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地域循環の中で、個性が集まり、個人がコミュニティをつくる ~パン工房・カフェ タルマーリーインタビュー~ vol.05 2018.07.02 くらしの声 地域循環の中で、個性が集まり、個人がコミュニティをつくる
~パンとビール製造、カフェ タルマーリーインタビュー~ vol.05

タルマーリーの地域貢献は幅広い。智頭町というコミュニティでさまざまな連携をうみだしている。そこには「つながろう!」と意気込まないからこそできる地域連携の姿があった。世代間の断絶、引き算の地域貢献など、独創的な発想からタルマーリーは生まれている。

CHAPTER:01 長いスパンでものごとを考えると「時間の流れはゆっくりだったんだ」と気づいた

タルマーリーさんに来てすごく時間がゆったり流れているのがわかります。ゆったりと醸す雰囲気がありますね。

渡邉さん:100年くらいしたら、もっとすごいことになりますよ。100年ぐらいの長いスパンでものを考えないと何もできないです。
今の日本は数年、数ヵ月という短い周期で流れていて、評価されるようなシステムになっています。うちに来て3、4カ月で辞めてしまう子たちは、そのような考えをすぐに取り払えないからでしょうか、非常にもったいないですね。

社会はめまぐるしいです。IT企業などでは「超高速PDCAサイクル」などといって、非常に短い周期でプランから効果測定までやっています。

渡邉さん:その速さがあるから、技術革新が生まれ、世の中が動いていって、面白くなっているのも確かです。生物学や物理学などの急速な発展は、僕たちの事業にもすごく関わってきますので、そういう高速サイクルの発展はどんどんやってもらいたいと思います。

ですが、タルマーリーの時間の流れとは違いますね。

渡邉さん:そうですね。ITの発展などで、人間関係の分断や個別化を進んでいるような気がしています。世代間の断絶なんかとくにひどくて、昔の知恵などがすごく伝達しにくくなっています。

たとえば、この地域の林業では、おじいちゃんが今やっている仕事は、孫のためにやっているんですね。いわば、60年間という非常に長いスパンで物事を考えています。
だから、近所の方がうちのスタッフに対して、「数年間の短い修業の中でやりたいことやらしてもらえるんだからありがたいな」って、みんな言ってくれます。
その方々が長いスパンで仕事をしているからこそ、それを聞いてスタッフも「そうだよな」って迷いがなくなるんです。

これからの日本は人口が何千万人も減っていって、超高齢化が進み、個別化、断絶化していく状態ですね。

渡邉さん:そうですね。それも「人」が分断化される傾向に拍車をかけているのかもしれませんね。だからこそ、個々の人間がもっと考え方を変えないといけないと思うんです。

どういうことですか?

渡邉さん:脳だけで判断して行動していると、実は身体が嫌がっているのに脳が押し殺していることってあると思います。例えば、身体が「会社に行きたくない」といっているのに、脳が「あの会社に行っていれば、私は素敵な人生が送れるんだ」と言い聞かせて、身体に無理をさせてしまうように……。

だから、逆の発想になればいいんです。まずは「何をするのが楽しいか」という純粋な想いが起点になり、楽しい仕事がお互いにあるような、そんな地域社会をつくっていく。農業なら本当に好きなものを栽培して、それ加工して活かし、結果的に地域が盛り上がる……。

つまり「個」の考え方で社会にアプローチすればよい?

渡邉さん:そうです。「個」がちゃんと考えて、やりたいことをやればいいじゃないのか、と。そのかわり、できることならお互いに関わるようにして、隣同士でつながっていって地域内循環する経済圏になれたらいいと思います。
だから地域連携というのも、「無理やりの連携」や「予定調和的な社会」や「トップダウン」ではなく、「個から始まる」のほうが⾯⽩いんです。それぞれの持っているものを「それがあるから結び付けよう」というのが、僕らの共生の考え方なんですね。

CHAPTER:02 気負わず流れに身を任せば自然とうまくいく

智頭町での地域連携についてはどのように進んでいますか。

渡邉さん:智頭町でしていることは、どこにでもある共同体の形だと思います。「根」はどこにでもあると思いますが、それを明確な形にするには長いスパンで考えないと技術や協力は得られないと思います。

あとは引き算……つまりあまり気負わずにやったほうがうまくいくようです。
たとえば、それぞれが自分たちのために動いくことで、結果としてそれが地域を動かすことにつながっています。自分なりに動いていると、地域の方から「ちょっと空いた畑があるから、借りてやってみては?」や「トマトを作るから使ってみてほしい」などなど。
以前は、「これをやってください!」と暑苦しくて余計なお願いをしていましたが(笑)、そういうことを一切やらないほうが循環していくような感じがします。

逆説的ですね。

渡邉さん:そう、足し算と考えていたのに、本当は引き算だったんですね。千葉や岡山でも足し算ばかりを考えていました。たとえば、「野菜はすべて自然栽培でなくてはいけない!」と強く思っていましたし。でも、ここにきてからそんなこと思っていません。

我々がビール醸造を立ち上げる話をした時に、村の青年がすぐにホップを植えてくれて、まだビールができてないのに「ホップ栽培、頑張りますんで」と言ってくれました。それからホップだけでなく、米、ライ麦、トマトなど、いろいろな作物を無肥料無農薬で栽培してくれる人が出てきています。

それは僕がお願いして回ったものではなく、「智頭町という場」がそれを作ってくれたんだと思います。そういう「場の本意」というものが、だんだん自分の中でわかってきたんですね。「こういうふうになりたい」という計画すら、自分や周囲に悪影響を与えていたのかもしれません。今では「協調して働こうよ」などと相手の逃げ場がなくなるようなことは絶対言わないようにしています。

なるほど。想いが自然と「場」を動かしている……と。

渡邉さん:細かいことを考えても仕方ないんです。想いやコンセプトの部分をしっかり持っていれば、重いメッセージはむしろ入れない方がいいかもしれないです。いま地域内循環が動き始めていますが、それを作ったのは「場」そのものではないかと考えています。

お話しを聞いていると、いまはあまり恣意的にされずに、水のようにナチュラルに流すという感じがします。

渡邉さん:そうかもしれません。いっぱい失敗している体験からですかね(笑)。千葉でも岡山でも何となく納得がいかないというか、自分のものになっていない感じでした。それが智頭町に来て、自分の中で落とし込めるようになりました。「パンだけでなく、カフェという場もつくり、地域の農産物を使う」ということで、僕の中でようやく腑に落ちたのです。

  • 想いやコンセプトの部分をしっかり持っていれば、
    あとは「場」そのものが「場」をつくっていく。

最後に、これからタルマーリーさんが目指してところをお聞きかせください。

渡邉さん:タルマーリーとしては、いまの路線を守りつつ「地域内循環」から「地域発展」にしたい想いは強くあります。

私個人としては、「場」の思考をもう少し深めて、「場」というものを中心にしたあらたな著述をまとめたいという気持ちがあります。

あとは、脳と身体の関係性について掘り下げたいですね。古来の身体の使い方を研究されている武術家の甲野善紀(こうの よしのり)先生から多大な影響を受けているのですが、私も職人の仕事における身体性を研究したいですね。昔の飛脚は江戸から大阪まで走っていったのです。現代人がもっと身体の有効な使い方を知ることが、より生きやすさに繋がると思います。

最後にですが、人が幸せになる方法はいろいろあります。昔の技術でも、まだまだ捨てられず忘れられず今も残っています。それらをもう一度掘り起こして、また後世につなげたいと思っています。

なるほど。興味深い話が聞けて良かったです。ありがとうございました。