これからのデザインの手掛かりはどこにある?

2021.11.2

(左)大澤 かほる一般社団法人 日本流行色協会 クリエイティブディレクター
(右)松永 研二:大建工業株式会社 商品企画部 デザイン課 課長

※所属・役職名などは取材時点のものです。

新型コロナウイルス感染症の拡大によって社会状況が一変してから、1年半以上の時が過ぎようとしています。
その間、さまざまな課題や隠れたニーズが引き出され、空間デザインの世界もその影響を大きく受けることになりました。
昨年に引き続き、色や素材を切り口にトレンドを分析しているJAFCA(日本流行色協会)にお話を伺い、コロナ禍におけるデザインのトレンド、そしてこれからの空間デザインが向かう方向について手掛かりを探していきます。

※撮影時のみマスクを外しております。対談中はスタッフ全員がマスクを着用し、コロナウイルス感染症防止対策をとった上で取材を実施しております。

コロナ禍があぶりだしたもの

松永

感染症拡大が深刻化した当初から沈静化には3年くらいかかると言われていましたが、その通りの状況になっていますね。

大澤

もう元には戻らないし、戻ってはいけないとも思っています。コロナ禍をきっかけに、自分自身の日々の困りごとから、家庭、会社、ひいてはサプライヤー、そこから国、世界の問題へと課題はフラクタル構造になっていることに広がっていることに気づかされましたから、そこに向き合う必要があると思います。

※フラクタル…全体を細部に分解したとき、その細部は全体と似た形をなしているという自己相似性を示す図形のこと。

松永

人とのつながり、働き方、問題提起されたものは少なくありません。

大澤

なかでも決定的なのは、このまま放置したら地球環境は壊滅するという危機感です。グレタ・トゥンベリさんに代表されるミレニアル世代やZ 世代の環境アクティビストたちの活動が注目されていますが、彼女たちはこの問題を自分ごととしてきちんと捉えてますよね。現在の感染症のパンデミックも元をたどれば私たち自身に原因があると思います。全世界に急速に広がったのは人流が激しくなりすぎたということもあるし、それ以前に動物社会と人間社会の距離が近づきすぎたということもありますよね。

その意味では、家はシェルター的存在になるのかもしれません。世界のさまざまな脅威から守られるための。そのシェルターとしての空間をどのように豊かに心地よく作っていくかということになるのではないでしょうか。

※グレタ・トゥンベリ…スウェーデンの環境活動家。「国連気候アクション・サミット2019」でのスピーチで世界的に注目を集める。

触れるデザイン/触れないデザイン

松永

前回の対談で「見える/見えないデザイン」として、換気と音環境をいかにデザインするかということに注目されていました。実際、テレワークが常態化したことで自宅の音や匂いはすごく気になるようになりましたね。

大澤

今は「見える/見えない」から、「触れる/触れない」というところにも注目しています。触れないものとは、音はもちろんのこと、匂いや風などの空気、光、そして触ることもできるけれど流れ去ってしまう水などを指します。

松永

たしかに音を遮る、感染予防のためのゾーニングをする、非接触の水回り製品といった、触れないものをデザインする手法が様々に出てきていますね。

大澤

匂いでいえば、化学的なマスキングもひとつの解です。さらには窓から自然光を採光しにくかったら室内灯を自然光に近づける提案もある。光によって壁や天井の色を変えることも、当たり前になっていくのではないでしょうか。

そしてもうひとつ、「触れるデザイン」の考え方として、目で見て触っているという感覚が得られるとはどういうことかを考えたいんです。

松永

それは画面越しのオンラインであってもでしょうか?

大澤

たとえ画面越しであっても、触覚を感じられる色域やテクスチャーはあります。よく皮膚感覚といいますが、触ったら気持ちいいだろうなという感覚のこと。触れるデザインは、その触り心地をいかに演出するかであり、たとえば粒子感や温度感といったキーワードに分解してデザインを形づくることができるのではないかと考えています。

バイオフィリックデザインの必然性

松永

インテリア関連の資料をみていると、今年は室内の植物が多いなという印象です。また、お話に出てきた「触感」にもつながりますが、ざっくりしたファブリック類が増えているように思います。以前からBOHO スタイルと呼ばれていた編み物系のファブリック、またカゴ類も多いですね。

大澤

家具でいうと籐で編んだものですよね。上の世代からすると、ちょっと昔っぽさも感じられるのだけれど、今はそうした天然素材を使ったデザインが心地よいとされるのでしょう。グリーンが増えているという点では、住宅や商業施設においても、総じてバイオフィリックデザインは今後のマストの要素となっていきますね。

※バイオフィリックデザイン…「人間には“自然とつながりたい” という本能的欲求がある」という概念を反映した空間デザインの手法。
※BOHOスタイル…ボヘミアンとSOHOを掛け合わせた造語。民俗調、天然素材を使うボヘミアンスタイルと、アーティストが多く住むNYのSOHO(ソーホー)地区のモダンでスタイリッシュな要素がミックスされたインテリアスタイル。

松永

弊社では内装建材としての木目柄検討のために樹種のトレンドを追いかけていますが、これからはインテリアとして配される植物のトレンドも必須ですね。今年はオリーブが来るかもしれないとか。

大澤

このところ伝わってくる「気分」の底流としてあるのは、「不揃いの」「自然にあるがままに」という感覚です。私が惹かれるのもそういったフィーリングで、個人的に気になっているのはアーティストたちの自宅です。一見雑然としているけれど、よく見ると色々な要素が融合した「きれいすぎない」空間。
どこか自然を感じられ、触り心地のある質感や色みが混じっている。それに心地よさを感じるのは私だけではないと思うんですよね。それと、揃えられていないものってじつは飽きにくい。色やテイストが混じっていると、見る時間や角度によって見え方が変わるので新鮮な気持ちになれるんです。

松永

わかります。デザイナー側が作り込みすぎた空間はもう好まれないと感じます。現状はどうしてもユーザーの選びやすさのためにセットでの提案が主流ですが、住む人たちが生活の中で付け加えていける余白をうまく残したいですね。

空間を作る「素材」のこれから

大澤

先ほど天然素材を使ったデザインの話が出ましたが、今後は採取が難しくなると思います。岩石や何百年もかけて育つような木材はその希少性から当然高価になるだろうし、そんな天然素材を素材として使うことの罪悪感も出て来ると思うんです。

松永

高級素材である天然の大理石はそうですね。

大澤

本物の山から掘り出したような大きな大理石は一部のお金持ちがこれみよがしに使うものでしかなくなりつつありますよね。植物と違って、大量の石を採掘すれば山がひとつ終わってしまうことになる。いかに環境に負荷を与えない形で自然を感じられるデザインを生み出せるかということが今後の素材選びのキーワードになるでしょう。自然素材の中では竹やツタ類は成長が早いのですぐに使えるというメリットがあります。とくに竹はいい素材になりうると思います。化学的に分解すれば布にすることもできます。

松永

メーカーはサスティナブルを担保しながら、どのように自然由来素材で提供していくかが求められています。同時に、自然素材だからいいということでもなくて、ケミカルでも再利用できたり環境負荷が低いものがあるということをメーカー側も考え、消費者にも伝えていかなくてはいけないと思っています。

大澤

意識を変えていかなくてはならないですよね。セルロースやリノリウムをどう効果的に使うかという可能性も考えていく必要がある。今、樹脂業界がかなり逆風を受けていますけれど、現実的に樹脂を完全になくすのは不可能です。だから、いかに長く使えるようにするか、あるいはリサイクルシステムそのものを作るしかないんです。テラゾーのような粉砕したものを混ぜて作り直す半人工材の試みも3年ほど前から広がってきていますね。

DAIKENでは長年培った技術を元に、地域産材の活用をサポートしています。
大崎市図書館 床材: WPCフロア(特注品)〈大崎産杉〉  壁材: 大崎産スギ突板張りダイライト不燃パネル

重要視される空間としての間(ま)

大澤

近年の商業施設で合言葉的に使われていたのが、外と内の境界線をなくす、というコンセプトでした。
特徴的なのは、低層部分に軒を作るという仕掛けです。最近視察してきた施設でも、その傾向は強いと感じました。昔の日本家屋には軒下に縁側が作られていて、家の中までは入らないけれど、そこで話ができるような空間がありましたが、そういう間(ま)が求められているのかなと思いますね。

松永

その軒裏も、木目や金属などでスモークやマットに仕上げるなど、意匠のバラエティーがかなり豊富になっていることが挙げられますね。
従来の建ぺい率ありきの世界からすると、一般の住宅であっても公共のビルにしても、軒下はいわば余計な空間なのに、そこが重要視されるようになったのは大きな変化です。弊社でも、軒裏用の製品で木目柄のものがありますが、近年、引き合いが増えております。

大澤

自分自身の暮らしはシンプルにしながらも、外と繋がれるような空間は豊かなものにしたい。人々の気持ちがそちらに向かっているのかもしれませんね。

どこにトレンドの芽を見つけるか

松永

見本市や展示会がオンライン開催になり、商業施設の閉鎖が続いたりなど、実地でのトレンド調査活動はしづらくなりました。

大澤

全然足りないです。そのかわり、外に出ていけない状況で、人々がどういう気持ちで日常を過ごしているのかを探るようになりました。たとえばグランピングまでいかないベランピング、家の中でなんちゃってアウトドアを楽しむなど、暮らしのトレンドがインスタグラムやpinterest といったSNS をチェックすると色々出てきます。またテレビは今やシニアが見るものになっていますが、そのシニア向けにどういうアプローチをしているのかということを探るのにはいいツールでもあります。
意外にトレンドを押さえているなと感じるのがラジオ。ラジオでインテリアが直接話題にされることはほぼないですが、たとえばJ-WAVE ではデザイナーの佐藤オオキさんが番組を持っていたりしてデザインとの親和性が高いです。

松永

私もよくラジオを聞きますが、ここ数年は、若い世代にもラジオが再度注目されているそうです。

大澤

それは聞いたことを一度咀嚼し、想像力によって自分の脳内に風景を作るという作業が生まれるからではないでしょうか?バーチャルリアリティなどの視覚メディアは刺激が強めに作られています。そうしないと印象に残りませんから。ただそれを見続けていると、イメージが固定化されてしまう。味の濃い料理を食べ過ぎて麻痺するのと似ています。音声メディアが改めて注目されているのは、想像力を取り戻そうということなのかもしれません。その意味ではいまアウトドアが広まりつつあるのも五感を取り戻す流れとも考えられるんです。

松永

色についてはいかがですか?建材では、グレーや石目基調が引き続きトレンド要素になっていますが。

大澤

バイオフィリックデザインの傾向がさらに強まると、グリーン系、ブラウン系が大事になってきそうですね。ポイント色としては、ブラウンだったら反対色のブルー、ブラウン系の彩度を上げたオレンジ、グリーン系の反対色としてのパープルもあります。赤は強すぎるのでオレンジに振ってパープルをポイントにおくとか、このような色の組み合わせは自然界でよく見られる組み合わせで、ごく自然に受け入れられていくと思います。あと半透明の素材も注目ですよね。

ブルーを取り入れたコーディネート例
壁:グラビオエッジ カーヴァ〈ネイビーブルー〉 床:ハピアフロア銘木柄〈オーク柄〉

見本市がトレンドを作る時代は終わった?

大澤

見本市をオンラインで見ていると、商品のプロモーションひとつでも、その角度から見たいわけじゃないんだけど、という違和感がどうしても出てきてしまって。

松永

インテリア業界の場合は、商品を置くブースから世界観が作りこんであるので、ブースデザインをすごく参考にしていたんです。ブースを見るのが楽しみといってもいいくらい。ところが、オンラインだと商品そのものが映像で出てきて終わり。商品の考え方までを感じにくいというのはありますね。

大澤

見本市を生で見られないのは残念ではあるんですが、一方で私は、 これを機に情報をいったんシャットアウトして、作り手たちが自らのクリエイティビティ、独創性を発揮するのも手だと思っているんです。もう各社が同じトレンドを追う必要はないんじゃないかということです。

次期テイスト検討の様子

松永

では、見本市があり、そこから住宅や施設へというような一連のトレンドの流れはなくなっていくと思われますか?

大澤

ファッショントレンドがやがてインテリアデザインに影響を与えるというような考え方が一昔前にはありました。ですが、今ファッション業界が大量生産大量廃棄の問題をきっかけに、大きく変わっています。解決策として、これまでのセールを念頭においた売り方をやめるところも出てきていますし、「シーズンレス」もひとつのキーワードです。短いサイクルで入れ替えを行うファストファッションは労働問題から環境問題までもはや支持されるべきところがどこにもない。エシカル消費を意識した消費者が増えると、メーカー側も長く使うための工夫が求められます。本質的に何が大事なのかをそれぞれが追求していく時代になっているのではないでしょうか。

これからの空間デザイン提案は「心地よさの因数分解」だ

松永

サステナビリティ、触る/触れないデザイン、バイオフィリックデザインなど、軸となりそうなキーワードが色々と出てきました。住宅、商業・公共施設における空間提案を考える上で、ここだけは外せないポイントは何だと思われますか?

大澤

空間特性の違いはあるにせよ、結局はそこに誰がきてほしいか、どんなふうに集まってほしいかですよね。そして、その人たちに快適性、居心地のよさをどう提供するかに集約される気もします。

松永

本質的に何が大事なのかをそれぞれが追求していくというお話につながりますね。デザインにおける快適性をそれぞれがどう解釈し、表現していくか。

大澤

そうですね。快適性ということから、それは音なのか、空気なのか、触り心地なのか、あるいは罪悪感のない素材なのか。触り心地というのは色なのか、粒子感なのかと自分の中で因数分解するようにして抽出していく作業になるんだと思います。面白いのは、先ほど同じトレンドを追う必要はないと申し上げましたが、そうやって各自がトレンドを意識せずに作ったとしても結果的には共通した何かが醸成されてくるもので、それが時代の気分であり、トレンドというものなんです。

ひとつ、快適性を軸にポイントを付け加えるなら、束縛されないということが挙げられます。束縛されないためにはある程度の「ゆるさ」が必要となる。そうすると、これまでどこの業界でも展開していた、高級商材や高級感という要素はいらないものになるんじゃないかと私は考えています。年齢性別を問わない、さらにエクスクルーシブではなくて、誰もが参加できるインクルージョン、横のつながりを大事にするコミュニティから発せられるデザインへの志向に注目していきたいと思っています。その意味で、空間デザインの世界も男性向け、女性向け、あるいはプレミアムなどといったカテゴリーから解放されるべきだと感じますね。

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