会津木綿を使った新たな地域産材活用のカタチ
音環境ソリューションの共創プロジェクト

2025.9.10

八光建設本社小会議室/会津木綿を使った特注品の「OFF TONE」「サウンドトロン」を設置

DAIKENでは、従来より木材をはじめとする地域産材の活用に取り組んでいます。今回、八光建設とのコラボレーションによる音環境ソリューションの共創プロジェクトでは、八光建設本社および萩姫の湯 栄楽館(旅館)に会津木綿を使った吸音材を導入。オフィスの会議室や旅館のダイニングルームの音環境を改善しました。

会津木綿を活用した音環境ソリューションの共創プロジェクトのきっかけや経緯について、八光建設、栄楽館、そして当社の担当者とともに振り返ります。

(左から) 八光建設㈱ 取締役副社長 高橋 邦明 様

㈱栄楽館 取締役専務 菅野 豊晴 様
DAIKEN㈱ 音響製品部 開発課 俣野 祐美
DAIKEN㈱ 建装事業戦略部 イノベーション課 船渡 まなみ

八光建設本社会議室が抱える音の問題

高橋:

八光建設の本社を、元々レストランウェディングに使われていた建物に移転し、チャペルやウェイティングルームを会議室に転用したところ、対面での会議やオンライン会議を行う際に、音が響きすぎて聞こえにくいという問題が生じていました。

そこで、DAIKENに相談したことが今回のプロジェクトの始まりでした。DAIKENの参画する共創型コワーキングスペース「point 0 marunouchi」にて音響調整部材を体感し、「OFF TONE(吸音パネル)」や「サウンドトロン(床置き型の吸音材)」などの製品を活用すれば、一から自社でつくる必要がなく、既存の壁などを壊さずに簡単に取り付けるだけで音環境を改善できるため、非常によいと思いました。こうしてウェイティングルームを転用した、小会議室の音環境ソリューションに関するプロジェクトを一緒に進めることになりました。

船渡:

プロジェクトを始めるにあたって、八光建設本社の小会議室で残響時間の測定を実施しました。音響対策を行う前は、小会議室の残響時間が「支障のある響き」に該当する水準でした。

「地域産材の活用+音環境の改善」という一石二鳥のアイデア

高橋:

地元の福島県で萩姫の湯 栄楽館という旅館の改修などの仕事をさせていただいていることもあり、何か市販品ではなく地元の特産品を活用して、意匠的に優れ、機能性も持たせたものを作ってみたいと考えていました。そこで今回、生地としても丈夫な会津木綿を使うという発想に至りました。

船渡:

高橋副社長から、「地域の特産品を使うなど、音環境の改善という機能面以外にも、一石二鳥、一石三鳥のようなPRポイントがあればお客様に気に入って頂けると思う」と、当社の音響調整部材に会津木綿を使うというアイデアをいただきました。

当社では、床材等地域産材の活用による地産地消の取り組みを行っています。今回は木材ではなく、福島県産の会津木綿を使用しましたが、全国にはほかにも様々な伝統織物があります。非常によいアイデアをいただいたので、他地域への展開の可能性も感じています。

俣野:

全国展開も考えられますし、地元の伝統織物を使うという新しい試みはおもしろそうだと、開発メンバー内でも盛り上がりました。

船渡:

八光建設から会津木綿のテーブルクロスなどをサンプルとしていただいた際、色柄や質感が旅館のインテリアにマッチすると感じました。

会津木綿のモジュールから縫い目の位置へのこだわり

俣野:

当社の既製品の音響調整部材である「OFF TONEマグネットパネルN」や「サウンドトロン」をベースに、特注対応で生地を会津木綿に変更するというお話でしたので、開発にあたってイメージもしやすかったです。

通気性のある生地であれば吸音性能を発揮できることは分かっていましたので、従来から使用している生地と通気性に違いがないか確認しました。基本的な生地の特性として、光や紫外線による色褪せの程度や、温湿度の変化によるたわみといった点も一通り確認しました。

船渡:

会津木綿は反物のモジュールなので、OFF TONEの設計をベースとした吸音材に使用するにはどうしても継ぎ合わせが必要でした。縫い目をどこに配置すればデザイン的に違和感がないか、ストライプ柄が貼り方によって波打ってしまわないかなど、確認しながら進めていきました。

俣野:

縫い目の位置は八光建設のデザイナーの方と一緒に試作し、こだわったポイントです。

高橋:

今回は、会津木綿で制作した吸音材をDAIKENから支給頂き、当社が吸音材をパーティションに組み込むという役割分担で進めたのですが、船渡さんをはじめDAIKENの皆さんと事前に打ち合わせをしていたので、パーティションの取り付け工事に難しさはありませんでした。ただし、窓の前にパーティションを取り付ける際、パーティションを可動できる仕様にするためのデザインや製作には苦労しました。

定量的にも体感的にも会議室の音環境を改善

船渡:

音響対策を実施した後に行った残響時間測定では、残響時間が「支障のない響き」を示す水準まで改善されました。定量的にも体感的にも音環境が向上したことを確かめることができました。この結果は、八光建設にて開催された、地元の設計事務所向けの音環境に関するセミナーで発表させていただきました。

高橋:

社員だけでなくお客様からも、「音環境が改善して打ち合わせがしやすくなった」という声が聞かれます。小会議室は2面がガラス張りのため、これまでは外部からの目線が気になっていましたが、吸音材を取り付けたパーティションの設置により、光を取り入れながらも目線を遮ることができるようになりました。

また、小会議室は、お客様との打合せスペースとしても使用しており、ご来社いただいたお客様に地域産材の活用に取り組んでいることが伝わりやすく、共感も得られています。

萩姫の湯 栄楽館の食事処のパーティションへの応用

栄楽館食事処/会津木綿を使った特注品の「OFF TONE」を用いたパーティション
高橋:

本社小会議室の音環境の改善と並行して、栄楽館の宴会場として使われていた広いスペースを、個人客をメインとした食事処に改修するというお話をいただいていました。そこで、お客様の目線を遮りながら、会話音を少しでも吸音するために、会津木綿を用いた「OFF TONE」の特注品を使ったパーティションを提案し、採用していただきました。

菅野:

栄楽館では、1982年に団体用として200畳程度の畳敷きの宴会場を設けたのですが、お客様の層が団体から個人へとシフトしたため、2003年頃からはテーブルと椅子を設置し、個人のお客様の食事処として使用していました。しかし、隣のテーブルのお客様の会話が聞こえやすいことや、お客様同士の目線が気になりやすいという問題がありました。

2020年頃からコロナ禍に入り、お客様の層が完全に個人へとシフトし、客単価もお一人様あたり数千円ほどアップさせたことから、さらに付加価値を提供していく必要がありました。そうした中、八光建設から会津木綿を使った吸音パネルを用いたパーティションの導入を提案いただきました。

導入後は、お客様の目線や話し声といった課題をクリアし、会津木綿のテイストや質感が落ち着いた印象をもたらしています。当旅館は会津若松から電車で一本の場所にあり、会津の観光の玄関口としての役割にも合っているかと思います。

以前からご利用いただいているお客様からは、「他のお客様の声が気になりづらくなり、過ごしやすくなった」といった声を頂戴しています。

八光建設が製作したパーティションは軽量なため、スタッフからは「レイアウト変更がしやすい」という声も上がっています。

船渡:

先日、栄楽館に伺い、食事処に設置されたパーティションを実際に拝見したところ、地域性を生かした製品が空間に非常によくマッチし、機能性に加えてデザイン性の面からも、高級感のある空間演出に役立てて頂けていると感じました。

また、「吸音パーティションの効果」について、現場で簡易測定もさせていただきました。物理量(音圧レベル)として大きな違いは見られませんでしたが、パーティションで視線を遮る効果に「会津木綿」の明るく優しい雰囲気(見た目の効果)が加わったことで、音環境の印象にも良い影響を与えているのでは、と大変興味深い事例ができました。
(音環境の印象:身内の会話に集中できる、周囲の会話が気になりにくい、など)

それぞれの施設に合わせて音環境を改善していきたい

高橋:

今回、会津木綿を使った音環境ソリューションのプロジェクトをDAIKENと共創しましたが、オフィスだけでなく、宿泊施設においても音環境の重要性を実感しました。音の問題に悩んでいる宿泊施設のお話はよく耳にしますので、今後もDAIKENと連携し、それぞれの施設に合った形で取り組んでいきたいと考えています。そのためにも、音環境についてさらに勉強したいと思っています。

船渡:

八光建設様との共創により、「地域産材の活用+音環境の改善」という両社の強みを掛け合わせたオリジナリティあるソリューションを実現することができました。今後も多彩なパートナーと連携し、音環境をはじめとする快適ソリューションの企画・開発を推進し、利用シーンに応じた空間価値の向上を目指していきたいです。