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腐る経済で成り立つ地域循環のパン屋カフェ ~パン工房・カフェ タルマーリーインタビュー~ vol.01 2018.04.10 くらしの声 腐る経済で成り立つ地域循環のパン屋カフェ
~パンとビール製造、カフェ タルマーリーインタビュー~ vol.01

鳥取県の県境の智頭町。中国山脈の懐に抱かれるようにして、パンとビール製造、カフェ「タルマーリー」はたたずんでいる。
幼稚園を改築したお店は、手造り感にあふれて、温かく、惹きつける何かを持っている。
店に足を一歩踏み入れると、酵母の匂いだろうか、甘い匂いが体と心をつつむ。
山間の寒く荒々しい風景が嘘のような「居心地の良い空間」。
ベストセラーとなった『腐る経済』の著者である「タルマーリー」店主・渡邉格(いたる)さんに、「地域内循環」を謳うタルマーリーの在り方について聞いた。

CHAPTER:01 違う形をもとめての関東から中国地方への移住

本日(2月中旬)は、タルマーリーさんにとって長期休暇明け間もない時期ですが、たくさんのお客さんが訪れています。地元の方や観光客など多様な方が見えられていて、さながら地域の集会場というか、コア的立場のように思えます。

渡邉さん:そうですね、今は雪が降る時期なのでまだ少ないほうなのかな。お客さんはやはり土曜日・日曜日の週末の方が多いですね。遠方からのお客さんも多く日本中から、そして海外からも来てくださっています。昨日は東京から団体さんが見えられました。

タルマーリー 渡邉格(いたる)オーナータルマーリー 渡邉格(いたる)オーナー

著述を見せていただくと、渡邉さんは、千葉から岡山、そして現在の智頭に至るまで、何度か活躍のフィールドを移転されています。まずはそのあたりの経緯からお聞かせください。

渡邉さん:まず、千葉から岡山に移ったときは、当初から目標にしてきた「地域内循環」をより実現するため、一番重要な部分である「無から有を生む」というコンセプトを実現するつもりで移住してきたんです。

といいますと?

渡邉さん:「無から有を生む」というのは、簡単に言うと、「土があれば何でも作れるぞ」ということ。
たとえば、自然界からさまざまな菌が採取できるわけですが、周辺の環境、空気や水が汚れていると、それを分解しようとする菌が増えてきます。つまり、環境の汚れを分解しようとする菌が発酵菌に混じってしまう。そうなると「無から有を生み出す」、つまり自然の恵みである作物と野生の菌だけで発酵させることはできなくなります。
千葉という環境では難しいと感じていたときに東北大震災後が起き、それで背中をおされるようにして、より良い自然環境、より良い発酵をしてくれる菌を採取できる場所を求めて、岡山に移住しました。

なるほど、より住みやすい環境を求めての移住ということですね。ただ、やや難しい話がでました。まずは、今おっしゃった「地域内循環」とは?

渡邉さん:私の著述である「腐る経済」の内容から入ると、わかりやすいかな。まず今の社会というのは「お金だけが腐らない」ものなんですよね。実態がないので「腐ることがないのがお金」。そのお金がどんどん自己増殖して、お金だけで回そうとするから、経済や社会がなにかおかしなことになっている。それって本末転倒というか、自然の理に反しているというか……、昔からある「腐るもの」でちゃんと交換していけば、健全な経済が生まれるんじゃないかと考えたわけです。

「腐るもの」……渡邉さんのところで作っているパンなどのことでしょうか。

渡邉さん:そうですね。私の場合はたまたまパンやビールなどの発酵食品が主体ですが、それだけではなく、本来「腐るようなもの」というのは、自然の恵みである農作物や魚、肉、あるいはその加工品などです。これらをもってぐるぐると経済を回していけば、普通に生きる人にとっては十分に豊かな生活が送れるんじゃないかと考えました。
現代の社会は、経済が一辺倒というか、グローバル化してしまい、どうしても「お金だけが全て」という図式が成り立ってしまっています。5年前に千葉を離れるときにもそれを痛感していましたが、そのときから比べてもずっと加速してしまったような感があります。社会全体が、お金のためだけにしか動いていないかのようにも思えるほどです。むろんそれは極論かもしれないですけど……(笑)。

そのおいしさに誰もが驚く「タルマーリー」のパンそのおいしさに誰もが驚く「タルマーリー」のパン

渡邉さんは、そうではない仕組みがある、と思われた。

渡邉さん:はい。そういうグローバルなお金を回す仕組みではなく、地域のなかで、地域でできたものを回して、それで経済活動として生活が成り立つ……「地域内循環」つまり「地域内経済」を突き詰めていきたいと思ったわけです。まあ一つには、このグローバルな価値観一辺倒の世の中で、こんな小さい場所でも地域内循環が成立することを示すことができれば、「経済の多様性」を生むんじゃないかと思ってやっています。ある意味、資本主義から離脱するみたいな感じで(笑)。

とても面白い考え方です、既存の社会経済とは別のアプローチを目指された……と。

渡邉さん:とは言っても、それで稼げて楽できるかというと、まあ違う話ですが(笑)。
自分になりに「経済の多様性」を考えて地域内循環をすすめていますが、正直なかなか稼げるものではありません。でも、地域内循環をすることで、社会や経済に多様性を与えるということは、利潤だけを追求するだけではない在り方を、誰かに指し示すことができる。
たとえば、都会で疲れている若い方などが、「田舎でもこうやって生きていけるんだ」というケーススタディにもなりえます。もしお金が無くなっても、自然環境が豊かであれば、生きていく保証を得られるよ…と指し示すことができる。

山間部の川はしずかに流れて静寂の中に山間部の川はしずかに流れて静寂の中に

なるほど、その経済の多様性や社会の多様性こそが、「腐る経済」であり「地域内循環」の目指しているもの。

渡邉さん:そんなにたいそうなものではないですが(笑)、なんとなく、この智頭という山間の町でパンやビールをつくって、それが「賑やかな革命」になればよいなあ、と思っています。

CHAPTER:02 千葉から岡山、そして智頭町へ

千葉から岡山に移られて、その試みはすぐに軌道にのったのですか?

渡邉さん:いえ、それが簡単にはいかないもので……岡山では、よい菌の採取は出来ましたが、地域内循環を成り立たせるには、色々とできないことが多くありました。

それはどんな問題でしたか?

渡邉さん:たまたま岡山で営業していたところが、江戸時代から続く町屋だったので、すごく狭かったんです。土地が狭いから、麦を置く場所がありませんでした。また、水を得ようとしても、建物の都合上、井戸を掘ることが難しいなどなどいろんな問題がありました。
また、私個人の問題として、子供の教育がありました。

というと?

渡邉さん:田舎での子育てというと、おそらく都会に住んでいる方はみなさん、子どもたちを森や野原でのびのび遊ばせたい‥という憧れがあると思いますよ(笑)。
私と妻もまったく同じように考えて、田舎の子育てって、野山でヘビやカエルをつかまえてきちゃうみたいなイメージで(笑)。子どもたちにそんな経験をさせてあげたいなと思っていたんですが、岡山ではなかなか難しい環境でした。
家の前は車通りが危なくて、仕事も忙しいので、どうしても子どもたちを家の中で過ごさせる時間が多くなってしまい…。店も住環境も狭く、ややストレスを感じるようになっていたんです。
そんなときに、この智頭町の「森のようちえん」を思い出しました。智頭町は岡山からは車で二時間ほどの場所です。「森のようちえん」はひたすら自然の中で遊ぶ幼稚園で、全国的にも有名なので以前から知っていました。うちの息子がギリギリ年長の1年間、その「森のようちえん」に入れる可能性があるとわかりました。そういうタイミングも重なって、「今しかない」ということで、岡山から智頭へと移転しました。

すごく思い切った行動です(笑)。

渡邉さん:そうですね(笑)。たまたま運がよかったというか。智頭町は昔からの宿場町で、更にこの那岐地区は県境で人の出入りが多かったそうで、地元の方が外の人間の受け入れに慣れておられるんです。だから、私も含めて、子供たちにもすごくプラスに働きました。

  • カフェスペースは、昔の幼稚園の教室に、手作りのテーブルなどを置いている
  • 店舗に入ると、甘い香りと暖かなインテリア
  • 店舗に入ると、甘い香りと暖かなインテリア
    カフェスペースは、昔の幼稚園の教室に、手作りのテーブルなどを置いている

お子さんたちの様子が変わった?

渡邉さん:はい。「森のようちえん」に入った当初は馴染むのに苦労していました。普通の保育園で過ごしてきた息子と、何年も森で遊んできた子たちと比べたら、体力も遊び方も全然違うので、最初はガキ大将にイジメられて傷だらけで帰ってきたり…。それで父親としてはなんとか息子を溶け込ませようと、「相撲でガキ大将を吹っ飛ばそう!」という計画を立てたんです。それから毎晩相撲をとっていたら息子もだんだん強くなって、秋くらいにはそのガキ大将を投げ飛ばすまでになりました。それを機にその子にもすごく気に入られて、小学校にあがった今でも仲良くしています。

子供さんたちはいち早くなじめたわけですね。

渡邉さん:都会からの田舎暮らしは、子供にしてもどこか怖いところはあると思います。それは早く乗り越えたほうが楽ですし。そういう意味でもうちの子はよかったなと。

なるほど、ではタルマーリーが智頭町でいかに出来上がっていったか、その過程について、次回お聞きしましょう。