意識のエッセンスを調和」を実現させた。

空間デザインは
すべてがオーダーメイド

食事をして、人の出入りも激しい場所にDAIKENの床材が採用された。木目の美しさと高い耐久性で、空間の質を高めている。
食事をして、人の出入りも激しい場所にDAIKENの床材が採用された。木目の美しさと高い耐久性で、空間の質を高めている。

空間にはそれぞれ異なる個性があります。飲食店やホテルなど、業態によって「これが正解」というデザインはないと、私は思っています。だから、いつでもゼロからのオーダーメイド。依頼主の思い、立地、建物そのものの特徴などを掛け合わせて、コンセプトを真っ白な状態から考えていきます。唯一、どんな空間でも共通しているのは、設計、建築、内装、インテリアの各プロセスを個別で考えず、設計や建築も含めて一貫して考えること。それによって「空気感」を演出する幅も広がり、人を感動させることが可能になると思っています。

床、扉、壁
すべての部材に理由がある

内装材を選ぶときは、空間の個性やストーリーをいかに表現できるかを重視します。「コンラッド大阪」のデザインを手がけた際は、石を貼った壁や、無垢を割いた木を使ったりなど、要所要所に自然の息吹を感じるようなディテールを採り入れました。ホテルのロビーの壁面にも木を使ったアートが飾られているのすが、そういうところとも緩やかに繋がりを作りました。
また、ダイニングの床にはDAIKENの床材を採用しています。空間コンセプトにフィットした木目の雰囲気や質感に加え、耐久性やお手入れのしやすさも考えて選びました。部材はメーカーで選ぶというより、質感や性能をトータルに考えて選ぶようにしています。キズや汚れが予想される場所には、あえて最初からダメージ加工やアンティーク調の素材を使う場合もありますね。その他、ドアは隣の部屋との空間をきれいに繋げたいので、天井までの高さのものを選んだり、壁はクロスも使いますが、自然素材やテクスチャーにこだわったものを空間のアクセントとして採用したり。なんとなく選ぶのではなく、すべて説明できる理由を持って選ぶ、ということを徹底しています。小さなパーツでも空間が持つストーリーの一部を担うわけですから。

「流す」仕事はしない
困難な時こそ情熱を忘れず

「流す」仕事はしない。困難な時こそ情熱を忘れず

プロジェクトによっては、工期・予算・物理的な制約など、当初思い描いたプランが叶わないケースも多くあります。ですがそんな時こそ、魅力的で面白いものを作ることへの情熱を持てるかどうかが大切です。諦めと妥協で仕事を「流して」しまうと、ますますつまらない世界に沈んでいってしまいますよね。
どんな業界でも、第一線で活躍している人は、妥協しないでちゃんとした回答を出し続けているのだと思います。依頼主の依頼を100%満たすだけでなく、それ以上の良いものを共に模索することを大切にしながら、私自身も商空間を通して「文化」を発信していきたいですね。

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