防音に必要な吸音・遮音材の違い
選び方と施工のポイントも解説

マンションやアパートなどの集合住宅はもちろん、戸建て住宅でも気になるのが、日常生活で出る、または自分が出す「音」ではないでしょうか。
日常生活においては、周りの騒音が気になる方もいれば、自分から発生する音を気にする方もいます。そこで住宅の防音措置を施す際に使われるのが「吸音材」「遮音材」「防震・制振材」です。
これら吸音材や遮音材、防震・制振材は、それぞれ使われ方や役割が異なるため、しっかりとその仕組みや特徴を理解して使い分ける必要があります。
今回は、住宅などの騒音対策に役立つおすすめな吸音材や遮音材、防震・制振材について詳しく解説します。建物の騒音についてお悩みの方はもちろん、今後吸音材や騒音対策に関するリフォームを取り扱う予定のあるお客様もぜひ参考にしてください。
防音材とは

防音材とは、防音効果のある建材の総称です。防音材は、それぞれの性能の特徴から「吸音材」「遮音材」「防振材・制振材」などに分類されます。
これらを適切な場所に設置・対策することで最大に効果を発揮できるため、組み合わせも大切です。
以下で、それぞれの特徴について解説します。
吸音材
吸音材は、室内で発生する音の反射を抑え、音を逃がす効果が期待できる建材の1つです。
家庭生活では、さまざまな騒音が気になるケースがあります。ペットを飼っているご家庭では、ペットが床を歩く際に出る音や、ペットの鳴き声が気になります。また、ピアノやギターなどの楽器を演奏したり、オーディオルームなどの音が外部に漏れるケースもあります。
防音効果を最大限出すためには遮音材と組み合わせることにより、音の反響を調整する必要があります。
吸音材には、主に以下のような素材が使われています。
- グラスウール
- ロックウール
- フェルト
- 木毛セメント板
それぞれ解説します。
グラスウール
グラスウールとは、ガラスを繊維のように細く加工し、綿状にしたものです。ガラス繊維が綿のように絡み合うことで空気の層ができることで、吸音効果が期待できます。またグラスウールは、吸音性以外にも断熱性や不燃性が高く、軽くて扱いやすいのが特徴です。
特に中音域から高音域の吸音効果が優れているため、反響が気になる場所への使用がおすすめです。グラスウールは遮音シートなどとの組み合わせにより、高い効果を発揮します。
このような吸音性と断熱性の特徴を活かすために、部屋と部屋の間の壁に使用されることが多い建材となっています。
ロックウール
ロックウールとは、天然の鉱物を高温で溶解して遠心力によって吹き飛ばし、綿菓子のように加工した建材です。綿菓子のように絡み合った繊維が作る空気の層により、吸音性を高めています。
またガラスウールと同様に防火性や耐火性にも優れており、古くから建物の耐火材などにも使われています。
ロックウールは、その見た目や使い方からアスベストと間違われるケースもあります。しかし、まったくの別物であり安心して使えます。
ロックウールの吸音材としての特徴は、低音から高音まで幅広い音域に対応し、吸収できることです。
フェルト
フェルトといえば一般的に羊毛を加工したものですが、建材としては羊毛以外にもポリエステルや合繊反毛ニードルなど、化学繊維を材料とした物もあります。
フェルトを吸音材として利用する場合は、吸音効果を高めるには繊維を細かく密集させる必要があります。フェルト素材の吸音材の特徴は、音の振動や反響を抑えられる点です。
木毛セメント板
木毛セメント板は、リボン状に細長く加工した木材の繊維と、セメントペーストを圧縮して成型した板状の建材です。国内でも、古くから燃えない建材として知られ、ヨーロッパでは100年以上前から使用されています。
木毛セメント板の特徴は、木材を主原料としながらも腐りにくく、シロアリにも強いという点です。
吸音材としては、残響を消す効果があるため、コンサートホールなどの音響効果の高い建物でも利用されています。
このような吸音材は、単独で使うのではなく、次に紹介する「遮音材」と併用して外部への音漏れを軽減したり、外部の音を遮断する目的で使用されるのが特徴です。そのため、遮音材の特徴とあわせて理解しておきましょう。
遮音材
遮音材とは、音が壁や天井を通過して向こう側に響かないように「音を遮る」材質を使うのが特徴です。遮音材は、出た音を跳ね返し、外部に音を逃さない構造をとっています。
一般的な遮音材は、鉛などを利用し、重低音ほど遮音効果が高くなる特徴があります。遮音材を使う際は、床材から壁材、天井まで全てに遮音材を用いるため、音源となる室内に音が響きやすくなります。
遮音材がよく利用される場所には音楽ホールや音楽室などがあり、室内には調音材と呼ばれる音響効果の高い建材を併用します。これを住宅などに使用することで、趣味を活かしたシアタールームやスタジオなどを作ることができるでしょう。
防振・制振材
防振・制振材とは、振動によって発生する騒音を抑える建材です。冷蔵庫や洗濯機などの振動による騒音を抑える仕組みが代表的で、主にゴム材が使われるのが特徴です。
一方、制振材とは、振動そのものを抑える材質で、冷蔵庫や洗濯機の鉄板部分にゴムなどのシートが貼られ、器材そのものが振動しないようにします。
制振材は床の防音用マットなどにも利用されており、防音効果の高い建材として一般的に使われています。
このように、住宅内には「吸音材」「遮音材」「防振材・制振材」それぞれを上手く組み合わせ、出る音の特徴に合わせて工事などを行う必要があります。そこで以下では、これらを使用する場所や注意点を解説します。
防音材を使用する場所

一般的な住宅の防音材については、主に以下のような場所で利用されています。
- 天井や壁
- 開口(ドアや戸)部
- 床
それぞれ解説します。
天井や壁の遮音
天井や壁の遮音性能を高めるためには、下地の空間に吸音材を詰めるのが一般的です。通常のマンションなどの内壁の場合は、下地が石膏ボードだけのケースが多いため、騒音が響くことが多いのが欠点です。しかし、遮音性能が高い処理をした内壁にした場合には、室内を静かな環境にすることができます。
ただ遮音材にはそれぞれの特徴があり、用途によって音を消すものから跳ね返るものまでを、上手く組み合わせることが大切です。
音を消して静かな環境を作りたいときは吸音材を下地に詰める。また、シアタールームを作りたいときは、遮音材でその室内だけ音を反響させる仕組みを利用しましょう。
開口部の遮音
防音で忘れてならないのが開口部、すなわちドアの部分です。防音ドアの多くは、廊下や他の部屋への音漏れを防ぐために、遮音材を使用しているものが多く使われています。
音漏れを防ぐためには、ドアと壁の間の隙間を無くすためのパッキンを使い、グレモン錠(レバーハンドルがロック機能を兼ねるドアノブ)を使用すると遮音効果が向上します。また、壁と同等の遮音性能のある防音ドアを採用することも、遮音効果を上げるためには大切です。
床の防振と遮音
一般的にRC建築物(鉄筋コンクリート)やSRC建築物(鉄骨鉄筋コンクリート)の床は、構造上防振が求められることが多いのが特徴です。一方木造建築物の場合は、材質の特性から遮音も必要となります。
RCやSRC建築物はコンクリートの比重が重く、遮音性能が高いのが特徴ですが、木造建築物はRCやSRC建築物と比較すると遮音性能が格段に下がります。そこで、遮音と防振性の高いゴム製の遮音マットが多く使用されます。
音が伝わる仕組み

戸建住宅や集合住宅などで、近隣の部屋や上層階の部屋から生活音が聞こえてきて不愉快な思いをしたことのある方も多いのではないでしょうか。
これは、音が空気や建物に伝わって聞こえてくることで起こります。
ここでは、音が伝わる仕組みについて解説します。
空気から伝わる『空気伝搬音』
空気伝搬音は、空気が振動することにより伝わる音のことです。
人の声やテレビや楽器などの、耳に入ってくる音の多くは空気伝搬音です。空気伝搬音の特徴は、音源から離れることでどんどん音が小さくなることです。次に解説する固体伝搬音についても、最終的に人の耳に入ってくる音は基本的に空気伝搬音となります。
物から伝わる『固体伝搬音』
固体伝搬音とは、壁や床、窓ガラスといった、固体を振動させて伝達される音です。
例えば、マンションなどの上層階で掃除をしている時に、コンコンと掃除機が壁や家具に当たって発せられる物音などです。また、テレビや音響設備などでも、重低音を床などに響かせ、振動させながら伝達する固体伝搬音もあります。
防音に必要な遮音・吸音・防振の関係

このように、防音には『遮音・吸音・防振』という3つの対策が重要です。
ここでは、それぞれのおすすめな使い方を解説します。
空気伝搬音を跳ね返すのが『遮音材』
遮音材は、空気伝搬音を跳ね返し室内の音を外に漏らさない建材で、外部の音が室内に侵入するのを防ぐ働きもあります。
遮音材は、空気伝搬音が振動して固体伝搬音となる前に音を跳ね返すことで音を遮断する方法です。
ただ、遮音だけでは室内で音が跳ね返って響くだけで、効果的な音響効果を得られません。そこで、吸音材と上手に組み合わせることが大切です。
遮音材は吸音材とは異なり、質量の重い鉛やコンクリートなどが一般的に使われます。
跳ね返った音を吸収するのが『吸音材』
吸音材は遮音材と混同されがちですが、室内で発生する音の反射を抑えながら「音を吸収して消す」という点で大きく異なります。
ただ、吸音材を多くするだけでは、音の反響が無くなって不自然な環境となる可能性があります。そこで、しっかりとした防音効果を得るために、遮音材と組み合わせることで音の反響を調整することが大切です。
固体伝搬音を遮断するのが『防振材』
防振材は、固体伝搬音が床や壁、天井などに伝わるのを遮断して、有害な騒音を消す役割を果たします。特に集合住宅でトラブルになりやすい、階段を駆け上がる音や床を歩く音を小さくします。
防振材としては、床に敷く防音のゴムマットなどが一般的で、冷蔵庫や洗濯機などの音が発生するものに直接貼りつけるケースもあります。
吸音材を使う際の注意点

吸音材は、大量に使うほど防音効果が期待できる反面、使い方を間違えると不自然な防音環境になってしまうケースがあります。そこで、以下で吸音材を施工する際の注意点を解説します。
湿気に注意
吸音材は、綿菓子やスポンジのような形状のため、多くの空気層があります。そのため湿気が多い場所に設置すると、空気層が水分を吸収してしまい、防音効果が減少したり、カビが発生して衛生上の問題が起こったりするケースもあります。
そこで吸音材を使う際は、部屋の湿度調整や設置場所などに注意が必要です。
吸音材の量に注意
吸音材を使用する場合には、床や壁、天井などの材質や、部屋の用途によって使う材質や量を加減する必要があります。前述したように、使いすぎは不自然な音のない環境になる恐れがあるため注意が必要です。
吸音材を貼る場所に注意
シアタールームや楽器などを楽しむ部屋では、音源(スピーカーなどの音がでるところ)の場所によって吸音材の貼る位置を考えなければなりません。
吸音材は、音を反響させたり消したりしながら、音響効果を調整するために使用します。そのため、貼る場所が適切でなければ、意図する音と違って聞こえることがあります。そこで、吸音材を貼る位置や量については、十分な計算の上で使用しましょう。
家具の配置や量に注意
家具を置いたり人が部屋にいるだけでも、部屋の吸音効果は変化します。特にRC構造やSRC構造の部屋は、音が響きやすい特徴がありますが、家具や人によって音が響きにくくなる可能性があります。そこで、音響効果を高めたい部屋などの場合は、吸音材の配置場所や量を正しく計算することが大切です。
吸音材の設置方法に注意
吸音材に使われる建材の特徴は、繊維状の柔らかい材質のものが多いところです。そのため、吸音材を壁などに固定する場合には、ただテープで留めるというわけにはいきません。また、固定する場所にも配慮が必要です。
吸音材のまとめ
このように吸音材で正しく防音するには、ただ吸音材を使うだけではなく、遮音材と上手く組み合わせることが大切です。また、材質だけでなく貼る場所や量も考慮する必要があります。
特に、防音工事は施工が完了してから行うと、大掛かりな工事となる可能性があります。そこで、新築時やリフォームを行う際などにあわせて行うのがおすすめです。また、生活音を軽減するためのリフォームであれば、バリアフリーにも対応しながら防音対策をするなど、複数のメリットを合わせてクライアントに提案するのも良い方法と言えるでしょう。
リフォーム工事は費用のかかる大掛かりな工事が多いため、できるだけクライアントの負担を減らしながらメリットの多い提案・販売をすることで、高い評価を得られておすすめです。
※ここに掲載されている情報は2023年6月時点のものであり、ご覧いただいている日と情報が異なる場合があります。あらかじめご了承ください。
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