ガバナンス対談
「将来にわたって輝き続けるためのガバナンスのあり方について」

ガバナンス対談

2021年6月25日開催の定時株主総会での承認を経て、大建工業は監査等委員会設置会社に移行しました。新たな体制の下で、大建工業が将来にわたって輝き続けるために、ガバナンスがどうあるべきかをテーマに、代表取締役 社長執行役員の億田正則と、新たに社外取締役 監査等委員に就任した浅見裕子氏による対談を実施しました。対談では、社外役員からみた当社の課題、今回の体制変更の意義、そして次期中期経営計画策定に向けて重視するポイントなどについて意見が交わされました。

1.社外役員の視点でみた大建工業

億田
浅見取締役は、2018年6月から3年間、社外監査役として携わってこられ、今般、社外取締役 監査等委員に就任されました。これまでの3年間で感じられた大建工業に対する率直な印象をお聞かせいただけますか。

本業そのものがESG、SDGsへの貢献に直結

浅見
そうですね。良くも悪くも「真面目な会社」と感じています。良い面はやはり、創業以来手掛けている事業自体が環境配慮につながっていること。本業そのものがサステナビリティで、ESGの視点はもちろん、SDGsへの貢献に直結し、環境配慮にこだわった事業活動を続けているところは大きな魅力です。製品の開発においても、見えない部分まで品質や安全性にこだわり、加えて環境負荷をどう抑えるかの視点でも真摯に取り組まれています。そして、それらを実現する技術力は、“技術の大建”と業界でいわれるだけあると納得しています。
億田
ありがとうございます。特に当社のDNAともいえる木材を有効活用した事業は、世界的に機運の高まるカーボンニュートラルに貢献できるものであり、当社の果たす役割はますます重要になってきていると考えます。私自身も、サステナビリティやESGはとても重視しており、社長就任直後から着手した長期ビジョン「GP25」の策定においても、存在意義・志はサステナビリティを軸に定めました。また、現中期経営計画「GP25 2nd Stage」と連動した「中期ESG計画」を策定するとともに、経営目標に非財務の目標を設定するなど、ESGを経営戦略の一環として積極的に取り組んでいます。
浅見
さらにもう一つ、大建工業の真面目さの良い点は、ガバナンス面にも表れています。2015年に独立社外取締役を過半数とする指名・報酬委員会を設置したのも一例ですが、経営の透明性向上や、ガバナンスの強化に向けた姿勢は評価できると思います。
億田
ありがとうございます。ガバナンスについては後程さらに詳しくお聞かせいただきたいと思います。

ESGを軸とした株主・投資家との対話強化の必要性

浅見
一方で、大きな課題を二つ感じています。一つは真面目さの裏返しともいえると思いますが、せっかくESGやSDGsへの貢献といった良さがあるのに、それをステークホルダーにしっかりとわかりやすくアピールできていない点です。上場企業であり、事業活動のフィールドもグローバル化を進めているのですから、“知る人ぞ知る”存在で良しとせず、もっと自社の良さを広く理解してもらう工夫をしていく必要があります。投資家との対話も少なすぎるのではないでしょうか。
億田
その点は私も課題と認識しています。当社の製品を提案・販売する際にも、その製品を生み出した背景にある想いや開発コンセプト、さらには、当社製品をお使いいただくことで社会に広がる新しい価値などをもっとわかりやすく発信していきたいと考えています。そうすることで、ステークホルダーとの価値共創の機会も広がると思います。また、投資家との対話については、2021年度の組織改編で、これまで経営企画部内にあったIR室を担当役員の下で組織横断的に活動がしやすいようIR部として独立させ、株主・投資家との対話を強化しています。これら当社の考え方や取り組みをESGを重視する投資家に評価いただけるよう、積極的に訴求していきたいと思います。

ダイバーシティ推進の加速が大きな課題

浅見
もう一つの課題は、ダイバーシティの遅れについてです。この点に関しては、早急に改善が必要だと思います。トップの方針にダイバーシティの推進が掲げられてはいますが、正直、物足りないといわざるを得ません。他のESGの取り組みが進んでいる中でとても残念です。社長のリーダーシップは感じますが、果たしてダイバーシティの重要性がどれだけ社内に浸透しているのでしょうか。また、多様な働き方を許容する制度化にも遅れを感じます。既に遅れているだけに、今のペースで進めていては間に合いません。もっと強力に加速してほしい部分です。
億田
おっしゃるとおり、私たちの取り組みは道半ばで、より一層のスピードアップが必要だと認識しています。本来ダイバーシティは、年齢、性別、人種、信仰などにかかわらず、さまざまな個性や価値観を持った人財が意見をぶつけ合うことで、組織の競争力を高めていくことを目指すものだと思いますが、当社ではまず最も身近な存在である女性活躍に注力しています。そんな中で、今年度新設した執行職にも女性を1名登用しましたが、女性管理職比率が低い点は依然、大きな課題です。しかし数字には表れていないものの、地に足の着いた取り組みは着実に進めています。近年、入社する女性社員数も増えており、層も厚くなってきています。これら若い世代からのボトムアップによる取り組みが5年後、10年後の大建工業を変革する力になると期待しています。

あらゆるステージで活躍し続けるための仕組みづくり

浅見
今般のガバナンス体制の変更で新設した執行職に女性を登用した点については評価できますが、ダイバーシティの推進は、女性活躍の視点のみでは不十分だと思います。育児・介護・配偶者の転勤などのライフイベントは、女性だけが直面するものではありません。性別や年齢、国籍、在職年数に関わらず、すべての従業員が人生のどのようなステージにいても、それぞれが活き活きと働くことができる多様な働き方に対応した仕組みが必要だと思います。
億田
ライフイベントに直面した従業員がキャリアを途切れさせることなく、活躍し続けることができる仕組み・風土づくりは、当社の持続的な成長に不可欠な要素であると考えています。この考え方の下、多様な働き方に関しては、コロナ禍で従来の固定観念がリセットされたことを踏まえて、時間、場所などにとらわれず活躍し続けることができる制度の整備に着手しています。
浅見裕子

2.監査等委員会設置会社への移行

億田
今般、取締役会の監督機能の強化と、意思決定のスピードアップ、そして次世代経営層の育成の3点を目的に、監査等委員会設置会社への移行と、これに連動して業務執行体制の変更を行いました。全社の意識改革や、先ほどご指摘のあったダイバーシティも含めた人財力の底上げも大きな狙いの一つです。今回の体制変更を浅見取締役はどのようにご覧になっているかお聞かせ願えますか。

体制変更を、さらなるガバナンス改革に向けた起点に

浅見
2022年4月、東京証券取引所の市場再編が行われますが、大建工業は、プライム市場で勝負するのか、あるいはスタンダード市場の企業になるのか、ガバナンス改革のみならず、ビジネスモデルそのものに対する本気度が問われているという点をまず認識する必要があります。大建工業が目指すプライム市場は、我が国を代表する優良企業が投資対象として集まる、国際的に見ても魅力あふれる市場です。ここで問われる「ガバナンス」は、企業統治に関する事項のみを指すものではありません。ダイバーシティも含めた中核人財の育成や、ビジネスモデルそのものに変革をもたらす、本来の意味でのガバナンスです。「やらなければならないから」ではなく、大建工業が将来にわたって飛躍し続けるために、今回のガバナンス改革を機に、大きく長く羽ばたき続けられるような体質へと改善していくことが大事だと考えます。
億田
体制を変更することで改善を図るというよりは、体制変更を起点にして中身を変えていくことで初めて改善がなされる、ということですよね。私も今回の体制変更を決して形式的なものにとどまらせてはならない、将来にわたっての大建工業の風土をさらに良くしていく起点にしたいと考え、実行しました。

M&A戦略に対応したグループガバナンス強化

浅見
そうですね。ガバナンスを真剣に改革しようという億田社長の強い意気込みや熱意は、監査等委員会設置会社への移行を検討するプロセスで、何度も事務局とやり取りを重ねる中からも伝わってきました。仕組みを変えれば良くなるわけではありません。体制変更をガバナンス改革の起点と捉えるという、トップの本気度が“号砲”として鳴らされていることは、評価できると思います。また私自身の、過去3年間の社外監査役、そして今回就任した監査等委員としての立場でいえば、内部監査部門を監査等委員会の直轄としたことで、これまで以上に内部統制や監査の質が高まると期待しています。特にM&A戦略を進める中ではグループガバナンスが重要ですから、体制変更を機に、監査等委員会と内部監査部門の連携を密にし、仕組みを強化していきたいですね。
億田
海外市場での売上高が全体の約1/4を占めるまでに拡大し、グループガバナンスの強化が必要だと常々考えていました。今後さらに実効性を高めていきたいと思います。

ガバナンス改革を、次代を担う人財育成につなげる

浅見
もう一つ評価しているのは、次世代の経営層育成に向けた業務執行体制とセットで体制変更を行った点です。企業経営における取締役会の重要性はいうまでもありませんが、その本来の主たる機能は監督機能です。ガバナンスを改革するのであれば、実際の“切り盛り”を行う執行側も含めて行うのがあるべき姿です。経営の迅速性の確保と、執行側の適切なリスクテイクを支える環境整備が進むと期待しています。また新設の執行職のメンバーにも、今後、体系化されたトレーニングを設定して、次代の経営を担う人財として育成する必要があると思います。
億田
ご指摘のとおりです。経営環境の変化に合わせて、取締役会は常に最適なメンバーで構成されるよう追求していきたいと考えていますが、加えて執行役員や執行職についても、2021年改訂コーポレートガバナンス・コードでも示されたスキル・マトリックスを整備・活用し、指名・報酬機能を担う「ガバナンス委員会」で持続的な企業価値向上に向けたあるべき姿を描いて議論を深めたいと思います。また、これら役員に求められるスキルや、それらを充足するためのトレーニングメニューを設定し可視化することで、部門長やその他の管理職にとっても、自らがどのような経験を積み、スキルを身につける必要があるのかをイメージしやすくなりますから、将来の幹部候補としての育成にもつながると思います。さらに、次代を担う経営層の育成という視点ではサクセッションプランも重要な課題としてありますから、浅見取締役をはじめとした社外取締役の方々ともガバナンス委員会で議論を深めていきたいと思いますのでよろしくお願いします。
億田正則

3.次期中期経営計画策定に向けて

億田
今年度は長期ビジョン「GP25」の実現に向けた最終段階となる中期経営計画「GP25 3rd Stage」を策定する年です。既に草案策定に着手していますが、浅見取締役は、特にどのような点を重視しながら取締役会での議論を深めたいとお考えですか。

事業・市場戦略における重点領域をより明確にする

浅見
私は、先ほど述べたダイバーシティの加速に、事業・市場戦略の方向性、研究開発を加えた3点が重要と考えます。現状進めている長期ビジョン「GP25」に基づく事業・市場戦略の方向性は理にかなっていると思いますが、1st、2ndと2期の中期経営計画を通じて見えてきた景色もあるはずです。例えば、非住宅の公共・商業建築分野だけを見ても対象範囲は広く、その中でどこを主なターゲットにするのか。大建工業の技術力や販路などの強みや優位性を活かしながら成長性の観点で注力するのはどの商材なのか。集中か分散か。こうしたもう一段踏み込んだ方針を明確に示す必要があると思います。海外も同様に、今、中心的に展開している北米、東南アジア、中国、オセアニアの地域に今後も満遍なく展開するのか。市場の成長性や当社の強みを活かせる領域に絞り込むのか。また10年、20年の長期スパンを見据え、各市場でどのようなポジションを築くことを目指すのか。ほかにも海外戦略には、研究開発、調達、生産、販売、施工・工事までのバリューチェーン構築や、コーポレート部門の人財など、経営資源の配分についてもその方向性をより明確にする必要があり、そのためには相当の議論も必要でしょう。
億田
そうですね。事業・市場の方向性に関しては、当社が対処すべき重要課題(マテリアリティ)についての議論とも絡め、中長期の外部環境の変化や社会課題をサステナビリティの視点でどう捉え、大建工業の強みをどのように磨き上げることで解決策を見いだしていくのか、より明確にしていきます。その上で、現状の素材、建材、エンジニアリングの3つの事業、またそれぞれの事業を構成する製品軸で、真に注力する領域や、第4の柱となる事業の方向性についても明確にしていきたいと考えています。さらに、これまでやや全方位で取り組んできた国内での市場戦略の優先順位付けを行うとともに、海外についても、製品・エリア戦略をより具体化し、次期中期経営計画に織り込んでいきます。

研究開発力で社会課題の解決に貢献し続ける

浅見
また研究開発は、“技術の大建”の競争力の源泉であり、数ある強みの中で筆頭に来るものだと私は思っていますが、この強みが今後も色褪せることなく輝き続けるようにするには、技術力を磨き続け最大限に活かせる環境づくりと人財の育成が不可欠です。そのための経営資源の再配分には、直ちに取り組むべきではないでしょうか。成長のための手段として、M&Aの活用を否定するわけではありませんが、現状は海外展開や工事力の強化に偏っています。研究開発力を後押しするものや、オーガニックグロース(内部の経営資源を活用した成長)につながる投資やM&Aをもっと重点的に強化すべきだと思います。例えば素材事業では、北米事業の利益貢献度は高まっていますが、市場が縮小する国内での収益性の低下が懸念されます。本来、高いポテンシャルを持つだけに、私はこれをとてももったいないと思っています。例えば国内の素材事業において付加価値を高める技術や、大幅なコストダウンにつながる技術、さらには環境負荷低減や脱石化製品などの持続可能性を高める技術開発を加速するための投資やM&Aにもっと積極的に取り組んでいくべきではないでしょうか。その一方で、オーガニックグロースにつながらないと判断した案件は、中・長期的なリスクの視点から早めに出口戦略を探ることも必要です。ここ数年、「グループ企業理念」を軸にESGやSDGsの視点を社内に取り込み、社会課題を踏まえた研究開発戦略を強化されていますので、この流れがもっと加速することを期待しています。
億田
そうですね。歴史を振り返っても、局面を変える事業展開には研究開発の成果による貢献がありました。創業期は、木材の弱点を克服する接着剤配合技術で事業基盤を築き、現在の建材事業のベースとなった「特殊合板」や、木材を繊維として活かしさまざまな用途に展開しながら60年以上現役を続ける「インシュレーションボード」もそうですし、「ダイライト」は火山灰という、火山・地震国の日本に無尽蔵にありながらも有効活用できずにいた未利用資源に着目し、それを原材料にして住宅の耐震化に貢献できる素材として開発したものです。今後も社会課題を捉えて、事業を通じて解決策を提案し、社会に貢献していきたい気持ちは変わりません。そのための原動力となる研究開発は、今後も積極的に強化していく考えです。
浅見
2021年改訂コーポレートガバナンス・コードでも、経営戦略の実行が持続的な成長に資するよう実効的に監督することが取締役会に求められていますが、まさに研究開発は、中長期視点で持続的な成長に資する領域です。今ある研究開発部門を守り育てると同時に、経営陣の中にも、研究開発と事業に造詣の深い人財が求められますから、その点が担保されるよう、ガバナンス委員会でも積極的に関与していきたいと思います。
億田
よろしくお願いします。研究開発はこれまで以上に未来志向に変わってきています。長期ビジョン「GP25」を起点に、従来の発想にとらわれない新分野への展開を進めたり、2018年に設立したR&Dセンターではオープンイノベーションの積極的な活用も進めています。投資家との対話で、研究開発費が少ないとのご指摘をいただくこともあり、次期中期経営計画の策定においては、10年先、またその先の100周年をも見据えた研究開発戦略についての議論を深め、経営資源の再配分を進めていきます。

グループ企業理念を体現する取締役会での議論

浅見
そうですね。そして先ほどのダイバーシティの加速についても、議論を深めていきたいですね。
億田
はい。年齢、職種・職歴のバランスに、女性や中途採用者の活用、海外人財の確保など、中長期での人財戦略の方向性を議論し、その実現に必要な具体的な制度も早期に整備していきたいと思います。浅見取締役が指摘された研究開発、ダイバーシティ、事業・市場の方向性の3点は、私自身も大変重要だと認識しています。グループ企業理念のミッションに「技術と発想と情熱で笑顔があふれる未来に貢献」と掲げていますが、「技術」は研究開発が、「発想」は多様な人財、すなわちダイバーシティが織りなすもの。そして、グループが結集した力と「情熱」をどこに振り向けていくかが、まさに事業・市場の方向性です。取締役会において、これらを経営の重要課題と捉えて議論し、笑顔があふれる未来に貢献する企業へと方向付けていきたいと思います。
本日はありがとうございました。