“カタチにつながる”産学共同プロジェクトを振り返る

(右)北村 賢哉:金沢美術工芸大学 美術工芸学部 デザイン科 環境デザイン専攻 教授
(左)森川 歳久:デザイン部 プロダクトチーム リーダー

Daiken Designでは、内外の人たちとさまざまなプロジェクトを進行しています。
そのひとつ、2017年に実施された産学共同プロジェクト「住宅用の室内ドアのデザイン」は、
金沢美術工芸大学 美術工芸学部 デザイン科 環境デザイン専攻の学生と共に
「次世代の暮らしに沿った機能美を感じるドアデザイン」をテーマに、
およそ5ヶ月をかけて展開しました。

学生のアイデアから製品化にまでつながった、カタチの見える産学共同プロジェクトについて、
担当いただいた北村教授とデザイン部 プロダクトチーム 森川リーダーがともに振り返ります。

なぜ産学共同プロジェクトで「ドア」なのか

森川

産学共同プロジェクトの動機は、第1に学生のアイデアに触れてみたかったからです。弊社にはインハウスのデザイナーがおり、協力関係にある社外のデザイン会社もあります。ただ、我々だと製品にする前提で、ある程度「これはできる、できない」というジャッジがつくので、出てくるアイデアがまとまってしまうという面があるんです。そこに、しがらみのない自由な発想を入れ、スタッフにも刺激を与えたかったですね。

これまでにも産学自体はやりましたが、なかなか製品作りにまで繋がらなかったという反省点があって、次にやるなら最終プロダクトまで結びつけられるようにしたいという想いもありました。そこで、うちの製品の中でアプローチしやすいもの、デザイン性の高いものは何かと考えたら、建具(ドア)でした。ドアならば床材などと比べても、学生にもイメージしやすいだろうと。ドアをやるなら当然工場は見ていただきたい。弊社でドアを作っているのは、富山県井波市の工場ですので、地理的に近い金沢美術工芸大学に話を持ち掛けました。

「ドア」は空間があって初めて存在するもの

北村

私自身の専門はプロダクトデザインですが、所属の環境デザイン専攻は、ランドスケープ、建築、インテリアなどの空間デザインがメインで、つまり必ずしもプロダクト志望ではない学生も多いところです。その中で、私はプロダクトデザインの思考や手法も空間デザインに役立つことを学生に伝えたいと思いがあったんです。私はよく学生に「空間はプロダクトの集合体でできている」と話しているのですが、それをどう教育に落とし込んで行くのか当時はとても悩んでいました。

そんなときに「ドアをテーマに何か作りませんか?」とお話が来まして。なるほど、いいアイテムだなと思いましたね。
ドアってプロダクトではあるけれど、スタンドアローンでは存在しえないもの。使われるときには必ず空間、部屋の中に存在するものなので、環境デザイン専攻の学生にとっても非常にアプローチしやすいだろうと。

森川

正直なところ学生から見ると、建材って何?というのはありますよね。このプロジェクトで、ドアを入り口にして、建材メーカーってこういうことをしているのか、けっこう面白いじゃないかと興味を持ってほしい気持ちもありました。

工場見学から学生のデザインが一気に進んだ

森川

スタートして感じたのは、改めて「建材」って知られていないんだな、と(笑)。面白かったのは、学生のプレゼン資料にあったドアの絵に、握り玉(※ドアのハンドル部分に取り付けられる球状の取っ手)が描かれていたことです。学生が接してきたドアは、すでにレバーハンドルが主流で、握り玉のドアは使ったことないはずなのに。ドアといえば、のアイコンなんでしょうか。

北村

当初はそれくらいドアを漠然としたイメージで捉えていたんでしょうね。空間のエレメントを作ることは、空間を図面や縮尺模型で作るだけでは済まないプロセスが必要です。それをどう経験してもらうかがプロジェクトの肝でしたが、鍵となったのは工場見学でした。そこで具体的にドアがどのように作られるのかを見て、仕組みを理解してからは、学生たちのデザインが進みましたね。ドアの断面を見て、その内部の構造を知ると、自然と興味がわいてきたようで、スケッチを描き、モデルを作っていく流れがスムーズでした。

暮らし方から「ドア」を考える

北村

取り組みとしては、ドア本体からではなく、テーマである「次世代の暮らしに沿った」でいうところの暮らし方とはどんなものかというコンセプトから始め、それに合う空間、ドア、というアプローチをしていきました。

次世代を「10年後」に設定し、自宅で仕事をする、複数拠点で生活する、もっと自由に動き回って生きる、逆に人と会わなくなって孤立化するので寂しいはずだ、などのライフスタイル予測が上がりました。そこから、使う人によってデザインを変えられるドアはどうだろう、緩やかにつながりを感じられるドアはどうだろう、などのイメージが出てきたんですね。

キーワードを抽出して具現化する、プロの跳躍力

森川

そうした過程を経て、面白いドアのアイデアがたくさん出てきましたね。たとえば、この素材を重ねるレイヤー表現は、奥行きを出しつつ、見えそうで見えないという微妙な線を狙うコンセプトで、グラフィックからの発想も面白かったです。この表現のエッセンスは商品化の過程にも残っているんですよ。(写真①②参照)

写真①:間接的に人の気配を感じられるドアのアイデア。透明素材のレイヤーで表現。

写真②:よりレイヤー感が出るようにデザインを調整したDAIKEN制作のプロトタイプ。

北村

プロトタイプになると、いきなりモノらしさがぐっと出て来たことに驚かされました。学生のアイデアももちろんよいのですが、情緒的なところ、感覚的ものが優先されていたんです。それを膨らませて、なおかつ具体的なモノに落とし込んでいくのはインハウスならではの底力、プロとしてのジャンプ力ですよね。自分のアイデアがここまで「商品ぽく」なるということに学生はびっくりしていました。

森川

いかに原案のイメージを崩さずに、モノにしていくかということに悩んだことを覚えています。(写真③④参照)

写真③:「重ねて異なる模様を見せる」デザインのアイデア。

写真④:採光の形状をリデザインしたDaiken Design製作のプロトタイプ。

Daiken Designでは、プロトタイプを経た後も、レイヤー(重ねる)というキーワードを課題として持ち続けていました。例えば、こちらの3枚引き戸のアイデアからは、実際に空間試作も行いました。(写真⑤参照)マンションの1室を想定した空間に、部屋と部屋を緩やかに仕切るパーテーションとして開発しました。
この空間は夫婦2人で暮らすシニア層をペルソナとして想定しており、寝室からドアを隔てたすぐ前の玄関兼、土間スペースに趣味で集めたコレクションを飾り、パーテーションを通してギャラリーを眺めながら楽しめるように考えました。

写真⑤:さらに開発検討した際の空間試作。

産学共同プロジェクトが残したもの

森川

プロジェクトは実物大のプロトタイプを作ったところで、いったん終了しました。ただDaiken Designはそこから、さらに試作を続けていきました。
先ほどの3枚引き戸は空間試作の後、色も、模様もいろいろ重ねたけれど、最終的には、それをどれだけ薄いものにできるのかに到達したんです。重ねるほどに、1枚でもっとできることがあるんじゃないかということが浮かび上がってきて、1枚のドアで表現しようという形態になりました。(写真⑥参照)もちろんレイヤーが持つ積層感は追いかけていて、表現として表裏両面を特殊印刷で表現しています。

写真⑥:最終的に商品化したドア製品。

北村

なるほど、こうやって商品化されるわけですよね。学生はこれ見たら喜ぶだろうなあ。
私は様々な産学連携を担当させてもらってきましたが、実際に商品化までいくことは、実はそんなに多くないんです。やはり、メーカーとしては、プロダクトを生産ラインに乗せていくのは、すごく難しいこと。その中で、学生のアイデアを拾ってつないでくださったことには、とても感謝しています。

森川

学生のアイデアの核は残しながら、ブラッシュアップして、商品というカタチに結びつけることができたので、当初考えていた、最終プロダクトまで持っていくという目的は果たせたかなと思っています。

北村

このプロジェクトを通して私自身インスピレーションをおおいに受け、授業の考え方も変わってきています。環境デザイン専攻のカリキュラムのなかに、基礎教育の段階から少しずつプロダクトデザインの考え方でモノを見られるようにする授業を入れるようになりました。今年の1年生からは、木工加工の授業で、自分がランニングした空間の入り口となるドアハンドルを作る、という課題を取り入れる予定です。1年生でドアハンドル、2年生で照明、3年で椅子というように、段階的に自分の手で考え作るプロダクトデザインを体験してもらいます。その入り口としてドアハンドルはとても良い素材だと思っています。

コロナ感染症拡大を受けて、大学では前期の授業をリモートで実施してきました。その授業でも「ドア」がキーアイテムになりました。急ごしらえで初めて取り組んだ2年生のプロダクトデザイン基礎の授業では、「自宅のドアを“手を使わずに”開閉できるデザイン」というテーマを与えました。

森川

たしかに自宅から出られない中で、誰の家にもあるもの、となるとドアですよね。

北村

一人暮らしの人もいれば、実家にいる学生もいて、それこそ握り玉のついた旧式のドアもあれば、最新のレバーハンドルのものもある。この授業をきっかけに、学生は自分の家のドアを改めてじっくり見ることになったわけです。形状はもちろん、たとえば上から吊っている構造なのかなど、きちんと見た結果、各々のドアがどれだけ違うかということも実感できたことは大きかったです。そのケースバイケースをそれぞれのやり方で解決策を見つけるというものでした。ある学生は、S字のパーツを高さと大きさをかえて何パターンも作って実験するなど、非常にプロダクト的なアプローチができるようになりました。
実質3日ほどの授業でしたが、ラピッドプロトタイピングで実装し、実際に開くようにさせ、それをムービーで撮影するところまでつなげましたね。

森川

そのポートフォリオ持ってきてもらえたら、うちの即戦力ですね(笑)
ドアというテーマを授業に取り入れてもらえると、建材に興味持つきっかけにもなって、すそ野が広がる意味でとてもありがたいです。そういう授業ができたと伺うと、次のチャレンジはもう一段上のものを目指したくなります。ゴールをプロダクト化におき、そこに至るまでのベース作りを日々の授業計画に入れてもらい、製品化する過程までを経験してもらいたいです。実際の製品化までは時間のかかるものですので、その変遷まで経験して、プロダクトで実を結ぶ産学共同プロジェクトというのをやりたいですね。

産学共同プロジェクトを経て生まれた
「リビングドア デザイン採光板」